東大駒場寮物語

6】同室者たち

「古く、汚く、キテレツ……それでも彼らは、自分たちの居場所を守ろうとした」。明治、大正、昭和の昔から、著者が過ごした1990年代、そして廃寮までの駒場寮の歴史とそこに生きた学生たちを描くノンフィクション『東大駒場寮物語』(KADOKAWA)が今冬発売となります。本連載では、その一部を抜粋してご紹介していきます。


(寮委員長室で焼きそばをつくっている著者。写真提供:松本博文)

 駒場寮での私の同室者は、前述の通り、小倉で同じ予備校に通っていた黒川博之と光内法雄だった。

 黒川は三人兄弟の真中で、上には立教大に通うお兄さんがいた。お兄さんはワンダーフォーゲル部で、池袋のキャンパス内のサークル部屋におじゃましたことがある。ひげを生やした男たちが煙草を吸いながら、昼間から延々と麻雀をしていた。自分の抱く大学生のイメージそのままだった。

 黒川も大学に入ると髪とひげを伸ばし、人目をひく風采になった。当時のサッカー日本代表のラモス瑠偉に似ていたので、周囲からは、「駒場のラモス」と呼ばれていた。

 黒川の弟さんとはかつて、焼き鳥屋で一緒に飲んだことがある。「イケメン」という言葉は当時はなかったが、細身でカッコよかった。弟さんはその後、「バンバンバザール」というバンドのメンバーとして有名になり、現在も活躍を続けている。ウェブ上で写真を拝見すると、当時とはずいぶんイメージが変わっている。こういう場合は、貫禄がついた、と表現するのだろうか。

 二人で写真文化会というサークルの新歓に行き、確か学生会館の一室で、焼き肉をごちそうになった。学生会館はサークル部屋などがある学生の自治空間で、寮から歩いて1分もかからない。七輪の煙が室内にもうもうと立ち込めて、参加者みんなでスプリンクラーから水が降ってこないか、気にしていた記憶がある。黒川は写真文化会に入って、自分は入らなかった。当時の部室の壁には、そのときのポラロイドが貼ってあり、自分の顔には矢印が引かれ、「食い逃げ野郎」というメモがされていたと、後に黒川に教えてもらった。

 もう一人の同室者の光内法雄は、大分県の岩田高出身。風貌は、若い時の大江健三郎か、くるり(というバンド)のボーカルの岸田繁に似ている。見るからに真面目そうなのだが、話をすれば面白い男だった。読書家であり、私が読んだことのないような本を、すでに高校時に一通り読んでいた。光内が本棚に並べていた高橋和巳の著書を借りたことがあるが、冒頭からあまりの陰気さにいやな気分になり、当時は読み進めることができなかった。

 科類は全員文系で、私は文Ⅰ、黒川は文Ⅱ、光内は文Ⅲである。3人ともフランス語選択で、クラスには比較的、女子が多かった。光内はクラスの女子から「のりピー」と呼ばれていた。このメガネ男がのりピーなのかと正直驚いたが、意外と人気があるようで、たいしたものだと思った。

 新しい部屋


松本博文『東大駒場寮物語』(KADOKAWA)、12月10日発売決定!


オオスキトモコさんによる、廃寮直前の駒場寮の写真集、発売中!
併せて駒場寮のミニ写真展を11月21日「デザインフェスタ」@東京ビッグサイトで開催!
(場所は西ホール・A-13になります)

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東大駒場寮物語

オオスキトモコ /松本博文

ムツゴロウ、野田秀樹、堀江貴文、小池龍之介など様々著名人が巣立った日本最古の大学寮は、著者が入学した93年には廃寮計画が進められていた。寮にまつわる数多の史実を交え描く、筆者たちの実録青春記。

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cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 約4年前 replyretweetfavorite

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 4年以上前 replyretweetfavorite

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 4年以上前 replyretweetfavorite

cafe_petit 「東大駒場寮物語」本日更新です。今回は松本さんの写真です。 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 4年以上前 replyretweetfavorite