産経新聞前ソウル支局長の裁判に見る、韓国における言論の自由とは

10月19日、ソウル中央裁判にて行われた論告求刑公判で検察側は、産経新聞前ソウル支局長に名誉毀損で懲役1年6ヶ月を求刑しました。韓国は「法治国家」なのかと、疑問の声が国内外から上がる象徴的な事件です。この事件を受けて韓国は今、民主主義国家として「言論の自由」と「人格権」という相反する2つの権利とどう折り合いをつけていくべきか模索している状況です。この事態を冷静に分析してもらおうと、大韓弁護士協会公報理事のカン・シノプ氏に話を伺いました。

カン・シノプ(大韓弁護士協会公報理事)

事の発端は2014年8月3日。

セウォル号が沈没した4月16日に朴槿惠大統領がチョン氏と密会を行っていたのではないか、つまり、朴大統領はセウォル号沈没事故の報告をリアルタイムで受けていなかったのではないかと示唆する記事を、産經新聞前ソウル支局長・加藤達也氏が書いたことに始まります。これに対し、韓国大統領府が加藤氏を名誉毀損罪で訴えたことが、日韓両国、またそのほかの国々でも大きく取り上げられました。実際の韓国国内でも、表現・言論の自由を抑圧するのではないかと危惧する声と、人格権の侵害という民主主義的な価値を守るために必要な裁判であると指摘する声に二分されていました。

「大韓弁護士協会公報理事」という立場から、言うべきことがある

日本弁護士連合会があるように、韓国にも大韓弁護士協会があります。大韓弁護士協会は、韓国の弁護士全体、約2万人の代表機関です。全国各地にソウル地方弁護士協会、釜山地方弁護士協会などと、地方弁護士協会を置いています。大韓弁護士協会は、法治主義が具現される社会を作るために、国民の人権擁護、政府政策の監視などの分野で多くの努力を行っています。私はその協会の公報理事を務めています。「広報」が広告の概念を持つのに対し、「広報」は公共性が色濃く反映される立場です。

この事件を見るための3つのポイント

それでは今回の事件を私の立場から解説すると、見方のポイントは3点に集約できます。

第一に、メディアの在り方です。

大統領という一人に焦点を当てるのではなく、メディアがどこまで個人の私生活を報道してもいいのかという点に着目すべきです。さらに、その個人が一般人ではなく、有名人・公人である場合、報道によって人格権が大きく侵害されうる危険性が伴うことがあります。メディアの報道については、商業性という観点も必要となります。言論の自由は守らなければなりませんが、実際のところは売るための記事、いわば煽り文句で読者の興味を引こうとする記事も存在しています。そういった言論機関や記事は、言論の自由を盾にすることはできません。

以上を踏まえておさえておきたいことは、「記事に商業性が存在していること」と、「朴槿惠大統領が公的個人であるためにある程度は私生活が露出せざるを得ない」という2つの前提です。

第二に、日韓の葛藤関係です。

事件当時も、今も、朴大統領と安倍晋三首相は単独での首脳会談を行っていない状態が続いており、現在の日韓には信頼関係がありません。そのようななかで、日本メディアの『産經新聞』が、朴大統領を貶めようという意図を持って記事を掲載したのであれば、韓国大統領府としては黙って看過することはできないという判断をくだし、このような制裁を加えたのでしょう。

第三に、大統領府の目的です。

あの記事を放置することで、韓国国民に報道内容が”事実化”してしまことを避けるために、裁判という手段をとったのが本音だと思います。名誉を毀損されたので加藤前支局長個人に処罰を求めているというよりは、あの報道は「事実ではない」ことを内外に広く伝えることが目的なのです。

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コメント

VHHHHKG 大韓弁護士協会公報理事カン・シノプ氏へのインタビュー記事 4年以上前 replyretweetfavorite

Singulith >「韓国は「法治国家」なのかと、疑問の声が国内外から上がる象徴的な事件」     https://t.co/rSNbHKlV4g 4年以上前 replyretweetfavorite