藤野英人×山口揚平対談

深い教養」こそ儲かる! これから10年、僕たちが身につけるべきこと

「10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと」を上梓した事業家・思想家の山口揚平さんとcakesでも「イケてる経営者が日本を救う」でお馴染みの投資家・藤野英人さんの対談です。お金のプロであるお二人が、投資から教養まで、ディープに語り合います。

「投資バカ」って、実は私のことなんです。

山口揚平(以下、山口) 新刊「投資バカの思考法」、おもしろく読ませていただきました。今回一番伝えたいポイントはなんだったんですか?

藤野英人(以下、藤野) タイトルにある「投資バカ」って、実は私のことなんですね。要するに、投資に25年間真剣に打ち込んできた人が、どういう考え方で投資に向き合っているのかを伝えることによって、少しでも投資についての理解を深めてもらいたい。そして、ファンドマネージャーの思考を、ビジネスマンの意思決定や情報分析に役立ててもらいたいなと。

山口 「投資バカ」は藤野さんご自身のことだったんですね。では、投資家の力で一番重要なところはどこですか。

藤野 「決断」ですね。何を捨てて何を選ぶのかがすごく大事です。僕らの人生は、いろんな決断によって成立しているわけなので、ある面で見ると「決断が人生の質を決めていく」ということにもなります。

山口 決断は、一番難しいですよね。「捨てる」っていうところが……。

藤野 そうなんです。決めることは、捨てることでもあります。たとえば誰か好きな人がいるとき、Aさんと付き合うということは、他の人と付き合う可能性を断ち切ることでもありますよね。 
 おそらく山口さんもコンサルの仕事の中で、何を選んで何を捨てるのかって重要なテーマの一つではないですか。

山口 コンサルは「何かシャープなことを言う人」と思われがちなんですけど、実は、企業の中で実際に実行するための「納得のプロセス」をつくる方が仕事なんです。
 クライアントのみなさんは、藤野さんの本に書かれてるように「主観の牢獄」にいるわけです。そこにロジカルにファクトを持ってきて、こういう論点でこういう選択肢があって、評価するとこうなりますよねという流れが「納得」につながって、決断の一助になる。

藤野 そうですね。

山口 では、様々な投資先に分けて投資するという「分散投資」の考え方と、決断との関係はどう考えればいいんですか。

藤野 「分散投資」は、僕らファンドマネジャーの場合だと、1つに決めなくてもいいところが、よいところでもありますね。
 たとえば、ドコモとソフトバンクに投資をしたいというとき、就職であれば両社に就職することはできないけれど、投資であれば両方に投資ができるんです。とはいえ、日本には3600社、上場している会社があるので、1社だけに投資するのか、50社なのか、3600社にするのかというところも、天文学的な組み合わせがあるわけですよね。
 だから分散投資も、どのタイミングでどの株に投資をするのかで、結果は変わってくるんじゃないかなと思いますね。

山口 「ポジションをとる」ことが、コミットをする、つまり、決断するっていうことなのかもしれませんね。

藤野 ええ。またポジションをとらないことも決断ですよね。無限の組み合わせの中で自分は何を選択するのかというところに、「人生観」が出てきます。
 私は、ライバルのファンドをよく見ているんですよ。運用するファンドマネージャーがどういう性格なのかなって、実は持ってる銘柄の上位20銘柄を見れば、性格がかなりわかるんですね。この人は強気な人とか、この人は臆病だなとか大胆だなって。さらに言うと、銘柄がブラインドになっていても、日々のファンドの値動きを見ているだけで、どんなものをどのぐらい持っているのかわかるようになるんですよね。
 これもうほんとうにプロの話なんで、個人投資家にはまったく必要のない技術なんだけれども、いわゆる「投資バカ」っていうのはそういうところまで見ているのはおもしろいところじゃないかな。

山口 おもしろいですね。「分散投資」の本質は株式投資以外にも通じる考えだと思っています。
 たとえば僕は、今後自分が所属するコミュニティの分散、つまりいくつかのコミュニティに同時に所属すること、いわばコミュニティのポートフォリオを作ることも大事ではないかと思うんです。今、従来型のタテ社会ではなく、ネットワーク社会というかヨコ社会のつながりが大分増えてきていますよね。会社外の活動が、そのまま別のところで生きることも増えている。日々の生活を癒やす場所、志をともにするサロン、そして仕事をする仲間、地域、様々なコミュニティに同時に所属して信頼関係をつくる。
 さらに、ネットを介して、簡単にグローバルにもつながれる。様々なコミュニティに属して、経験や知識を相乗効果で増やしていくことも大事ではないかと思います。

「教養」を深くやると儲かる

山口 お話をうかがうと、投資は全人格的というか総合格闘技みたいな感じしますよね。

藤野 マーケットって、参加者の喜びや怒り、憎悪や欲望……そういうのが「ぐちゃ」っと固まっているわけですよね。そこに、中国の経済やアメリカの金利というようなイベントの影響がある。さらに、市場参加者の人たちの個人的事情も含めて影響があるわけですよ。失恋をしてしまったら「悲しみ」がマーケットに反映されていくわけだし、宝くじに当たったお金を投入する「ラッキー」も反映される。そのすべてが詰まってるんですね。
 投資で大事なのは、動いている感情にぶつかりながら、1つの波形を成していくところを、動画的に頭の中でイメージできるかどうかです。

山口 波形を動画的に、ですか?

