ミュージシャンに恋した過去——テイラーへのシンパシー
シンガーソングライターに恋をしたことがある。
はじめは友人に紹介されて知り合った。彼が、現代の邦楽ができるまでの歴史について誰かと話していた様子が印象深く、後日アルバムを買い、ふつうにファンになった。また会う機会があれば、彼の音楽観を聞いてみたいと思った。半年後、別の友人から「ともだちと飲むからどう」と誘われて足を運んだら、彼がいた。そこでわたしは口説かれた。再会するまでのあいだ聴いていた彼の歌が、歌詞が、わたしの頭に浮かんで目の前の男と重なっていく。妄想がふくらみ、好意は焚きつけられ、かけ算で増幅されていくからあっという間に燃え上がった。言い寄られている快感もあったにちがいない。
それから、彼の部屋の本棚に、知っている写真集、詩集、小説を見ると共通項を見出して高揚し、その作家や写真家のロマンティックな空気を彼もまとっているように見えるのだから、もう手がつけられない。勝手に恋心はふくらんでいく。無造作に置いてあったアダルトDVDにまで感じ入るものだからどうしようもない。テイラー・スウィフトが19歳のとき付き合っていた、ジョン・メイヤーのことを歌ったという“Dear John”を聴きながら、わたしはそんなことを思い出した。
わたしが恋をした相手は、ジョン・メイヤーのように何百万枚もアルバムを売るような著名人ではないが、当時、周りの友人に名前を告げると、ファンだと言う人も少なくなかった。だから、彼と接点のある自分に特権意識を抱いたところもあったと思う。ともかく、おこがましいのは承知のうえで、彼女もきっと身勝手な男に惚れてしまう同類なのだろうと、わたしはテイラーにシンパシーを強く感じたのだ。
PHOTO:PRN/PR PHOTOS 『Taylor Swift THE PLATINUM EDITION』
恋愛対象の表現物が恋心を焚きつける
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。