東大駒場寮物語

8】麻雀亡国論VS麻雀興国論

「古く、汚く、キテレツ……それでも彼らは、自分たちの居場所を守ろうとした」。明治、大正、昭和の昔から、著者が過ごした1990年代、そして廃寮までの駒場寮の歴史とそこに生きた学生たちを描くノンフィクション『東大駒場寮物語』(KADOKAWA)が今冬発売となります。本連載では、その一部を抜粋してご紹介していきます。



(寮誌に投稿された、麻雀興国論)

 大学の寮に限った話ではないが、昭和の昔、男が共同生活を送る場所において、人気のある娯楽の代表格は麻雀だった。戦中時に駒場寮で暮らした、詩人で芥川賞作家の清岡卓行は、以下のように回想している。

<「二十歳のエチュード」を書いて自殺した原口統三君たちと廊下の電球からコードを引いてマージャンをやった。寮監役で、後に「ビルマの竪琴」を書いた竹山道雄先生に見つかったこともありました。先生はギロリとにらんだだけで見逃してくれたなぁ。>(『朝日新聞』1993年11月23日朝刊)

 明治以来の長い自治寮の歴史の中で、この時期だけは軍部からの圧力をかわすため、「寮主任」という名で、教師が寝泊まりをしていた(このことは本書、第2章にて詳述)。

 南極の昭和基地でも、麻雀は人気だった。

 ただし麻雀ぎらいの西堀栄三郎(第1次南極越冬隊長、当時京都大理学部教授)はあまりいい顔をしなかった。西堀は隊の11人の中では最年長の54歳で、若い隊員たちからは煙たがられる役回りだった。西堀の命令で、連絡船「宗谷」の中では麻雀禁止だった。昭和基地では立見辰雄(当時東大助教授)が、ためしにやってみたい、と許可を求めて、その後はなし崩し的に解禁となる。

 西堀は日誌の中で、綿々と愚痴を綴っている。

<(1957年5月19日)きのうからブリザードつづく。雪は重い。きょうは休暇の最終日で日曜日だというのでみな朝寝。便所に雪入り、除雪。自分で朝食つくり、昼食と兼用。マージャン大はやり。
 休み中何もできなかったというが、マージャンだけは皆勤か。この基地からマージャンを追出すことは出来ないか? マージャンをやらねば慰安にならないのか。もっと真剣な気持ちになれないのか。そんなにムキになる必要はないという、今に見ろ、きっとひどいことになるぞ。国民に対する義務を考えなければ……。
 わたしは、マージャンというものは、はっきりいって、きらいである。それは宿命的なものがある。他人がマージャンをしてるのも好かない。わたし自身、マージャンの仕方はもちろん知りもせぬし、したこともない。マージャンというもの自身が、亡国的な遊びであるという先入感が、わたしにはあるのである。
 (中略)
 日曜日になって、みなが何を喜ぶのかしら、と思ったら、まず朝寝である。それも、ほんとうに昼ごろまで寝ている。それから、起きて出て来るなり、すぐマージャンだ。日曜日は昼間からやっている。それで結局、みなの趣味というものは、寝ることとマージャンだけかということになる。そう思うと、わたしは情けなくなってくるのだ。せっかくこんな宝の山へ入って、何でも調べたらおもしろいことが山ほどあるのに、ガチャガチャと、それもマージャンばっかりして、せっかくの一世一代のチャンスを浪費してしまう。かわいそうだなあ、と思う。>
(西堀栄三郎『南極越冬記』(岩波新書、1958年)

 西堀の『南極越冬記』はベストセラーとなり、東大でも多くの学生に読まれた。

 1961年、駒場寮の中央記録(寮の正式な記録を残す係)だった寮生は、個人的見解として、西堀の「麻雀亡国論」に賛同の意見を残している。

<寮内を風靡する麻雀の旋風はどう説明すればいいのか。自分は西堀栄三郎氏が、麻雀は亡国病である、と書いた文章を読んだ事があるが、確かにそんな感じがする。浪費される青春の貴重な時間。いかにも頽廃的なムード。>

 このときの中央記録氏はずいぶんと几帳面で、当時の寮内外の細々とした記録を、丁寧に書き残していた。60年安保の後のことで、確かに寮内の雰囲気は、それまでとはずいぶんと変わっているような印象を受ける。


松本博文『東大駒場寮物語』(KADOKAWA)、12月10日発売決定!


オオスキトモコさんによる、廃寮直前の駒場寮の写真集、発売中!
併せて駒場寮のミニ写真展を11月21日「デザインフェスタ」@東京ビッグサイトで開催!
(場所は西ホール・A-13になります)

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

角川新書

この連載について

初回を読む
東大駒場寮物語

オオスキトモコ /松本博文

ムツゴロウ、野田秀樹、堀江貴文、小池龍之介など様々著名人が巣立った日本最古の大学寮は、著者が入学した93年には廃寮計画が進められていた。寮にまつわる数多の史実を交え描く、筆者たちの実録青春記。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 4年弱前 replyretweetfavorite

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 約4年前 replyretweetfavorite

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 約4年前 replyretweetfavorite

cafe_petit 自らの居場所を守ろうとした学生たちを描く、哀愁の青春ノンフィクション! 約4年前 replyretweetfavorite