かつては俺も
大理石に手を差し込んで
美のすべてを
ありのままに取り出した
優れた芸術家が
その英知に導かれるように
かつては俺も
美しいおまえに
この手を差し込んで
取り出すことが出来た
俺の痛みを和らげる やさしさ
小さくても輝く しあわせを
だが もはや この手では
望むものなど 何ひとつ
取り出すことは出来ないだろう
石の微笑 砕けるのは運命
頬が覚えている 涙の跡
それでも愛は 責められるべきではない
おまえのなかに
マリアの慈悲が
秘められていることも知っている
だが 今ではもう
燃え尽き 煙をあげている
俺のおろかな才能は
終わりのかけらを すこしずつ
取り出すことしか出来ないのだから
「おまえに手を差し込んで」
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475〜1564)