女性の職場進出が3割増えるなら、男性の家庭進出も3割増やすべし?
白河桃子(以下、白河) 若い女性が専業主婦になりたいという願望を持っている、ということを以前本で書かせていただきましたが、最近「主夫」を広めようとしている方々がいて、婚活も企画しているということ聞き、大変に興味を持ちました。そもそも「主夫」とは、どのような方のことをいうのでしょうか?
堀込泰三(以下、堀込) 主夫とは、家庭でおもに家事・育児をこなす男性のことです。専業の方もいますし、兼業の方もいます。兼業の方が多いのですが、多くの家庭は、奥さんが一家の大黒柱となっています。
白河 堀込さんが所属する「主夫」の集団、「秘密結社 主夫の友」ですが、政府の政策目標にならって、男性の家庭進出を3割増やすという目標を掲げて、主夫を普及しているのですよね。どのような団体か、教えていただけますか?
堀込 「秘密結社 主夫の友」は、父親支援のNPO法人「ファザーリングジャパン」の中にある非公認団体です。男性の家庭進出を3割増やすという目標は、半ばじょうだんというか、ユーモアをもって掲げました。
白河 そういうユーモア、大事ですよね。真面目にやっていたら、行き詰ってしまう問題です。メンバーはどういう方がいらっしゃるんですか?
堀込 メンバーは約20名です。主夫といってもほとんどは兼業主夫で、専業で家事・育児をこなす「専業主夫」はそのうちの2人。2人のうち1人は18年間主夫一筋です。
白河 それは立派な「プロ主夫」と言えますね。
堀込 その方は子どもがいない時から主夫だったので、珍しいパターンかもしれませんね。
白河 みなさん、最初から専業または兼業主夫になりたい、と思っていたのですか?
堀込 いえ、必ずしもそうではありません。子どもが産まれ、どちらかが家事・育児をするというタイミングで選択した、というケースが多いです。ですが、結果として、家事・育児をすることが自分にあっていた、ということでしょう。皆さん、本当に楽しそうですよ。
白河 そうは言っても、かんたんな決断じゃなかったと思います。男性のプライドというか、迷いはなかったのですか。
堀込 もちろん、決断するまでにそれぞれ迷いはあったと思います。奥さんが大黒柱となることが前提の選択でもありますから、まずは家計のことを考えますよね。それから、男性としてのプライドや世間体というところでは、メンバーの中には、当初スーツで家事をしていたという方もいます。今は、主夫になったという決意もこめて金髪にして、主夫ライフを楽しんでいますよ。むしろ主夫であることにプライドを持っている。
白河 堀込さんは、どうでしたか?
堀込 ぼくは徐々に主夫に移行したのと、ぼくのほうも妻のほうも、両親が受け入れてくれたので、あまりジレンマはありませんでした。そもそも「仕事」だけが幸せのものさしだ、とも思っていませんでした。
白河 堀込さんが主夫になるまでを、もう少し詳しく教えていただけますか。
堀込 大学時代から付き合っていた妻と結婚し、ぼくはサラリーマンをして、妻は研究者をしていたのですが、入社4年目で、妻が妊娠しました。当時、彼女は1年ごとの契約で働いていたので、育休をとると、仕事に支障が出るのではないか、ということになったのです。
そこで、わたしのほうが職務規定を熟読して、男女ともに育休がとれるということを知り、これだ! と思い、すぐに上司に相談しました。最初はなかなか理解が得られませんでしたが。その後、妻の仕事でアメリカに行くことになったのですが、途中で育休の期限が切れてしまったんです。妻と相談して、一度は妻子をアメリカに残して仕事に戻ったのですが、日本とアメリカで離れて暮らすことは、お互いに精神的にも肉体的にも厳しく、ぼくが仕事を辞めることになりました。
世間の「正解」≠夫婦の「最適解」
白河 お仕事を辞められたとき、奥さんから、仕事を続けてほしい、とは言われなかったんですか。
堀込 いや、言われましたよ。「育休をとったのも、二人とも仕事を辞めないためだったよね」と諭されました。でも、離れて暮らしてみると、ぼくが家事・育児をしたほうがよいことがわかったんです。
白河 奥さんのほうが、いくらしっかりした職についている、といっても、女性が大黒柱になる、ということに不安はなかったのでしょうか。たいていの女性は不安があると思いますよ。
堀込 もちろん、自分が稼ぎ頭になることに不安はあったようです。あとは、入社間もない男性にはじめて育休をとらせてくれた会社に失礼じゃないか、とも言われました。
白河 男性が2年育休をとるというのは、会社でも目立つことですよね。
堀込 ぼくも、今後育休がとりたい人がとれなくなるのはまずいな、と思いました。でも、子どもたちと2年間も一緒にいると、離れがたくて。もしかしたら、育休をとっていないパパだとこの気持ちは分からないかもしれませんね(笑)。
白河 日常のかかわり方が全然違いますもんね。24時間×2年間一緒にいたわけですからね。
奥様が、アメリカで一人で子育てされていたときは、どのようにされていたのですか?
堀込 実質半年ほど、妻が一人でアメリカで子育てしていたのですが、保育園の月謝が1800ドル、日本円で約18万円かかりましたし、親戚もいない、仕事も私生活も全て英語で、疲れはててしまったんです。
白河 アメリカは保育園が高いんですよね。それは、長くは続かないですね。奥さんの側が仕事を辞める、という選択肢がなかったようですし、堀込さんが主夫になるということが、夫婦にとって、一番よい選択だったんですね。
堀込 その時も、これはもう無理だね、という結論になりました。
白河 堀込さんは現在、お仕事をされているんですよね?
堀込 今は、翻訳の仕事をしています。
白河 年収は、サラリーマンのときと比べてどうですか?
堀込 サラリーマンのときは自動車メーカーでエンジン開発をしていました。会社を辞めて6年たちますが、ずっと働いていたら年収は今より安定していますし、高かったはずです。
白河 具体的に、今の年収を聞いてもよいですか。
堀込 はい。去年の売上はよくて500万円くらいでした。年によりますが、400~500万円くらいがここ最近の平均です。といっても、あくまで売上なので、そこから経費を除くと収入はかなりさみしい感じになってしまうのですが。
白河 では、奥様の扶養は外れているのですね。扶養をはずれても、500万円くらいだと、フリーとしては保険とか、厳しいところじゃないですか?
堀込 現実的に厳しいということはありませんが、国民健康保険の世帯主は妻ですし、郵便物もだいたい妻あてのものが多いので、たまに妻の付属物みたいに感じてしまうことはありますね。
白河 そうだとしても、奥さんが一家の大黒柱となり、堀込さんが主夫になることが、夫婦の「最適解」だったのですね。
堀込 はい。考えてみれば、状況に応じて夫婦の「最適解」を常に探してきたのかもしれません。
(次回へつづく)
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