「ふぅ」
サニーとの打ち合わせを無事に終え帰宅した美沙は、部屋のベッドにバサリと大の字になった。スカートの皺も気にせず倒れこむなんて、美沙らしからぬ行動だ。しかし今日はそんなことも気にならない。慣れない四字熟語でいうならばまさに「満身創痍」。
営業で結果を出した美沙ではあったが、技術の関口がいなかったら質問の7割は答えられなかっただろう。自身の知識の浅さにはほとほと呆れる。浅井美沙という人格自体が薄っぺらいと言われていたようで……ひとりベッドに横たわり目を瞑るとそんな周りの視線が回想され追い詰められる。
最近はひとつ上手くいったと思えば、すぐさま上手くいかない出来事がやってくる。「神様はいるんだろうな」と、いつどんな理由でそこに出没したのかも不明な不思議なほど鮮明な天井のシミを見つめながら美沙は思っていた。
「神様はすぐに人を試すんだっけ」
1年前に振られた彼(コウスケ)がよく口にしていた。神様は私たちのことを思って困難を次から次へと運んでくるのだ、と。頭から除外したい人物ではあったが、事あるごとに思い出してしまうのは自身でもどうにもならない事実だった。
いま美沙に課せられた困難は、単純に『DNSでの浅井美沙のあり方』であった。営業として活動をし始めてようやく結果が出た。しかし今日1日にして失った営業としての自信。そしてこのままでは仲間が異動になるという事実。
ずっと天井を見つめていると、シミが星座のように思えてくる。オリオン座? 勝手にまわりにシミをつくると勝手にロマンチックな気持ちになる。
「男と一緒に営業をやるより、やっぱり……」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。