僕は宇宙ゴミの問題を早く世界に伝えなきゃ、飛び回らなきゃと思った。
全然知られていないこの問題も 、地球温暖化問題のように政治も一般人も巻き込んだムーブメントにできないかと思っていた。
まず周辺の人に話し始めた。面白いと思ってくれた友人が、何人かを紹介してくれた。
会社を設立して9ヶ月ほどたったころ4つの講演の機会を頂いた。
–Asia Leaders Summit (日本とシンガポールの起業家や投資家向け)
–SSAシンポジウム(宇宙業界向け)
–Start up Asia(アジアの起業家や投資家向け)
–TED x Tokyo(世界向け)
当時の僕には十分な機会だった。問題はすべて英語だったこと。英語は話せるけどいつも500語くらいしか使っていない。
技術用語を使わずに、一般の人にも分かりやすく、そして思わず友達にも話したくなるようなスピーチってどうしたらいいだろう。イギリス人のコーチをつけて、言葉の選び方や間のとり方など、アドバイスをもらった。
練習のおかげか、僕の講演動画は何度もネット上で再生された。英語でチャレンジして良かった。世界中に伝えるいいきっかけになった。
その後、ASTROSCALEの活動はものすごいスピードで世の中に広まっていった。英字の新聞・雑誌に掲載され、それから日本の新聞・雑誌にも派生した。
今、僕は2週間に一度は世界のどこかで話している。アメリカ、中国、フランス、ドイツ、イスラエル、ロシア、日本、シンガポール・・。ひと月に3回も4回も機内泊するのは大変だけど、エコノミークラスでの寝方もうまくなった。
人の3倍働く。技術に100%、売上と資金繰りに100%、コミュニケーションに100%。合計300%!これが僕の時間割。それでいいのだ。
鋭い指摘・非難を受けることもある。必要な専門知識は多岐に渡る。まだ隅々まで勉強し尽くせていない。凹む。でも知らないままより、話して非難を受けたほうがいい。学べるから。
肉体的・精神的なしんどさよりも感謝の気持ちが大きい。この問題に共感する人が増えることへの喜び。講演会場も、数十人から100人規模へ、1000人規模へと大きくなってきた。講演後に「私は何をしたらいいでしょうか」と聞いてきてくれる人もでてきた。人の見る目も変わってきた。
僕は50mプールいっぱいに入った味噌汁を、爪楊枝でかき回し始めたようなものだ。1回回しても何にもおこらない。10回回すと小さな渦ができた。100回回したらなんとなく、止まらない渦ができ始めた。
1000回、10,000回にしたら?大きな渦ができるんじゃないかな。
毎回全力投入。講演の内容は毎回変える。話す相手の仕事、年齢、国籍などによって興味は違うのだから。
講演をするとき、いつも頭の片隅に思う女性がいる。
自動車のワイパーを発明したメアリー・アンダーソン。雨や雪の日に手で掻くのは危ないと考えた。1903年に特許を取った。でも、自動車メーカーはどこも相手にしなかった。むしろ、気が散るから危険だとすら言われた。
当時は車の台数は少なく、「速い」ことこそが車の真骨頂だった。安全が謳われるようになったのは、1950年代のことで、シートベルトもその頃だ。今は車の数が多く、ワイパー設置は法律で定められている。
宇宙もまた同じだと思ってる。
地上には車の交通管制システムがある。
海には船の海上交通管制システムがある。
空には飛行機の航空交通管制システムがある。
なのに、宇宙には衛星・宇宙ゴミの交通管制システムがない!
ロケットの値段が下がっている。衛星開発コストが下がっている。より多くの国が衛星を持ちたいと思っている。インターネットも宇宙経由になる。宇宙の交通は、衛星やゴミのせいで加速度的に混雑する。
高速道路で車が事故を起こしたらもちろん撤去する。高速道路には法律も、通行料も、保険も、パトロールカーも、クレーンもある。
なのに、衛星の高速道路である「軌道」には何もない。だから僕たちASTROSCALEは宇宙のJAFになろうと思っている。
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