ドリカムが世代を超えてヒットする理由
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今年のドリカムって、ちょっと事件ですよね。ベスト盤がめちゃめちゃ売れてる。
柴那典(以下、柴) ですよね。7月に出た『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』が90万枚を突破して、今もTOP10にランクインしている。ひょっとしたら今年最大のセールスになるかもしれない。
大谷 ビックリしましたよ。今の時代、こんなにCDが売れるんだって。
柴 全部のレーベルを網羅した初のオールタイム・ベストということで「これは持っておかなきゃな」という商品性の高さがあるんでしょうね。
大谷 それに彼らは世代を超えて受け入れられている。キャリアを重ねたアーティストって、ファンも一緒に歳をとっていくことが多いじゃないですか。でもドリカムは、いまだに10代の子が「大阪LOVER」をカラオケで歌うんです。2007年に出た時にはそこまで大ヒットしてない曲なんですけど、口コミで広まったらしいんです
柴 そうなんだ。なんでそこまで広まったんでしょうね。
大谷 この曲って、遠距離恋愛の曲なんですよ。大阪に住んでる男に会いに行って、好きな人のために一生懸命に大阪弁で話す。すごく具体的な状況設定が出てくるんです。
柴 「いつもはいてるスウェット 今日も家へ直行か…」とか「東京タワーだって あなたと見る通天閣にはかなわへんよ」とか「何度ここへ来てたって 大阪弁は上手になれへんし」とか。すごく一途な女の子ですよね。キュンキュンくるなあ。
大谷 そう! めちゃくちゃエモいんです。「覚悟はもうしてるって 大阪のおばちゃんと呼ばれたいんよ」とか。
柴 頭の中で思わずmisonoの声で再生されますね、このフレーズ。
大谷 ははははは! misonoは大阪の子ですけどね。でも、これを歌う10代の子も、必ずしも同じ境遇だから共感するわけじゃなくて、そこにある切ない思いにシンクロするわけですよ。ポップスって、実は固有名詞を使った具体的な描写であればあるほど、その時の思いが伝わりやすいんです。
阿久悠さんが書いた「津軽海峡冬景色」の「上野発の夜行列車おりた時から 青森駅は雪の中」というフレーズも同じ。僕、一度も行ったことのない上野駅のホームを思い浮かべましたもの。
柴 確かに、行ったことがない場所や知らない固有名詞でも、そこにちゃんと物語や感情が謳われれば、特別な言葉や情景が浮かぶ。
大谷 そうそう。歌詞にはみんなが知ってる言葉を使ったほうがいいんだ、って思われがちだけど、実はそうじゃない。
柴 「J-POPの歌詞の“翼広げすぎ”問題」とか、ちょっと前に言われてましたよね。「会いたい」とか「君と出会えた奇跡」とか「瞳を閉じて」とか、そういうありきたりな言葉ばっかりだ、と。でもポップスの本質はそっちじゃない。
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