僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだけれど飽きっぽい。
ユーリ「クッキーおいしかったね! ……何してんの?」
僕「さっきのこと、考えてたんだよ。ほら、これの話」
ユーリ「そーだった。長方形を使っても、スキマ空いてるから、 面積は正確に求められないよね」
僕「その通りだね。長方形が一つだったら面積は《掛け算》すれば求められる。長方形がいくつか並んでいたならそれを全部《足し算》すれば求められる。 でも、こんなふうにグラフが曲線になっていたら、 いくら長方形を並べても正確には求められない」
ユーリ「それじゃ、おもしろくない……そんで? 何かワザがあるっていってたじゃん。必殺技?」
僕「うん、高校で習う極限(きょくげん)を使うんだよ」
ユーリ「きょくげん……といえば」
僕「といえば?」
ユーリ「紫木一姫とか市井遊馬とか」
僕「それは字が違う……急に戯言シリーズを持ち出すなよ」
ユーリ「へへ」
僕「まじめにいこう。たくさんの長方形を使って面積を求めるんだけど、 正確に求めるために《長方形の幅をできるだけ小さくする》ということをやりたいんだ」
ユーリ「ほほー」
僕「長方形の幅を小さくすれば、実際の面積に近づくからね」
ユーリ「むむむ? ねーお兄ちゃん、これ円周率のときにやったよね!」
僕「円周率?」
ユーリ「ほらほら! 円周率を《数えて求める》話のとき。誰だっけ、ピタゴラスだっけ」
僕「ああ、アルキメデスだね。アルキメデスが正$96$角形を作って円の面積を求めようとした話」
ユーリ「そのときにも、だんだん細かくしたよ!」
僕「そうだね。その通りだ。あのときは、正$6$角形→正$12$角形→正$24$角形→正$48$角形→正$96$角形と変えたよね。 これから始める計算も、それと似た話になるよ」
ユーリ「円周率$3.14$まで行くの、すんごく大変だった。おもしろかったけど」
僕「おもしろかったよね」
ユーリ「そんときのユーリの活躍は、丸い三角関数で読めまーす!」
僕「メタ発言禁止」
ユーリ「気にしない、気にしない。そんで? どーやって面積求めるの?」
僕「具体的に考えてみよう。やさしいところで、こんな三角形の面積$S$を求める」
ユーリ「すぐわかるよ! 底辺×高さ÷$2$だから、$1\times1\div2 = \frac12$で、$S = \frac12$だ!」
僕「そうだね。確かに$S$の値はそうなる。で、それを長方形を使って求めてみようということ。 $4$個の長方形が見えるかな?」
ユーリ「$3$個しか見えない」
僕「一番左の長方形は高さが$0$だから見えないけど、長方形の一種だと思ってみよう。そうすると、この長方形$4$個はぜんぶ幅が$\frac14$であることがわかる」
ユーリ「$4$等分したから、そーだね」
僕「そして高さはどうなっているかというと……」
ユーリ「$0$と$\frac14$と$\frac12$と$\frac34$になってる」
僕「その通り。それで正しいんだけど、パターンがよく見えるように約分しないで書くと、長方形$4$個の高さは…… $$ \dfrac04, \dfrac14, \dfrac24, \dfrac34 $$ となるのがわかるね」
ユーリ「ふんふん。わかるわかる。分子が$0,1,2,3$になるって言いたいんでしょ?」
僕「そう。この、三角形の下にある長方形$4$個の面積を$L_4$と表すことにしよう」
僕「そうすると、長方形の幅が$\frac14$であることに注意して……$$ \begin{align*} L_4 &= \frac14\cdot\frac04 + \frac14\cdot\frac14 + \frac24\cdot\frac14 + \frac34\cdot\frac14 \\ &= \frac1{4^2}(0 + 1 + 2 + 3) \end{align*} $$ になる」
ユーリ「わかる! 計算すれば、$\frac{0+1+2+3}{16} = \frac{6}{16} = \frac38$になる。これって、三角形の面積$\frac12$より小さいね。$\frac12$は$\frac48$だもん」
僕「ああ、そうだね。そういうふうに確かめるのはとてもいいね! でも、実は《計算しない》ほうが役に立つこともあるんだ。つまり、 $$ L_4 = \frac1{4^2}(0 + 1 + 2 + 3) $$ のまま、いったん置いておく」
ユーリ「もっと計算できるのに?」
