伊藤直樹(クリエイティブ・ディレクター) →為末大(爲末大学) Vol.3
「アスリートに「美しさ」は必要ですか? 」

デジタルメディアを中心にさまざまなプロジェクトを手がけ、国内外から注目を集めているクリエイティブ・ディレクター、伊藤直樹さん。「身体性」をクリエーションの重要なテーマとして掲げてきた伊藤さんが、今回インタビュー相手に選んだのは、400mハードルで3度のオリンピック出場経験を持ち、昨年6月に惜しまれつつも現役を引退した為末大さん。引退後もさまざまな場での講演やイベント、ツイッターでの発言などで話題を集めている為末さんに、伊藤さんが聞きたいこととは?

アスリートに「美しさ」は必要ですか?

Q.僕は以前から為末さんに「走るアート」「走る日本製品」といったイメージがあったんです。 為末さんの本などを読んでいると、走りや振る舞いに美学を感じますし、精密機械のように限りなく機能的であり、同時に美しくありたいと考えていたんじゃないかと。

為末:選手には色んな考え方をする人がいますが、大きく分けると2つのタイプがあると思うんですね。ひとつは、自分が理想だと考える走りに必要な要素を盛り込んでいこうとする考え方。もうひとつは、逆に要素をそぎ落としていくことで、本来の自分の自然な動きに近づいていこうとする考え方です。競技人生の前半は足し算型、後半は引き算型になる場合が多くて、僕も最後の方は後者に近かったんです。じゃあ何を省き、何を残すのか、AとBのどちらを選んでいくのかという局面で、選手が頼りにするのは科学的な根拠ではなく、自分の美意識や感性だったりすることが多いんですね。そして、そのジャッジは往々にして当たることが多い。僕の場合は、競技人生の終盤は、自分が気持ち良いとか心地良いと感じることが正しいことなんだという考えを意識的に持って取り組んでいました。そういうところはアートやデザインに通じるところなのかもしれませんね。

Q. たしかに為末さんには、他のアスリートに比べて、デザインされていた感じがします。僕が見たSFCでの講演で、為末さんは昔の写真も出していましたが、中学、高校の写真を見ていくなかで、どんどん美しくなっていっている印象を受けたんです。多くのアスリートは、まずは早くなりたいとか合理的でありたいと思うはずですが、為末さんはそこに美しさというものを両立させている数少ない人のように感じました。


為末:美しい動きはパフォーマンスも高いということを自分のひとつのコンセプトにしていたから、美しくありたいという思いは強かったと思います。自分なりの理想というものがあって、そこに近づきたいという思いを常に持っていたのですが、それは単純な「速さ」とはまた違うものなんですね。だから、陸上を辞めた後もその理想の追求は終わるものではなくて、また別の登山口から登り始めているイメージなんです。それが何かを言葉で説明するのは難しいのですが、おそらく伊藤さんもそうだと思いますが、ジャンルをまたいで何かをつないでいくというところにスゴく興味があるんです。



Q. 現役時代も、スポーツ以外の要素を参考にしていたところはあったのですか?

為末:そうですね。さっき話したAかBかを選ぶ時のセンサーというのは、競技をやっているだけで磨けるものではないと思うんです。それは言語や、写真や絵画などの芸術、もしくは数式なんかとも通じるものがあるかもしれない。現に数学者の人が「美しい数式」という表現をすることもありますよね。人間は何かを極めていくと、美しさというものを高い次元で共有できると思うんです。そこには普遍性のようなものがあるんじゃないかと思い、陸上以外のものにも触れていこうと意識していたところがありましたね。

これからやりたいことは何ですか?

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