僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだけれど飽きっぽい。
放物線へ
僕「区分求積法を使って三角形の面積を求めたけれど、これは、あまりありがたみがないよね。だって面積が$\frac12$だって最初からわかってるし」
ユーリ「なにそれいまさら」
僕「いま求めたのは《$y = x$の直線が作った図形の面積》だったよね。だから今度は、ちょっと難しくして《$y = x^2$の放物線で作った図形の面積》を調べてみようよ。 これは三角形と違ってすぐに面積はわからない。 ちゃんと区分求積法で面積が定まるかどうか、考えよう」
面積$S$を、区分求積法で求めよう。
ユーリ「ほほー! これ、求められんの?」
僕「たぶんできる」
ユーリ「わかった! じゃあ、やるね。放物線を$n$分割して$n$を大きくするんでしょ? さっき (第133回)とおんなじにすればいーんだから、簡単だね! えーと……」
僕「いやいや、ユーリ、ちょっと待って。さっきの三角形のときにやったことを振り返って、 注意深くやらないと」
ユーリ「だから、おんなじにするんでしょ?」
僕「いきなり$n$分割するんじゃなくて、こういう手順で考えていこうよ」
- $0 \LEQ x \LEQ 1$の区間を$4$分割する。
- $y = x^2$のグラフの《下》に敷き詰めるように長方形を並べた面積$L_4$を求める。
- $y = x^2$のグラフの《上》を覆うように長方形を並べた面積$M_4$を求める。
- 分割した数の$4$が$L_4$と$M_4$の式のどこに出てくるかに注意する。
- 一般化して$n$分割し、$L_n$と$M_n$を求める。
- $n$を大きくしたときに$L_n$と$M_n$がどんな値に近づくかを調べる。
僕「そして、$L_n$と$M_n$で、求める面積$S$を$L_n < S < M_n$のように《はさみうち》するわけだね……って、ユーリ、話聞いてる?」
ユーリ「聞いてない。すぐできるから計算してる。うわ、できそーだけどめんどくさいね」
僕「ユーリ。一歩ずつ進もうよ」
ユーリ「へーい。どこから?」
僕「$4$分割から」
$4$分割して$L_4$を求める
ユーリ「はいはい。グラフは$y = x^2$で$4$分割……ってこーかにゃ?」
僕「そうだね。ここには$4$個の長方形があって……」
ユーリ「さっきとおんなじだからわかるよ! 一番左の長方形は高さが$0$だから見えないんでしょ?」
僕「そうだね。$4$個の長方形の高さはわかる? 左端は$0$だね」
ユーリ「えーと……わかる。このグラフは$y = x^2$で二乗すればいーから、$\frac0{16}, \frac1{16}, \frac4{16}, \frac9{16}$でしょ?」
僕「そうなるね。ユーリは計算しちゃったけど、長方形の高さはこうだ」
$$ \frac{0^2}{4^2}, \frac{1^2}{4^2}, \frac{2^2}{4^2}, \frac{3^2}{4^2} $$ユーリ「だから、それを計算したんだけど? あーあれかー! 計算しないほうがわかるってやつ?」
僕「そうそう。どうせ後から$n$分割するんだから、それを見越して式を組み立てておくんだよ」
ユーリ「ふんふん」
僕「いまのが長方形の高さ、つまり縦の長さ。じゃ、長方形の幅は?」
ユーリ「$4$分割だから、$\frac14$」
僕「そうだね。これで、$L_4$の式が立てられる」
ユーリ「あれ、やっぱりお兄ちゃんも計算してるじゃん」
僕「うん。さっきの三角形と違って、僕たちは答えを知らないから、注意して進まなきゃいけないんだ」
ユーリ「結局$L_4$はこーでしょ?」
$$ L_4 = \frac1{4^3}\left(0^2 + 1^2 + 2^2 + 3^2\right) = \frac{7}{32} $$
$4$分割して$M_4$を求める
ユーリ「$M_4$もすぐできるね。さっきとそっくり」
僕「うん、同じように考えるけど、$L_4$のときと高さが違うから、そこだけ注意がいるね」
$$ M_4 = \frac1{4^3}\left(1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2 \right) = \frac{15}{32} $$
$n$分割へ
僕「これで、$L_4$と$M_4$ができた。じゃ、いったん整理しよう」
$$ \left\{\begin{array}{llll} L_4 &= \frac1{4^3}(0^2 + 1^2 + 2^2 + 3^2) && \text{(小さい方)} \\ M_4 &= \frac1{4^3}(1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2) && \text{(大きい方)}\\ \end{array}\right. $$
ユーリ「……」
僕「どうした?」
ユーリ「なるほどにゃあ……三角形のときも、お兄ちゃんは、こーやってまとめてたけど、$n$に変えるトコロがすぐにわかるね!」
僕「そうなんだよ」
$$ L_n = \frac1{n^3}\left(0^2 + 1^2 + 2^2 + \cdots + (n-1)^2 \right) \qquad \text{小さい方} $$
$$ M_n = \frac1{n^3}\left(1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2 \right) \qquad \text{大きい方} $$
ユーリ「あ、でも、ユーリ、こんなふうになりそーだな、っては思ったよ」
僕「こんなふうとは?」
ユーリ「いや、だから、$0^2 + 1^2 + 2^2 + \cdots + (n-1)^2$みたいに、$0$の二乗、$1$の二乗……を足していく式が出てくるってこと。 だってほら、グラフが$y = x^2$だから」
僕「ユーリ、それはすごいよ。式の観察力だね。単に手を動かして計算して終わりじゃなくて、 どういう式になるだろうかって考えるのはとても大事なんだよ」
ユーリ「でも勝手に作っちゃダメでしょ?」