僕「もっと計算できるのに。なぜかというと、 いまは《$4$分割したときの長方形の面積の合計》を求めているんだけど、 ほんとうに求めたいのは《$n$分割したときの長方形の面積の合計》なんだよ」
ユーリ「えぬぶんかつ」
僕「そう。《文字の導入による一般化》だね。長方形の個数を文字$n$で表したい。その準備として、まずは$4$分割している。 だから、面積の合計を表す式の《どこに$4$が出てくるか》がはっきり見えたほうがいいんだ。 なので、《計算しない》ほうが役に立つことがある」
ユーリ「ほほー! ……そんならそーと、先に言ってよね!」
僕「はいはい。三角形の面積$S$は$\frac12$だと僕たちは知っているんだけど、ちょっと《知らないふり》をしよう。 そして、いま、長方形を$4$個、そのうち$1$個は面積が$0$だけど、並べた面積$L_4$と比較すると…… $$ L_4 < S $$ ……という式が成り立つことがわかる。わかる?」
ユーリ「うん、わかる」
上から押さえる
僕「ではもう一度$4$分割しよう。今度は《上から押さえる》ようにする。つまり、三角形を覆い隠すように長方形を並べて、$S$よりも大きな面積にしようというわけ。 図に描くとこうだよ」
ユーリ「うん、アルキメデスの方法と同じで、《はさみうち》をするんだね!」
僕「そういうこと。三角形を覆い隠すように描いた$4$個の長方形の面積の合計を$M_4$と書くことにしよう。そうすると、 $$ L_4 < S < M_4 $$ が成り立つことがわかるよね」
ユーリ「うん、わかるわかる」
僕「じゃ、$M_4$は具体的に計算できる?」
$4$個の長方形の面積の合計$M_4$を求めよう。 計算結果だけではなく、パターンがわかりやすい式も作ろう。
ユーリ「簡単だよ!」
長方形の幅は$\frac14$で、高さは$\frac14,\frac24,\frac34,\frac44$なので、 $$ \begin{align*} M_4 & = \frac14\cdot \frac14 + \frac14\cdot\frac24 + \frac14\cdot\frac34+ \frac14\cdot\frac44 \\ & = \frac1{4^2}(1+2+3+4) \\ & = \frac{10}{16} \\ & = \frac{5}{8}\\ \end{align*} $$ となる。
計算結果は、 $$ M_4 = \frac{5}{8} $$ で、パターンがわかりやすい式はたとえば、 $$ M_4 = \frac1{4^2}(1+2+3+4) $$ となる。
僕「いいね! 確かに、$$ L_4 < S < M_4 $$ が成り立ってる」
一般化
僕「これで、$L_4 < S < M_4$という準備ができた。ここから《文字の導入による一般化》をするんだけど、式をまとめておくよ」
$$ \left\{\begin{array}{llll} L_4 &= \frac1{4^2}(0 + 1 + 2 + 3) && \text{(小さい方)} \\ M_4 &= \frac1{4^2}(1 + 2 + 3 + 4) && \text{(大きい方)}\\ \end{array}\right. $$
ユーリ「お兄ちゃんってよくこういうまとめをするよね。ちゃちゃっと先に進めば早いのに」
僕「いったんまとめておくと、読みまちがいや考えまちがいを減らせるからなんだよ。……で、この$4$を$n$に置き換える。それから、「小さい方」に出てくる$3$は$n-1$に置き換える。 $n$分割すると、こういう式になるはずだよ」
$$ L_n = \frac1{n^2}\left(0 + 1 + 2 + \cdots + (n-1) \right) \qquad \text{小さい方} $$
$$ M_n = \frac1{n^2}\left(1 + 2 + 3 + \cdots + n \right) \qquad \text{大きい方} $$
ユーリ「にゃるほど。$\frac1{n^2}$に掛けるものが違う。《$0$から$n-1$まで足したの》と、《$1$から$n$まで足したの》。確かに$M_n$のが大きいね」
和を求める
僕「ところでユーリは$1$から$n$まで足したらいくらになるか知ってる?」
$$ 1 + 2 + 3 + \cdots + n = \text{?} $$
(ただし、$n$は$1$以上の整数とする)
この連載について
数学ガールの秘密ノート
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