第4回】有料だからできること。

前回のインタビューで、ついに cakes のサービスについて語ってくれた加藤さん。いよいよ最終回となる今回は、読者の方々がいちばん気になっているであろう質問をぶつけた。そう、「お金」だ。cakesは週150円の定額課金制。どうして無料コンテンツがあふれるインターネット空間にあって、cakes は有料の道を選んだのか? その答えには、「編集者・加藤貞顕」の高い志を垣間見た気がした。

市場があってこそ、コンテンツが生きる

— じゃあ、読者の方々がいちばん聞きたがっているはずの質問、そして加藤さんがいちばん答えづらいかもしれない質問をします。  そもそも cakes は、どうして定額課金制なんでしょうか?

加藤 やっぱり、そこは気になりますよね。

— はい。これだけ〈FREE〉の価値観が浸透したインターネットの世界にあって、違和感を覚える読者も多いと思うのですが。

加藤 うーん、そうですね。結論から先にいっちゃうと、ぼくはインターネット上に「あたらしいコンテンツの市場」をつくらなきゃいけないと思っているんです。

— 具体的にいうと?

加藤 インターネットが生まれたことで、クリエイターが自分の作品を発表する「場」はできたように見えます。ホームページ、ブログ、SNS などですね。
 ところが、まだまだそれを売買するための「市場」は整備されていません。だからクリエイターたちは、インターネットを宣伝・告知の場だと割り切って考えるようになる。

— たしかに、ネットメディアに寄稿している方々も、原稿料目的というよりは、宣伝・告知のほうが主眼になっている気がします。

加藤 でも、インターネットを宣伝・告知の場として活用するだけで終わらせるなんて、もったいないですよね?
 だってコンテンツって、本来ものすごくオンラインになじみやすいはずなんです。小説やエッセイにせよ、マンガにせよ、写真にせよ、あるいは映画やゲームにせよ。

— 服や冷蔵庫をデジタル化することはできないけど、コンテンツはデジタルデータにできますからね。

加藤 なのに読者が本やマンガを買おうとするとき、現時点では印刷物ベースのコンテンツを買うしかない。電子書籍も「印刷物ベース」であることには変わりがありません。これは、デジタルコンテンツの世界に、まだしっかりとした「市場」がないからです。
 さらに問題なのは、そこに確かな「市場」がないと、プロのクリエイターたちも安心して自分の作品を提供できないことです。最高のコンテンツを届けるためには、まず「市場」の整備から着手しないといけないんですよ。

— うーん、たしかに。  

加藤 誤解してほしくないのは、これって紙の市場を奪おうとか、そういう話じゃないんです。紙とは別の、まったくあたらしい市場をつくりたい。

— パイを奪い合うのではなく、むしろパイを広げるのだと。

加藤 ええ。かつて、インターネットでモノが買えない時代がありました。いまやインターネットで洋服や家電を買うのは当たり前の時代になっていますが、それもせいぜい90年代後半からで、実質的には Amazon が日本に上陸した2000年あたりからなんですよね。

— ああ、僕もはじめてインターネットで買い物をしたときのドキドキはよく覚えてますよ。98年くらいかなあ、CD を1枚だけ買ったんですよね。2枚ほしかったけど、なんだか怖くって(笑)。

加藤 そのへんの時代感覚、同級生だからわかるでしょ?
 それでね、ぼくはあと10年もしないうちに「そういえば、インターネットでコンテンツが買えない時代があったよね」って思い出話をするようになると思ってるんですよ。

編集者の目で見たウェブの世界

— でも、クリエイターにギャランティを保証するだけなら、広告課金モデルを採用して読者には無料で閲覧してもらう、という選択肢もありますよね?

加藤 はい。それも当然出てくる質問だと思います。
 まず身もフタもない話をすると、広告課金モデルってほとんど儲からないんですよ。少なくとも、クリエイターの方々にしっかりとしたギャランティをお支払いするには、かなり不安定なビジネスモデルなんです。企業の宣伝・広報物としてのサイトだったらそれでもいいのでしょうけど。

— それはサイトのアクセス数が増えたとしても?

