Dragon Ashの「I LOVE HIP HOP」がパクリって?
渋谷直角(以下、渋谷) パクリの元ネタを明かすべきかどうかっていうことに関して、いきなり身内の話であれですけど、僕には妹がいて、いま23歳なんですけど。
樋口毅宏(以下、樋口) お若いですね。
渋谷 そう、結構年が離れてて、その妹は椎名林檎がすごい好きなんですよ。
樋口 23歳だと、若いファンですね。椎名林檎が「幸福論」でデビューしたのは98年だから。
渋谷 で、こないだ打ち合わせをした男性の編集さんがたまたま椎名林檎の大ファンだったんですけど、彼は椎名林檎と同じヴィヴィアン・ウエストウッドの指輪をして、椎名林檎と東京事変以外の音楽は一切聴かないっていうんです。その人のことを妹に話したら、「ルーツ探らないやつは、ニワカ」ってばっさり。
樋口 ははは!
渋谷 「私はマリリン・マンソンから何から全部聴いたし」みたいな。うわ、こいつ順調に仕上がってきてる!って思いましたね。やっぱり、自分の好きな人が何から影響を受けたのか、すごく知りたいから。
樋口 カバー曲があったら、必ずオリジナルも聴くし。僕がつくづく思うのは、音楽でもマンガでも映画でも小説でもそうなんですけど、そこにパクリがあったとき、あらかじめ「教養」として元ネタを知ってるとそれをより楽しめるんだけど、作品のあとでようやく元ネタを知ると「裏切られた」気持ちになってしまうんだなって。
渋谷 あっ、そうですか。
樋口 それを特に強く感じたのは、ずいぶん昔になりますけど、99年にDragon Ashが「I LOVE HIP HOP」をやったとき。あんなの完全に「I Love Rock 'n' Roll」※のパロディだってわかるのに、元ネタを知らなかった人は「Dragon Ashってパクリバンドじゃねーか!」って怒ったでしょ。
※ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツによるカバーでもよく知られる。
渋谷 音楽じゃないけど、最近だとSEALDsの人が作ったソニック・ユースのパロディTシャツも炎上してましたね。これも、「ああ、これ、パクリ問題になっちゃうんだあ……」※って思っちゃいました。
※ソニック・ユースが1990年にリリースしたアルアバム『Goo』のジャケット。
樋口 ちょっと調べれば、過去にさんざんパロディされてるのもわかるのに。
渋谷 もう、「それっぽい」のは「何でもダメ」みたくなったら、ツライですよね。
「わかる人はわかってください」的パロディのおもしろさ
樋口 パロディの話になったからいうけど、渋谷さんの『カフェで~』で僕が本当に感銘を受けたのは、なんといってもこれですよ。
『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』P164-167
渋谷 土田世紀先生の『編集王』。これは「口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持ってかれる漫画 (MASH UP)」っていう短編なんですけど、編集ワナビーの男の子が主人公なのと、土田世紀先生リスペクトも込めて、ここは絶対に『編集王』とマッシュアップ※したいと思って。「もう、音楽のマッシュアップのようにそのまんま使っちゃう、っていうのはどうだ?」と描いたんですけど、画力がなさすぎて、ぜんぜんそのまんまにならなくて(笑)。
※複数の楽曲を編集・同期再生し、ひとつの曲のように仕上げる手法(例:ザ・ビートルズのトラックにビースティ・ボーイズのラップを乗せる等)。
樋口 宮沢賢治の詩「春と修羅 第二集」が引用されている、『編集王』の伝説のエピソードですね。僕はこのページに衝撃を受けて、すぐ家人に読ませましたもん。まず『カフェで~』を読ませて、「これが元ネタだ!」って『編集王』のコミックス版14巻を引っ張り出してきて。
渋谷 描くほうとしては「マニアックだけど、わかる人はわかってください」みたいにおもしろがってるところもあるんですよね。『奥田民生に~』でいえば、この立ち食いそばとか。
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