藤野 そうです。僕自身、マーケットの動きが音楽的に聞こえるときがあるんです。オーケストラの演奏みたいに。「和声」として聞こえる。
 だから収益性を見て予測し、確率論でどうなるかという面もありますけど、一方で、音楽的に俯瞰して把握するみたいなところもあって。まさに投資は、総合格闘技ですね。

山口 すごく抽象度が高くなってきましたね。藤野さんが体験したことを一般の人がわかる範囲で言語化したのがこの本なんだろうなと思いました。

藤野 まさに、そうですね。一つ一つ分解していって、7つにわけて、なるべく卑近な例で話をしていこうというのが、「投資バカの思考法」という本なんですよ。今話をしたところはエッセンスですね。

山口 今のお話を聞いて、「教養」がメタ認知に役に立っているし、それが実際の具体的な成果にもつながっているという印象を受けましたね。
 僕も、企業研修のビジネスに取り組んでいるんですが、財閥系商社でも、都銀でも、今一番流行ってるのが「事業創造」と「教養」なんです。その2大ニーズがあって、事業創造は抽象的ですが、その中のひとつの顧客創造はすごく具体的なんです。
 あと、これは今回の自分の本にも書いたのですが、「教養」については赤青緑 、どこの銀行でもあるいは物産でも、「教養が大事だ」というボヤッとした認識で幹部に教えてほしいという要望なんです。

藤野 「教養」はそれ自身が娯楽であるし、深くやると実は儲かる。教養はお金と関係ないと思っている人が多いけれど、教養こそが収益の基だと思います。
 外資系の経営者は、トップ層になるほど非常に教養度が高くなります。でも、日本においては必ずしもそうではない。その差が、実は日本と欧州アメリカとのROEの差になってるんじゃないかなと思うんですよ。要するに、「人間ってなんだろう」ってことに対する深い理解が、「商品」とつながると思うんですね。

山口 なるほど、すごい勉強になります。

目標は「山口揚平」を捨てていくこと

山口 僕が以前、ダイヤモンドオンラインの連載で50万PVをとった記事が「頭がいいっていうのはメタ認知ができるやつだ」という記事です。メタ認知、つまり「物事を一歩上の次元から見ること」であり、それは本質に迫るために必須の頭の使い方です。

山口 メタ認知ってどうやって鍛えるんだろうっていうと、知識というより知的態度が大事だと思っています。知的態度とは、反対意見も自分への攻撃と捉えず、新しい視点(アングル)を得た、とプラスに解釈する態度だったり、一見無駄に思える情報も含めて、知識そのものを愛するということです。その意味では、学部よりは大学院のほうがいいし、大学院よりはPhD(博士課程)がいいかもしれない。アカデミズムの価値は、視野の多様性もそうですが、知的態度を持てるという意味でもいいかなというふうに思いました。

藤野 ええ。

山口 僕の将来の夢は、「即身成仏」なんです。つまり自分っていうものを捨てていく。今、山口揚平って名乗ってますけど、40才に向けて「山口揚平」をいかに手放していくかっていう過程だと思っているんですね。
 それは自分を俯瞰して、自分を操り人形みたいに動かしていく作業。自分は、40才までに蓄えた知見をどう使ったら一番世の中の役に立つかなみたいなことを、もう1人の自分が考えなきゃいけないっていう意味で、どんどん自分を捨てていくっていうふうに思っているんですね。

藤野 おもしろいですね。

山口 自分を捨ててゆく過程においては、メタ認知をしていく。自分がどんどん幽体離脱していく過程が大事なんだなっていうことは本能的にわかっています。「シェアーズ」の売却でも、挫折を体験する。そのためには「決断」が大事。
 決断の本質はなにかというと、それは「動き」なのかなって。決断によって、動き出す。それは前へなのか、後へなのかはわからない。でも、ヘラクレイトスの「万物は流転する」のように「変化こそが重要」であって、変化を促すためにはどうしても決断が必要。その決断の結果として変化して、その中1つで新しい視座とか視点を手に入れていって、自分というものがどんどん無くなっていく。
 マーケットで勝つというのも、マーケットって1つのいろんな欲望だとか愛もあるし、いろんな憎悪も、そういうことがないまぜになって1つのメロディーを奏でている、楽譜のようなものだと思うんですね。その全体像を俯瞰的な視点から見た方が、最終的にリターンをとることもできる仕組みになっている気がします。


次回へつづく


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投資バカの思考法
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この連載について

藤野英人×山口揚平対談

山口揚平 /藤野英人

「10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと」を上梓した事業家・思想家の山口揚平さんとcakesでも「イケてる経営者が日本を救う」でお馴染みの投資家・藤野英人さんの対談です。

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コメント

taconome | 妙にキャッチーなタイトルがついていますが、それよりも決断の経験が豊富なお二人が語る「決断することの重要性」が読ませます。 2年弱前 replyretweetfavorite

seventhorgan cakesに出てたこれ( )もそう。個人の経済的利益にしか価値を見出せないのだとしたらあんまりだが「人文系は稼げるからやるべき」と言ったほうが人を集めやすいのは確か 約4年前 replyretweetfavorite

fukuzato コミュニティのポートフォリオを作ることも大事 約4年前 replyretweetfavorite

kous37  あとで読む 約4年前 replyretweetfavorite