加藤 ええ。それからもうひとつ、編集者的な視点で見ても、定額課金制のほうが望ましいんです。
 広告課金モデルって、要するにページビューやバナー広告のクリック数など、「数」に応じて収益が決まるビジネスモデルのことですよね? そうやって「数ありき」の発想でサイトを構築すると、ちょっと困ったことが起こるんですよ。
 たとえば、コンテンツあたりのページビューをもっと稼ごうとするとき、どうすればいいかわかります?

— ああ、本来1ページにおさまるはずのコンテンツを何ページにも分割して、ページビューを稼ぐ手法か。新聞サイトなどでよくやっていますね。何度も「次のページへ」をクリックしないといけないし、読みづらいです。

加藤 ユーザビリティがよくないし、ちょっと優先順位が違いますよね。それから広告課金だと、コンテンツの目立つ場所にバナー広告が貼られることになります。

— そうなんですよねえ。

加藤 ぼくは経営者であると同時に、現役の編集者でもありたい。だからクリエイターの方々には、最高の「場」を提供したいんです。よりシンプルで、より美しい空間に、最高の作品を。よく例に出して笑われるのですが、小説家の伊坂幸太郎さんやマンガ家の井上雄彦さんのような方が、安心してご自身の新作を、しかも渾身の新作を発表できるような場にしていきたいんです。

— なるほど。有料だからこそ、コンテンツの魅力を最大限に引き出すことができるのか。広告課金が民放テレビだとすれば、定額課金はNHKや衛星放送のようなイメージなのかな。それは納得しやすいし、健全な話ですね。

加藤 そして結局、好きなクリエイターのコンテンツを、しかも最高のコンテンツをインターネット上で買えることは、読者の利益にもかなうはずなんです。

— cakes のサイトデザインがおしゃれな理由も、そのへんにつながりますね。

加藤 サイトのロゴやデザイン、そして機能についても、シンプルさと読みやすさを追求しました。たとえば、文字の大きさや背景色、1行あたりの幅を、ユーザーの好みに応じてカスタマイズできるようにしています。(開発中のベータ版を操作しながら)ほら、この黄色いサイドバーをクリックすると……。

— おお、背景が4色から選べるのか。フォントサイズも行幅も自由に変更できる。ちなみに、加藤さんが気に入っている背景色は?

加藤 パソコンで読む場合はデフォルトの白かな。iPad で読む場合は、意外と黒い背景も読みやすいんですよ。

— たしかにタブレットだと利用環境も変わるし、背景色や行幅を自由にカスタマイズできるのはいいですね。利用シーンまで考えて、細かいところも作り込んである。

加藤 購読申込みの流れもかなりシンプルですよ。住所や職業はもちろん、氏名の入力も必要ありませんから。購読申込みに必要なのは、基本的にメールアドレスと決済情報(カード番号)だけです。これも読者の方々からすると、かなり大きなポイントじゃないかな。

クリエイター本位の報酬設定

— ちなみに購読料はいくらにする予定ですか?

加藤 現在のところ、週150円の定額制でスタートする予定です。4週間で600円ですね。

— 月額制を採用するネットメディアが多いなか、週150円の根拠と妥当性は?

加藤 システム的な話をすると、運営サイドとしても月額制のほうが簡単なんですよ。でも月額制だと、ユーザー側から見た場合に入会のタイミングが難しくなる。当初は月額制も検討したのですが、料金体系についても新しいスタンダードを提示しようと、週額制にしました。  あと、150円という料金はペットボトル1本分です。著名人の有料メルマガがほぼ月840円くらいなので、決して高くないでしょうし、コンテンツが増えていくほど割安感が出てくるのではないでしょうか。

— ということは、コンテンツごとに購読するのではなく、ユーザーは cakes 内のコンテンツを読み放題ってことなんですね?

