東大駒場寮物語

9】コマ猫と寮生

「古く、汚く、キテレツ……それでも彼らは、自分たちの居場所を守ろうとした」。明治、大正、昭和の昔から、著者が過ごした1990年代、そして廃寮までの駒場寮の歴史とそこに生きた学生たちを描くノンフィクション『東大駒場寮物語』(KADOKAWA)が今冬発売となります。本連載では、その一部を抜粋してご紹介していきます。


(廃寮直前まで寮で暮らしていたコマ猫・サブリナ。写真提供/小泉将司)

 人類のベストパートナーは犬だと言うが、コマ寮生の友はだいたい、猫だった。いつの時代も寮の周りには、何匹かの猫が暮らしていた。彼ら、彼女らは「コマ猫」と呼ばれた。寮をよく知らない学生たちが「コマ寮の連中はネコを鍋に入れて食ってるらしい」という根も葉もないデマを流すことがあっても、寮生と猫たちとの友情に変わりはなかった。コマ猫たちは、多くの人から何かしらえさをもらって、それほど厳しい生存競争にさらされていないためか、痩せてはおらず、やさしい目をしていた。

 「理Ⅰ、文Ⅲ、ネコ、文Ⅱ」というのは、駒場キャンパスで学生が使うフレーズのひとつである。教養学部から専門課程に進む際には、進学振り分けという制度が待っている。人気のある学科に進むためには、高得点が必要となるため、理Ⅰ(理学部・工学部系)や文Ⅲ(文学部・教育学部・教養学部教養学科系)の学生はよく勉強する。一方で、経済学部進学が約束されており(93年当時)、かつ、公務員試験や公認会計士試験などを選択肢に入れていない文Ⅱ生は、勉強もせず、北寮前あたりでごろごろしているコマ猫よりもヒマ、という意味である。

 ところで、コマ寮生といえば、通学時間ゼロという抜群の環境にいながらも、講義に出ない者が多いものと、ずっと思われてきた。実際にはどうであったか。統計を取ったわけではないが、確かにイメージとしては、夜行性の猫のような寮生が多かったかもしれない。

 加藤晋介(74年入寮、弁護士)の回想によれば、70年代半ば、寮委員会室では「栃の嵐」という名の太ったトラ猫が飼われていた。あるとき、数学好きだった寮生が、数学の問題を幾日考えても解けないことから、ヒステリーを起こし、栃の嵐を2階から地上に叩きつける、という事件があったという(ひどい話だ)。栃の嵐はしばらく気絶した後、十分ほどしてよたよたと立ち上がり、どこかへと消え、もう二度と寮委員会室に姿を見せることはなかった。


(サブリナと寝食を共にした97年-01年の小泉将司。95年に生まれ、2012年まで生きた。
この経験がきっかけとなり、現在小泉は野良猫・捨て猫の保護/サイトによる里親探し/
避妊・去勢手術の奨励等の啓蒙活動等を行うボランティア団体で活動している。
なお、最後の同室者は他大卒の中川淳一郎だった=https://cakes.mu/posts/1914。写真提供/小泉将司)

寮の朝


松本博文『東大駒場寮物語』(KADOKAWA)、12月10日発売決定!


オオスキトモコさんによる、廃寮直前の駒場寮の写真集、発売中!
併せて駒場寮のミニ写真展を11月21日「デザインフェスタ」@東京ビッグサイトで開催!
(場所は西ホール・A-13になります)

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東大駒場寮物語

オオスキトモコ /松本博文

ムツゴロウ、野田秀樹、堀江貴文、小池龍之介など様々著名人が巣立った日本最古の大学寮は、著者が入学した93年には廃寮計画が進められていた。寮にまつわる数多の史実を交え描く、筆者たちの実録青春記。

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コメント

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 4年以上前 replyretweetfavorite

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 4年以上前 replyretweetfavorite

koguus 最高かよ|"たまに同じクラスの女の子が、教室に向かう前に寮に寄って、起こしに来てくれていた。「松本君、起きようよー。フラ語だよー。必修だよー」と女の子が言う。「いやごめん。[…]おれはダメ人間だから、もうほっといてくれていいよ」" https://t.co/lYyo3rXQdQ 4年以上前 replyretweetfavorite

nekomick18 没後4年目にして、うちの猫様が書籍に紹介されることになりました。: 4年以上前 replyretweetfavorite