ビオレタ

第4回 万年筆の周囲は花で埋めつくされた。

TBS系「王様のブランチ」『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『ダ・ヴィンチ』等、各メディアで取り上げられて話題を呼んだ、第4回ポプラ社小説新人賞受賞作『ビオレタ』を特別掲載!
成り行きから、菫の営む『ビオレタ』で働くことになった妙。そこは、行き場のないものを入れる美しい箱「棺桶」を売る、風変わりな店だった。

菫さんが売る棺桶というのは、人間や動物の遺体を入れるためのものではない。

現在店の陳列棚に並んでいる商品は全ててのひらにのるほどの大きさで、いずれも菫さんの手によって装飾が施されている。木の箱に絵が描かれたもの。花の絵が多い。またあるものは紙の箱に布が貼られ、レースで縁取られている。色鮮やかなボタンやビーズをちりばめてあるものや、ガラスでできているものも多い。

見た目はただの宝石箱、というよりも菫さんは当初、宝石箱のつもりでこれを作ったらしい。

 菫さんの店に来る客は、殆ど女性だ。でも菫さんが店をひらいてまもない頃、ひとりの年老いた男性がやってきた。百歳ぐらいに見えた、と菫さんは言う。

鶴のように痩せた体を、灰色の背広で包んだその人は、杖をついて大儀そうに入ってくるなりぐるりと店内を見回した。そして棚の上の宝石箱を手に取り、はっきりとした声で「これは棺桶だね」と言ったそうだ。これ、棺桶みたいだね。でもなく、棺桶として使ってもいいね。でもなく、これは棺桶だね、と。

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ビオレタ

寺地はるな

TBS系「王様のブランチ」『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『ダ・ヴィンチ』等、各メディアで取り上げられて話題を呼んだ、第4回ポプラ社小説新人賞受賞作『ビオレタ』。6月の刊行直後より、「引き込まれた」「ファンになる!」等々、絶賛・感...もっと読む

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