​《ハヤカワ・SF・シリーズ》温故知新

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 今回は《新☆ハヤカワ・SF・シリーズ》新刊、パオロ・バチガルピ『神の水』刊行にあわせ、「新SF観光局」の第27回を再録します(SFマガジン2012年2月号より)。

《ハヤカワSFシリーズ》の新版が出ると聞いたとき──というか、「コニー・ウィリスの『ブラックアウト』と『オールクリア』をその新しい叢書で出したいんですが」と相談されたとき──真っ先に訊ねたのは、「で、背の色は?」

「まだ決まってません」と言われた瞬間から、背が銀色でなければならない108の理由について(さらに、小口天地は茶色で、カバーのビニールはシマシマ加工でなければならない理由についても)ひとしきり大演説をぶったんですが、その後、本誌先月号のカラーページ告知を見て、思わず叫んだね。「重要な情報が一個も載ってないじゃん!」

 何が出るのかとか、カバーの絵柄がどうとか、そんなことはどうでもいい。重要なのは背の色とデザインだ。写真を載せるなら背中を見せろ!

 と悲憤慷慨した一週間後、刷り上がったばかりのハヤカワ文庫JA『21世紀SF1000』(絶賛発売中)を受けとるため、早川書房に立ち寄ると、おお、こちらも納品されたばかりのスコット・ウエスターフェルド『リヴァイアサン-クジラと蒸気機関-』の見本が! いや、だから著者もタイトルもこの際どうでもいい。問題は背だ!

 震える手で本をつかみ、まじまじと背中を見る。

 おお、美しい銀色じゃないですか。赤の亀甲マークにSFの文字が白抜き。旧《ハヤカワ・SF・シリーズ》(以下、HSFSと略)のひしゃげた六角形と違って正六角形ですが、細かいことにはこだわるまい。ビニールカバーがシマシマのザラザラじゃなく、(最近のポケミスと同じ)スベスベのツルツルなのも男らしく受け入れよう。

 おお、整理番号は5001と来ましたか。旧HSFSは、ポケミスが二千冊以上出ても大丈夫なように(推定)3001番からスタートしたわけですが、きっと4000番台は、いつか《新☆ハヤカワ・ミステリ》が出るとき用に空けてあるんだな──と思ったら、4000番台は《ハヤカワ・サスペンス》が予約済なんでしたね(4001番の早川書房編集部編『十三階の女現代恐怖小説集1』一冊きりしか出てないけど)──などとひとり合点をしつつ、おもむろにビニールカバーを引っぺがし、帯をはずす。背の下部には墨ベタが引いてあり、白抜きで “H・P・B” の文字が。ハヤカワ・オンラインの近刊紹介ページでは、なぜかHPBじゃなくて単行本に分類されてたけど、これも立派な《ハヤカワ・ポケット・ブックス》の仲間なのである。

 アーチ型の飾り罫をあしらった本扉のデザインも、旧HSFSをほぼ踏襲。カバー裏に原書の書影を入れるスタイルもそのまま引き継がれている。帯裏には、「本シリーズの小口の茶色は手塗りです。機械塗りとはひと味違う趣をご堪能ください」という、なんだそりゃ的な注意書きが入っているが、これはきっと、旧シリーズ(およびポケミス)の紙函についていた、「お手許に綺麗なままの本をお届けしたくこんな簡単な函をつくつてみました。いわば包装紙がわりです お買上げ後にはお捨て下さい」という有名な注意書きに対するオマージュに違いない(あとで聞いたら、色ムラ返品クレーム対策らしい)。

 まあね、どうせ銀背の新版を出すなら、第一弾は、スチームパンク系ヤングアダルト(というか米国産ライトノベル)より、チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』のほうがよかったんじゃないかと思うわけですが(そうしてくれていたら、新HSFS第一弾の解説者という称号が労せずして手に入ってたのに!)、なにより重要なのは、2011年のいま、ハリイ・ハリスン『殺意の惑星』以来37年ぶりに、銀背の新刊が出たという事実である。そりゃまあ、84年に出た栗本薫『火星の大統領カーター』も銀背と言えば銀背だが、あれは一回限りの《ハヤカワ・SF・スペシャル》だし、一九九五年には早川書房創立50周年事業として、『ドノヴァンの脳髄』『超生命ヴァイトン』『ラルフ124C41+』『影が行く』の四冊が “増刷” されていますが(たぶんこれが旧HSFSの最終重版だと思う)、新シリーズとして復活するのはこれが初めて。すばらしい!!

 ……という浮かれ気分は、しかし四十代以下の読者にはあんまり共有されないかもしれない。なにしろ、『21世紀SF1000』のあとがきにも書いたとおり、当年とって五十歳の大森でさえ、旧HSFSにはぜんぜん間に合っていないのである。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

SFマガジン

この連載について

初回を読む
大森望の新SF観光局・cakes出張版

大森望

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 知りたかったSF界のあれやこれやをcakesでもおたのしみいた...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Nozi_roh 《ハヤカワ・SF・シリーズ》温故知新| 約4年前 replyretweetfavorite

nzm 「小口の塗りに色ムラがある、不良品だから返品してくれ」というクレームを予防するためだそうです。 https://t.co/BdUWALJSQ6 https://t.co/CZmFIKa0Wf 約4年前 replyretweetfavorite