加藤 もちろんもちろん。コンテンツごとの課金だったら気持ちよく「出会う」こともできませんから。

— うーむ。それって読者からするとすごくありがたいことですが、執筆者側の立場に立つと、ひとつ疑問が出てきます。コンテンツが増えるほど、原稿料を支払うべきクリエイターの数も増えていきますよね? むしろコンテンツごとの課金にしたほうが、原稿料の設定も明確になるのでは?

加藤 そこはデジタルの強みが大いに発揮されるところです。まず、cakes では購読料の60パーセントをクリエイターに還元します。

— えっ、60パーセント!?

加藤 はい。仮に今月1000万円の収益があったとしたら、600万円はクリエイターに還元する。

— すごい話ですね。

加藤 60パーセントの分け方は3つ。まずは掲載時にお支払いする原稿料。次にページビューに応じて分配するインセンティブの部分。まあ、わかりやすくいえば印税のようなものですね。

— そうか、ページビューが正確にカウントできるから、公平なインセンティブの分配ができるわけですね。

加藤 そして最後がマーケティングフィーです。
 これはクリエイターの方に、ご自身のブログや SNS などで宣伝していただいて、そこから購読へとつながった場合に発生する報酬になります。わかりやすくいうと、アフィリエイトみたいなイメージかな。クリエイターの方に専用の URL をお配りして、その URL 経由で購読が成立した場合には一定の報酬をお支払いするシステムです。

— なぜ原稿料と印税だけで終わらせず、マーケティングフィーまで導入することにしたんでしょう?

加藤 これまでマーケティングは出版社が担ってきたわけですが、もうそのシステムにも限界が近づいてると思うんですよ。マーケットが細かくセグメント化されてしまった現在となっては、かつてのようなマス・メディアを通じたプロモーションだけでは「届くべき人」に届かない。このあたりは、ぼく自身も『もしドラ』の担当編集者として、さまざまなプロモーションを展開するなかで痛感したことなんですが。

— 紙の本も、昔みたいに新聞広告だけで売れる時代ではなくなりました。

加藤 各セグメントによって、届く言葉のトーン&マナーが違うんです。
 そして、あるコンテンツにもっとも適したセグメントはどこなのか、そしてそこに届く言葉のトーン&マナーはどんなものなのかを知っているのは、他の誰でもないクリエイター自身だと思うんですね。
 だからぼくはクリエイターの方々にもマーケティングの意識を持っていただきたいし、そうした貢献に報いるシステムを準備しておきたかったんです。

— でも、さっきのたとえでいえば伊坂幸太郎さんや井上雄彦さんのような方にも「ご自分で宣伝してください」とお願いするわけですか?

加藤 もちろんご本人に宣伝していただけたらたいへんありがたいんですが、先にお話ししたように、cakes では作品づくりに携わったクリエイターチームの全員にインセンティブをお支払いしたいんですよ。

— ほう、どういうことでしょう?

加藤 簡単に説明すると、たとえば古賀さんが cakes で連載を持ってくださるとする。このとき、もし必要があれば、自分の好きな編集者やイラストレーターの方々とチームを組んで連載していただくことができるんです。
 それで著作権は誰にあるのか、インセンティブ(印税)の配分は何パーセントずつにするのか、などをチーム内で話し合って決めていただきます。
 仮に古賀さんが5割、編集者が3割、イラストレーターが2割という配分なら、そのパーセンテージに従って毎月報酬が振り込まれる、というシステムです。そして、たとえば忙しい作家さんにはコンテンツづくりに専念してもらって、マーケティングを受け持つのは、編集者中心にするのがいいのかもしれない。そのあたりはプロジェクトごとに考えていただくつもりです。

— それはおもしろい!

