99年のヒット作『シックス・センス』で知られる、M・ナイト・シャマラン監督の新作ホラー映画が『ヴィジット』である。ここ数年、いまひとつ本調子ではなかった彼だが、本作によってほんらいの輝きを取り戻すことに成功したといえるだろう。制作費に1億5千万ドルを投じた『エアベンダー』(’10)、1億3千万ドルをかけた『アフター・アース』(’13)を経て、本作は、5百万ドルという低予算で製作された小規模の作品である。
『ヴィジット』は、初めて会う祖父母の家を訪ね、そこで一週間をすごすこととなった姉弟の物語だ。映画監督志望の15歳の姉は、祖父母の家にカメラを持参し、ペンシルバニアの田舎町を撮影してまわる(作品は、姉弟の持ち歩くハンディカメラで撮影した映像として提示される)。当初は親切におもえた祖父母だったが、姉弟は夜中に響き渡る不気味な物音を耳にし、家全体からただならぬ不穏を感じ取っていく──。
まずは、このような新鮮さに満ちたフィルムに出会えたことの快哉を叫びたい。映画に意外性と新しい発見を求める数多くの観客にとって、『ヴィジット』は、もぎたて果実のごときフレッシュさを持つ作品である。あまりに自由度が高く、ユーモアにあふれ、無数のアイデアに満ちた本作は、結果的に、あらゆる場面がサプライズの連続となっている。恐怖/笑い/驚きといった感情の揺れは、ひとつの物語のなかでシームレスに共存可能なのだとあらためて確認させられる作品だ。
先ほど便宜上「ホラー映画」と説明したが、『ヴィジット』はジャンル分けが難しい。恐怖を感じさせると同時に、すぐれてコメディ映画的であり、子どもたちの抱えたカメラが撮る映像はドキュメンタリーのようでもあり、その物語全体からはサスペンスの構造を見て取ることもできるためだ。それらすべての要素は、94分の上映時間を通して観客を魅了しつづける。何と豊かなフィルムかと圧倒されるばかりだ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。