EDMをJ-POPの世界にどう取り入れるか
大谷ノブ彦(以下、大谷) 前回はアヴィーチーやZEDDの話だったんで、次はEDMをJ-POPのど真ん中に取り入れた成功例の話をしようと思うんです。
柴那典(以下、柴) 三代目J Soul Brothersのことですか?
大谷 いや、今回話そうとしているのは彼らじゃなくて。たしかに去年の「R.Y.U.S.E.I.」はホントに素晴らしい曲でしたけどね。
柴 前にもこの連載の「歌って踊ってシェアしまくれ!」で語りましたけれど、あの曲を作ったのはもともとコミケでCDを売ってたような同人音楽の世界の人なんですよね。
大谷 そうそう。そこにはオタクのクリエイターが音楽を作って体育会系の人間が歌って踊るみたいなロマンもあった。でも、今年の「Summer Madness」という曲ではアフロジャックというオランダ人のトップDJがトラックを作ってる。
大谷 つまり海外のEDMシーンの“本物”をそのまま持ってきて、そこに日本語のメロディをつけるやり方をしたわけです。
柴 そうですね。
大谷 でも今回話したいのは、ポルノグラフィティのことなんです。彼らが『RHINOCEROS』というアルバムをリリースしたんですが、そのリード曲が「オー!リバル」という曲。ちょっと聴いてみてくださいよ。
柴 おお、なるほど、これはかっこいい!
大谷 でしょ! めちゃめちゃかっこいいんですよー。
柴 ちゃんとポルノグラフィティっぽいテイストもあるけど、前回話したアヴィーチー以降の歌モノEDMの要素も入っていて新鮮さもありますね。
大谷 ポルノグラフィティって、J-POPの中でもスパニッシュなテイストを魅力にしていたアーティストなんですよね。ガット・ギターを弾いて、サウダージ(=郷愁)の感覚、無国籍な感覚をちゃんと出していた。
柴 「アゲハ蝶」や「ジョバイロ」はまさにそういう曲ですね。
大谷 ご本人にお話を伺ったんですけれど、彼らは瀬戸内海の因島というところ、情報の少ない田舎でJ-POPを浴びるほど聴いて育ったんですよ。そこからロックバンドを始めて、自分たちにできる一番気持ちのいい音楽をやろうとして、こういう独特のポルノグラフィティ節になったみたいなんですよね。
柴 知識じゃなくて感覚で取り入れたということですか?
大谷 そう。そうしたら偶然にも、地中海に面しているスペインの人たちが愛した音楽に共通していた。地中海と瀬戸内海が手を結んだというところに、ポルノグラフィティのポイントがあるわけなんですよ。
柴 なるほど。
大谷 それを直感でつないだから、彼らの音楽には革新性があった。僕は常々この連載でも言ってますけれど、革新性を持ったものが大衆性を帯びたときに、初めてポップになる。最初から大衆を狙って作ったものは必ずしもポップではないんです。
柴 つまり、単にみんなにわかりやすいものを作ったからって、それはヒットするわけではないと。今までになかった新しいものが、人に受け入れやすい形になったときに初めて、人から人に広まってポップになるということですよね。
大谷 これはもう、どんなエンターテインメントでも一緒だと思いますね。
情報が遮断された田舎だからこそ「野生」が育つ
柴 ポルノグラフィティはなんでEDMを取り入れようと思ったんですかね?
大谷 彼らって、あるときから言ってしまえば迷走期に入ってたんですね。ポルノグラフィティ節をあえて封印してマーケットに合わせたBPMの速い曲にしてみたり、いろんな試行錯誤をしていた。
でも、今回のニューアルバムは全部ポルノ節なんです。それは本人も言っていることで。「俺たちの持ってる武器を見せよう。そこに、今ある音楽を足せばいいじゃん」ということになった。でも、実はほとんどEDMを知らないんですって。
柴 えー!? そうなんだ。
大谷 EDMの研究なんて全くしてない。でも、アヴィーチーを聴いて「あ、生楽器のサウンドでEDMをやっていいんだ」って気付いたらしいんです。そこで「俺たちの持ってるものにEDMの要素を入れたら、たぶん今までにないJ-POPになるだろう」と思って作ったのが、さっきの「オー!リバル」だった。アルバム全編がこういう感じなんです。
柴 なるほど。そこも計算じゃなくて直感だったんだ。
大谷 僕もそう思いますね。彼らは非常に嗅覚の優れたアーティストなんですよ。それはやっぱり、瀬戸内海の因島という情報が遮断された田舎で育ったからこそ得た「野生」なんじゃないかな。
柴 東京という都市の感覚でいろんな情報にアクセスして作るポップスとは違う芯の太さがある。
大谷 ありますね。そういう意味では、僕の中で、ポルノグラフィティと千鳥が一緒なんです。
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