コレクション永久機関3 —エアコレクターのすすめ

蒐集原人とみさわ昭仁さんの、コレクターにまつわるお話は今回で3回目。今回はとみさわさんがもっともハマったという、アメリカのベースボールカードについて。とみさわさんがどのようにベースボールカードにハマっていったのか、までは共感できる方も多いはず。しかし、コレクター仲間がドン引きしたという「白いカード」とは……?

ワタシは1996年から2004年頃までの約8年間、アメリカのベースボールカード集めに夢中だった。いわゆる「トレーディングカード」と呼ばれるもので、100年以上も昔から作られ続けてきた、大変に歴史のあるホビーだ。

カードの表面には野球選手の写真が、裏面にはその選手の成績と通し番号が印刷されている。カードは5枚程度がランダムでセロファンに封入され、1パック300~600円ぐらいで売られている。ということは、1パックだけ買ったところで自分の好きな選手のカードが出るとは限らないし、カードが番号順に揃うこともない。そこでコレクターはパックをいくつも買い、ダブったカードを同好の仲間と交換する。そうやってコレクションを充実させていくわけだ。


レコードコレクターは、輸入版のレコードのシュリンクを開けると「アメリカの匂いがする」なんてことを言うが、アメリカ製の野球カードもまた「クーパースタウンの匂いがする」。

この趣味には本当に没頭した。おそらく生涯でいちばん時間とお金を費やしたと思う。それぐらい楽しくて、奥が深かった。それと同時に、フトコロ具合も蝕んだ。なにしろトレカ収集にはお金がかかるのだ。

ご存じない方は、1パック300円かそこらの趣味がなぜ? と不思議に思われることだろう。この300円程度のカードというのは、数あるスポーツカードの中でも子供向けというか、入門用のような安いシリーズの値段なのだ。そういうもので満足していられるうちはいい。ところが、次第に深みにハマっていくと、その上にマニア向けの商品があることを知ってしまう。

マニア向けのカードは恐ろしいぞー。いくつかのパックの中に、ごく低い確率で選手の直筆サインが書かれたカードが“当たり”として封入されていたりするのだ。直筆サインの他にも、選手が試合で実際に着用したユニフォームの一部や、バットの木片を貼付けたカードなんてのもある。当然ながら、そういうものが封入されているシリーズは販売価格も高い。1パック1000円とかね。なかには1万円近くするものもあったりする。

で、これらの当たりカードを引き当てたとしても、それがどの選手のものかによって幸福の度合いは大きく変化する。具体的に名前は出しませんけどもー、ベンチでヒマこいて鼻毛抜いてるような選手のサインを引き当てたってうれしくないもんね。やっぱりみんな4番打者とかエースピッチャーとかバリバリ活躍してる選手のサインを引きたいでしょ。そのために、数千円もするパックをガンガン購入することになるわけ。

こうした当たりカードが高値で取り引きされるのは、市場原理を考えれば無理もないけれど、そうでない普通のカードでも、やっぱり人気選手のものは他の鼻毛選手に比べて何割増しか高くなる。それはこのスポーツカードというホビーの世界においては当たり前のこととして、誰も不思議に思わない。ワタシも最初はそういうもんかと納得してた。だけど、コレクションを続けていくうちに、なんとも言えない違和感がふくらんできてしまった。

自分はカードを集めたいのだ。カード集めを楽しみたいのだ。なのに、それぞれのカードの出現率は同じでありながら、選手の“人気”というコレクションの快楽とは関係のない要素がカードを集めにくくしている。カード集めの楽しさを人気選手が阻害しているのだ。

集めにくいだけならまだいい。困難を克服するのもまた収集の悦びだからね。でも、その困難が発見の難しさにあるのではなく、高額な取引価格によるものだとするなら、とてもせつないことになる。つまり「貧乏人は集めるな」って言われているわけであり、逆に言えば「お金さえあれば買える」ってことなのだ。なんだよー、カネで解決できちゃうのか。ずいぶん資本主義的なシュミじゃんかー。
トレカというホビーの根底を揺るがすようなことをワタクシいま言ってるわけですが、しかし自分はあくまでもコレクションの快楽を追求したいだけなので、周囲の意見なんかきかない。

カード収集に夢中になっていた頃、自分はよくコレクター仲間に「選手の写真とかいらないから、ただの“白いカード”が欲しいよね」と言っていた。みんなからは「アンタ何言ってんの?」って白い目で見られた。ケイクスの読者もいまそういう目で見てるでしょ。

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