僕「もちろん、自分の勝手な想像で『こういう式になるだろう』と立てて結論にしちゃだめだよ。ちゃんと理由を考えて式を組み立てる必要はある。 でも、予想するのは悪くない。なぜかというと、 計算して出た式が予想とあってるかどうか、チェックできるから」
ユーリ「ほほー」
二乗の和を求める
僕「さてと。三角形のときには$1 + 2 + 3 + \cdots + n$が必要になって求めたよね。でも今度の放物線では$1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2$を計算する必要が出てきた。 つまり、こんなクイズを解く必要がある」
$$ 1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2 = \text{?} $$
(ただし、$n$は$1$以上の整数とする)
ユーリ「うんうん。これも、$1 + 2 + 3 + \cdots + n$のときと同じようにして、逆順にして足せばいーんだね! $n^2 + 1$が$n$個集まって$2$で割るから、こーだね!」
$$ 1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2 = \dfrac{n(n^2+1)}{2} \qquad \text{(?)} $$
僕「そうはいかないよ、ユーリ。逆順にして加える方法は今度は使えない。 逆順にして加える方法がうまくいったのは、 縦に足したとき、全部同じ値になったからなんだから」
ユーリ「あ、そっか……え、じゃあ、どーやって求めるの?」
僕「うん、こういう問題を考えるときに大事なのは、具体的に考えてみることだね」
ユーリ「?」
僕「つまりね、いま求めたい$1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2$を考えるときに、《小さな数で考える》ということだよ」
ユーリ「さっき、$4$で考えた」
僕「うん、そうだね。あれは$n = 4$のときの$L_n$と$M_n$を考えたわけだ。いまから考えたいのは、 $1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2$ の式で$n = 1, 2, 3, 4, 5$くらいで実際に計算してみることだよ」
ユーリ「何だか《具体的に計算しろ》っていったり、《途中で計算やめろ》っていったり、いそがしいにゃ」
僕「あはは、そうだね。確かに。お兄ちゃんが言いたいのは、使える道具は何でも使い、 できることは何でもやってみるってことだよ。 数学を考えているとき、決まり切ったルールだけに縛られるのはもったいない。 解法の暗記ばかりじゃつまらない。そうじゃなくて、 自分の持っている《武器》……これはテトラちゃんがよく言うたとえだけど……《武器》 を何でも使う態度が大事なんだ」
ユーリ「テトラさん、何気にゲーム好きだよね」
僕「でね、数学を考えるときに、自分が持っている道具に何があるのかを忘れてしまうことがある。 それで行き詰まってしまう。 $n$が出てきたら《小さな数で考える》というのは、 武器を思い出すための工夫なんだ。 ポリヤの問いかけもそうだよね。《定義にかえれ》《与えられているものは何か》《求めるものは何か》 っていう問いかけは、自分が考えを進めるためのきっかけとなる。 それは、自分が持っている《数学に立ち向かう武器》を思い出すことなんだよ」
ユーリ「武器を手に持ってるのに、使うの忘れて敵にやられたら、ヤだね」
僕「そうだね。ということで、《具体的に計算しよう》も《途中で計算を止めて式の形を見る》も、それぞれに大事な武器なんだ」
ユーリ「おー、先生トーク!」
僕「ちゃかすなよ。じゃあ、$1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2$でやってみよう」
ユーリ「うん!」
《小さな数で考える》
僕「できた?」
$$ \begin{array}{lll} 1^2 &= 1 &= 1 \\ 1^2 + 2^2 &= 1 + 4 &= 5 \\ 1^2 + 2^2 + 3^2 &= 1 + 4 + 9 &= 14 \\ 1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2 &= 1 + 4 + 9 + 16 &= 30 \\ 1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2 + 5^2 &= 1 + 4 + 9 + 16 + 25 &= 55 \\ \end{array} $$
ユーリ「できたけど……結果は、$1, 5, 14, 30, 55$だよ。さっぱりわかんにゃい。だめじゃん」
僕「数列の問題になってきたね」
ユーリ「数列……あっ! わかった! 階差数列を作るんだ!」
僕「……」
ユーリ「やった! 階差数列は、$4, 9, 16, 25$になった。これって、二乗した数だね!」
僕「うん、平方数ともいうね。でも……」
ユーリ「でも? あ。そっか。当たり前じゃん! 二乗した数を足したんだから、階差数列とったら、二乗した数に戻るか……」
僕「そうなるねえ」
ユーリ「うー。だめだったか……お兄ちゃん、ヨユーで構えてるけど、ちゃんと考えてる?」
僕「この答えは暗記してるからなあ……」
ユーリ「え、なにそれずるい」
僕「あ、でもね。すごくおもしろい話があるんだよ。この二乗の和を求める方法」
ユーリ「また、数式マニア的な何かが始まるの?」
僕「ジト目禁止。そういう話じゃなくて、ミルカさんから聞いたおもしろい話があるんだ」
ユーリ「ミルカさまから? 教えて教えて!」
《似た問題を知らないか》
僕「いま僕たちは$1^2 + 2^2 + 3^2 + \cdots + n^2$を計算したい。《小さな数で考える》という方法はうまくいかなかった。 では、今度はポリヤの問いかけ《似た問題を知らないか》を試してみよう」
ユーリ「さっき試したじゃん。$1 + 2 + 3 + \cdots + n$の方法は使えなかったよ」
僕「うん、そうだね。だから、別の問題を考える。僕がミルカさんから聞いたのは、こういう《似た問題》なんだ」
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)