(廃寮直前まで寮で暮らしていたコマ猫・サブリナ。写真提供/小泉将司)
人類のベストパートナーは犬だと言うが、コマ寮生の友はだいたい、猫だった。いつの時代も寮の周りには、何匹かの猫が暮らしていた。彼ら、彼女らは「コマ猫」と呼ばれた。寮をよく知らない学生たちが「コマ寮の連中はネコを鍋に入れて食ってるらしい」という根も葉もないデマを流すことがあっても、寮生と猫たちとの友情に変わりはなかった。コマ猫たちは、多くの人から何かしらえさをもらって、それほど厳しい生存競争にさらされていないためか、痩せてはおらず、やさしい目をしていた。
「理Ⅰ、文Ⅲ、ネコ、文Ⅱ」というのは、駒場キャンパスで学生が使うフレーズのひとつである。教養学部から専門課程に進む際には、進学振り分けという制度が待っている。人気のある学科に進むためには、高得点が必要となるため、理Ⅰ(理学部・工学部系)や文Ⅲ(文学部・教育学部・教養学部教養学科系)の学生はよく勉強する。一方で、経済学部進学が約束されており(93年当時)、かつ、公務員試験や公認会計士試験などを選択肢に入れていない文Ⅱ生は、勉強もせず、北寮前あたりでごろごろしているコマ猫よりもヒマ、という意味である。
ところで、コマ寮生といえば、通学時間ゼロという抜群の環境にいながらも、講義に出ない者が多いものと、ずっと思われてきた。実際にはどうであったか。統計を取ったわけではないが、確かにイメージとしては、夜行性の猫のような寮生が多かったかもしれない。
加藤晋介(74年入寮、弁護士)の回想によれば、70年代半ば、寮委員会室では「栃の嵐」という名の太ったトラ猫が飼われていた。あるとき、数学好きだった寮生が、数学の問題を幾日考えても解けないことから、ヒステリーを起こし、栃の嵐を2階から地上に叩きつける、という事件があったという(ひどい話だ)。栃の嵐はしばらく気絶した後、十分ほどしてよたよたと立ち上がり、どこかへと消え、もう二度と寮委員会室に姿を見せることはなかった。
(サブリナと寝食を共にした97年-01年の小泉将司。95年に生まれ、2012年まで生きた。
この経験がきっかけとなり、現在小泉は野良猫・捨て猫の保護/サイトによる里親探し/
避妊・去勢手術の奨励等の啓蒙活動等を行うボランティア団体で活動している。
なお、最後の同室者は他大卒の中川淳一郎だった=https://cakes.mu/posts/1914。写真提供/小泉将司)
寮の朝
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