小林幸子が若者に歩み寄る

今回のテーマは、小林幸子さん。紅白歌合戦で美川憲一さんとの豪華衣装対決が行われなくなって数年、VOCALOIDソフトの発売や「ラスボス」としてニコニコ超会議に出演するなど、演歌以外での活躍が目立つようになった小林さんですが、その活動の裏にはどんな思いがあるのでしょうか。

豪華衣装を自粛する小林を牽制した和田

小林幸子と美川憲一による紅白歌合戦での豪快衣装対決が終焉し、もう5年以上の月日が経つが、私たちの生活に支障はない。10年ほど前、小林幸子の地元・新潟が大震災に見舞われ、地元のことを想いながら豪華衣装を封印して着物姿で大トリ出演を果たした年、犬猿の仲と言われる和田アキ子は「こういう時だからこそ、もっと明るく楽しくできないか。覇気がない。祭りなら祭りとしてやらなきゃ」と小林を牽制した。

そもそも、「今年はどんな豪華衣装なのか」という期待感を露ほども持たない身としては、豪華衣装についての双方の選択に賛意を示せなかったわけだが、人はつい、自分に合う選択肢がない場合でも「どちらかといえばこっち」と体を寄せてしまう。本来、私たちは小林か和田かを選ぶ必要などないのだ。我が実家はその辺りを熟知しており「豪華衣装を自粛する小林を牽制した和田」という議題が年越し蕎麦をすする食卓に提出されても、その場で浮上したのは「和田アキ子はいつまであの鐘をあなたに鳴らしてもらうのか」という、ほのかに哲学的な問いだった。

「砂漠に突然現れるオアシスの女王」

小林と美川の二人による衣装対決が終焉してからはご当地ソングの女王・水森かおりが「紅白名物、豪華衣装をお楽しみください」との前フリを受けて、(矛盾する言葉だが)控えめな豪華衣装を披露するようになった。対決や2択を好む私たちは、水森かおりの豪華衣装に前もって期待しない。対決という緊張感に基づかない豪華衣装は、どこまでも過剰になることを目指していた在りし日の対決とは一線を画す地味な仕上がりとなる。今現在の水森による豪華衣装独占状態が教えてくれるのは、これまでの豪華衣装対決という騒ぎが、どれだけいたずらに囃し立てられていたかという史実である。

小林幸子の豪華衣装には、その都度「衣装名」があった。紅白で使用した衣装の名称をいくつか並べてみると、「人間ナイアガラ」「21世紀の観音様」「生命誕生」「ヒューマンファンタジー」「2000年のかぐや姫」「フラワー・オブ・ドリーム」である。迷ったときに「21世紀の」「2000年の」と付け加えてお茶を濁したかと思えば、時折、新興宗教の書籍タイトルのようになるのも気にかかる。「砂漠に突然現れるオアシスの女王」という名称もあったが、もはや名称ではなく、置かれたシチュエーションの説明に過ぎない。

豪華であることに思想と物語を投与する
この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

cakesの人気連載「ワダアキ考」、5人の書き下ろしを加えてついに書籍化!!

この連載について

初回を読む
ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

gosan5553 マスメディアによってどれだけ人々が操られていたのか。これは鋭い考察!「豪華衣装対決という騒ぎが、どれだけいたずらに囃し立てられていたかという史実」について。 https://t.co/xz4hB7mVWo |武田砂鉄 3年以上前 replyretweetfavorite

gosan5553 これは鋭い考察!「豪華衣装対決という騒ぎが、どれだけいたずらに囃し立てられていたかという史実」についてマスメディアによってどれだけ人々が操られていたのか。 https://t.co/lmZ7Mo5xxa |武田砂鉄 @takedasatetsu 3年以上前 replyretweetfavorite

Josephine_smk 「和田アキ子はいつまであの鐘をあなたに鳴らしてもらうのか」ここの部分読んで、飲んでたコーヒーぶはって吹き出したよ……。【 3年以上前 replyretweetfavorite