加藤 しかも、この作業をすべてオンライン上でおこなえるようにしています。Facebookのグループをつくるような手軽さで、お金の配分から契約まですんでしまうんですよ。だから古賀さんが沖縄の編集者さんと組もうが、北海道のイラストレーターさんと組もうが、みんな自宅にいながら契約書にサインすることができるんです。

— へぇー。そんなところまで見越してるのか。そのへんの制度設計は、さすが編集者ですね。

読者の一人ひとりが編集長になる時代

加藤 きっと出版業界にいる人は、みんなうすうす感じているはずなんですよ。「このままじゃよくない、どこかで変えなきゃいけない」って。デジタル化・電子書籍化の流れは、過去のシステムを大きく変える絶好のチャンスだと思いますよ。

— 加藤さんの話を聞いて、まさにチャンスなんだと僕自身勉強になりました。それでは最後に、cakes というサイト名の由来を教えてください。

加藤 会社の名前が「株式会社ピースオブケイク」だというのはもちろんあるのですが、ケーキ屋さんのショーウィンドウをイメージしてるんですよ。

— ああ、いいですね。

加藤 これまでの重厚長大な〈本〉を大きなホールケーキだとすると、このショーウィンドウに並んでいるのは切り分けられたケーキです。
 いちごのショートケーキ、レアチーズケーキ、ガトーショコラ、フルーツタルト、モンブランなどなど、たくさんのケーキが並んでる。そして自分の食べたいものをいくつもチョイスして、心ゆくまで味わっていく。なんかね、そんな空間にできればいいなと思っているんです。

— グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』じゃないけど、好きなだけ選んで、好きなだけ食べられる。

加藤 うん。cakes の「編集長」は読者その人なんですよ。

— ああ、そうかそうか。僕の cakes を編集するのは、僕なんですよね。しかも自動的に、パーソナルソーティングのシステムで。

加藤 そう。だから購読を続けていくほど、これまでにない読書体験ができるはずだと思います。

— 読者でありながら、編集長でもある。なるほど、おもしろいに決まってますね。

加藤 期待に応えられるよう、これからもがんばります。

— いやー、楽しかったです。今回はどうもありがとうございました!

加藤 こちらこそ、ありがとうございました。古賀さんもなにか連載、お願いしますよ。

— もちろん!

加藤 よーし、いまの言葉、録音してありますからね(笑)。

— ははは。おもしろい連載、一緒に考えましょう!

(了)

 

加藤 貞顕(かとう・さだあき)
ピースオブケイク代表取締役CEO・編集者。アスキー、ダイヤモンド社で雑誌、書籍、電子書籍の編集に携わる。おもな担当書は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『スタバではグランデを買え!』『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』『英語耳』など。独立後、2011年12月に株式会社ピースオブケイクを設立。コンテンツ配信サービス cakes の正式オープンに向けて準備中。
個人サイト http://sadaakikato.com/
会社サイト http://www.pieceofcake.co.jp/

インタビュー
古賀 史健(こが・ふみたけ)

フリーランスライター。1973年生まれ。一般誌やビジネス誌で活動後、現在は書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、実用書、ビジネス書、タレント本などで数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズ(講談社)は累計70万部を突破。2012年、初の単著となる『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)を刊行した。
ブログ「FUMI:2」も随時更新中。 http://www.office-koga.com

写真

公文 健太郎(くもん・けんたろう)
フリーカメラマン。1981年生まれ。自由学園卒業 (ポレポレタイムス社所属) 。1999年植林活動でネパールを訪れたことをきっかけに、以来8年に渡ってネパールカブレ地区の農村を尋ね、撮影活動を行う。現在はフリーカメラマンとして、雑誌・書籍の撮影を手掛ける一方で、国内外の被写体 をテーマに作品制作中。2012年、日本写真協会新人賞。
オフィシャルサイト http://www.k-kumon.net

ケイクス

この連載について

初回を読む
cakesが見つめる「普通」の未来

古賀史健

 数年来の友人でもある加藤貞顕さんから独立の話を聞かされて以来、一度正面からインタビューしたいと思っていた。加藤さんといえば、社会現象にもなった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著/ダ...もっと読む

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