(とある寮生の部屋の間取り。提供:オオスキトモコ)
寮は一部屋24畳ほどの広さがあり、また昔の建物らしく、天井も高い。雑誌や新聞などで、よく足の踏み場もないほどに散らかっている部屋が紹介されがちなため、窮屈なイメージを持たれることもあるが、実際にはそうではなく、ものを片づけてみれば、驚くほどに開放感がある。何もない部屋でコンパを開けば、三十人ぐらいは余裕で入れる。玉木正之(72年入学、スポーツ評論家)のブログに記された回想によれば、寮の一室で浅川マキのコンサートを催した際には、百人余りの学生がすし詰めになって入っていたという。
部屋は複数の寮生が一緒に暮らす、相部屋として使われる。かつては一部屋6人という時代もあり、その頃には確かにちょっと窮屈だったかもしれないが、次第に余裕ができて、後には一部屋3人が基本となった。1993年には400人ほどの寮生が在籍し、150弱の部屋が使われていた。
部屋の中は基本的に、どのように使ってもいい。そのスタイルは大きく分けると、オープン、クローズド、セミクローズドの3種類に分類される。
オープンは文字通り、全スペースを部屋の住人で共有して使うスタイル。プライバシーなどとは言ってられなくなるが、よくもわるくもそれが寮の醍醐味であり、王道とも言える。
クローズドは本棚やベニヤ板などをパーテーション代わりにして区切り、個人のスペースをはっきりさせて使うスタイル。時代が下るに従って、この形式が増えてきたようだ。「寮のアパート化」だとして批判する寮生も多かったが、一概にわるいとも言えないだろう。何度も繰り返し書くが、どのように住もうとも、それは各人、各部屋の自由である。
セミクローズドは両者の折衷で、共有部分と個人スペースを両方設ける、というスタイルである。
床は板敷である。かつては廊下の段階から土足厳禁だったのだが、その規則は撤廃され、部屋の中でも土足でよい。裸足になりたいのであれば、畳やシートやカーペットを敷いてもよい。備品のベッドや机は人数分だけ使ってもいいし、部屋が狭くなると思えば、使わなくてもいい。あまりに多くの電力を使うことがなければ、何でも持ち込みは可能である。先人が残していったテレビや冷蔵庫などの「遺産」があればもちろん、好きに使ってよい。
また寮には全室、スチームヒーターが設置されている。冬場になると自動的について、部屋がほんのりと暖かくなる。それでもまだ寒いという場合には、各自でこたつやストーブ、ファンヒーターなどを用意する。
寮は戦前に建てられたものなので、現在では規格外になっているパーツも多い。寮の窓ガラスもそのひとつで、割れるとなかなか修繕されない。私の住んでいた部屋でも窓ガラスに穴が開いていたが、段ボールか何かでふさいでいれば、さほど気にならない。
いまは独立行政法人化した東京大学は、かつては国立大学だった。授業料と同様に、家賃(寄宿料)は各自が直接、国庫に支払う。その額は、一月400円。
他に、寮の自治会が徴収する水光熱費や自治会費などが、一月約四千円ちょっと。要するに、住環境のためにかかるコストは、一月全部で、五千円ほどである。
寮には舎監もいなければ、門限もない。どこへ何日出かけようとも、外出届を出す必要もない。ほんの最低限の義務をクリアすれば、後は何をしようと自由である。
(ピンクルームにあったスチームヒーター。写真:オオスキトモコ)
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