——1年後
「いってきます」
「あっ、浅井さんも出るんすね。僕もちょうど出るとこなんで一緒にいきましょう」
慌てて背広を袖に通しながら草加が言った。
「じゃあ、エレベーターの前にいるね」
美沙はホワイトボードに“トッキン”と記載しエレベーターホールへ向かう。エレベーター到着のタイミングで草加が現れた。
「お待たせしました。おっ、ナイスタイミング」そう言って草加は美沙に続いて駆け足で乗り込む。
「浅井さん今日トッキンの搬入っすよね」
「うん。草加くんはミツカワの搬入でしょ?」
「はい」
「じゃ今夜ね」
「そうっすね」
草加と別れた美沙は千代田線へと軽快に進んだ。新調したばかりのハイヒールが美沙の気持ちを軽やかにしていた。お気に入りのものを身につけているだけで気分が上がるのが女子だ。
トッキンの担当になったのは半年前の夏だった。あのときは暑くてハンカチが手放せなかった。あれからもう50回は降り立っていた。多いときには週4でトッキンに通った。改札を出ると既にエンジニアの春野の姿があった。
「おはようございます、春野さん」
「おはよう。今日はいい天気で気持ちがイイな」
「はい」
天気なんかに左右されたくはないと思いつつも、やはり天気がいいと気分も上がるというものだ。
青空の下、世間話をしながら歩くこと20分。