皇帝の4割は両性愛者? 劉邦にひざ枕していた謎の美少年【前編】

秦を倒し、項羽を討った、英雄劉邦は、晩年ひきこもりになっていた!?孤独な皇帝をひざ枕していた美少年とは?
劉邦の宦官』や『九度山秘録』で話題の、新進気鋭の歴史小説家・黒澤はゆまが、歴史のなかの美少年を追って世界中を飛び回る人気コラム!

ひきこもりの皇帝、劉邦のそばにいた美少年

私のふるさと宮崎は、登校ルートから外れた同級生が、目の前でイノシシの罠に引っかかったほどの田舎ですが、かつて、日本の田舎には「飲む打つ買う」すべてやるけど、冠婚葬祭と火事になったらやけに張り切るオヤジが必ず一人はいたものです。

行儀も口も悪い乱暴者だけど、酒の席では愉快だし、笑顔にどこか愛嬌があって、不思議に憎まれないという人。こういう人はアジアの田舎全般にいて、祭りの幹事や、消防団の団長とか、厄介事を任されたりしたものですが、前漢の創始者、劉邦はこのタイプの最上位モデルな人だったように思います。

沛(はい)の不良少年の頭目からはじまって、秦末の動乱に乗じ旗揚げ、時々大ポカをやったりもするのですが、その度に仲間たちに助けられ、艱難辛苦の末、秦を倒し、ついにはライバルの項羽を討って天下を取った。その英雄譚は、三国志と並んで、日本人の最も好む中国の物語のひとつです。

天下を取った後も、不良少年の野生は変わらず、愛人の戚(せき)夫人とのセックスの最中に、ひょっこり顔を出してしまった部下に馬乗りになり、「俺はどんな王様だ?言ってみろ」とどなりつけた逸話が残っています。

この時は部下の人が「暴君の桀(けつ)や紂(ちゅう)のような人です!!」と負けずにどなり返したもので、劉邦も呵々大笑、許してやりました。

天真爛漫、傲岸不遜。サトウキビをかじり、酒の入ったヒョウタンをかたむけながら、沛の街並を不良少年たちと棒組になって、のし歩いた気質は生涯変わらぬままでした。

しかし、晩年は孤独だったようで、ひとつエピソードが残っています。

死ぬ1年ほど前のことですが、重い病にかかった劉邦は、重臣を締め出し、寝室に引きこもってしまいました。無類の女好きにも関わらず、正妻の呂后や側室たちも、遠ざけたままです。

劉邦が姿を隠してから、一週間ほどもたった頃、劉邦のボディーガードを長年つとめ、漢軍のなかで最も勇猛な将軍だった樊噲(はんかい)がたまらなくなり、小門の門番の制止を振り切って後宮に突入。鳩舎の鶏のようにかしましく騒ぎたてる女官を追い払いながら、寝室の固く閉ざされた戸を、怪力でたたき壊しました。

「兄貴……」

そこで、樊噲が見たものは、なんとも異常な光景でした。

病にやせ衰えた劉邦が、何をするでもなく、1人の宦官のひざにまるで泣きべそをかく子供のように頭を埋めていたのです。かつての英雄のなんとも情けない姿でした。

樊噲はおいおい男泣きしました。

「兄貴、老いぼれて、沛で立ち上がったときの心意気を忘れたのか!天下を取った男がなんてざまだ。重病なのに俺たちと天下のことを相談せず、宦官一人を相手にくたばろうとしてるのか。秦の始皇帝の遺言を破った趙高のことを忘れたわけじゃないだろうに」

それを聞くと、劉邦は苦笑いしながら立ち上がり、樊噲と、いつの間に現れたのか、金魚の糞のようにぞろぞろと後ろに続く、灰色の顔をした大臣たちと、氷のように表情を凍てつかせている呂后とともに、朝廷の方へ歩き去っていきました。

あとには、劉邦にひざを預けていた宦官が、ただ一人残されました。何をするでもなく、皆が去って、ガランとなった部屋のなか、ぽつねんと寝椅子に座ったままで。

中国の歴史の裏にいる「宦官」という存在

上記は、劉邦を扱った本にはたいてい載っている、有名な話です。紹介されるときは「猜疑心のとりこになり、誰も信頼できなくなった、老いた英雄の哀れな末路」—そんなニュアンスで書かれています。

実際に、項羽を討ったあと、劉邦はかつての大親分の風格はどこへやら、韓信、英布、彭越、韓王信などの功臣を次々に粛清。樊噲すら、このエピソードの1年後、出征中に謀反を疑われ、殺されそうになっています。そのため、樊噲の悲劇に焦点をあてて、先のエピソードが語られる場合もあります。

しかし、いずれにせよ、この歴史劇のテーマは、あくまで劉邦の孤独や樊噲の無念で、ひざ枕していた宦官は「背景」扱い。決して彼にはスポットが当たることはなかったのです。

この名もしかと分からぬ宦官、彼に言わばカメラを向け、「あなたは誰?」「何を見たの?」そう問いかけながら、描いた作品が、私のデビュー作『劉邦の宦官』でした。

控えめで慎ましやかな彼は、なかなか自分のことを話してくれませんでしたが、書き終えたとき、確かにわたしは孤独な劉邦と、創業の活気に沸く長安、そして何よりも2千年、歴史の重い帳の向こうにいた、独りぼっちの宦官の姿を見たような気がしたのです。

彼の正体は何だったのか?

史書にか細く残された足跡をたどり、その正体を探りつつ、中国の少年愛についてご紹介していこうと思います。

13人中10人が経験者!?—歴史とともに始まった少年愛
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なぜ闘う男は少年が好きなのか

黒澤 はゆま
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なぜ闘う男は少年が好きなのか?

黒澤はゆま

洋の東西を問わず、戦乱の時代に決まって栄えた<少年愛>。死を賭して戦う英雄の側近くに控える、あるいは金髪の、あるいはブラウンの、あるいは黒髪の少年たち――。戦士は少年に何を求め、少年は戦士に何を答えたのか。時に英雄を生むこともあった、...もっと読む

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コメント

rtogai cakesの連載が好評の黒澤さんに、某サイトから歴史コラムの新連載のオファーが!詳細は追ってご報告します。 4年以上前 replyretweetfavorite

fudeyuu 美少年ひざ枕なんて異性愛者だって ええんやで?(ふとももポンポン) されたら あああ〜スライディングonひざ枕ぁ〜 4年以上前 replyretweetfavorite

otankousagi 『劉邦の宦官』は、サラッとは読ませてくれない作品でした。作者は「控えめで慎ましやかな彼」と主人公の事を仰って 4年以上前 replyretweetfavorite

hayumakurosawa cakes記事、「劉邦の宦官」書いてたとき思い出しながら書きました。色々と無我夢中で、稚拙なところもいっぱいある作品だけど、愛着のある作品。モデルの少年たちと久しぶりにあえて嬉しかった。 劉邦にひざ枕していた謎の美少年【前編】https://t.co/f1XorJmPTJ 4年以上前 replyretweetfavorite