パクリストほど枯れるのが早い?
樋口毅宏(以下、樋口) フリッパーズ・ギターは、小沢健二も小山田圭吾もすごいリスナー体質で、それこそモノクローム・セットからヘアカット100からアズテック・カメラからオレンジ・ジュースから、いろんな人からネタを拝借してるわけですよ。これって、あの当時は許されたかもしれないけど、いまはもういろいろと……。
渋谷直角(以下、渋谷) グレーゾーンですよね。
樋口 しかも限りなく黒に近いグレーだよね。元ネタをそのままサンプリングしすぎているから再発できない『ヘッド博士の世界塔』なんか、ビーチ・ボーイズ「God Only Knows」の音源から始まってるし。
渋谷 バッファロー・スプリングフィールドとかザ・モンキーズとかも入ってますよね。
樋口 アルマンド・トロヴァヨーリが作曲した、イタリア映画『セッソ・マット』のサントラとか、元ピンク・フロイドのシド・バレットの音源もそうだし。
渋谷 スライ&ザ・ファミリー・ストーンも。
樋口 ストーンズも突っ込んでるし。でも、彼らは自分の本当に好きなものからしかパクってないんですよ。
渋谷 はいはい。
樋口 でね、これは僕の自説なんですけど、パクリストほど枯れるのが早いんじゃないかって。
渋谷 フリッパーズは3枚しかアルバムを残してないですね。
樋口 解散後も、小沢も小山田(コーネリアス)もそれぞれソロであれだけ素晴らしい作品をリリースしてきたのに、あるときからピタッと活動が止まっちゃったでしょ。小山田なんか10年近くアルバム出してないし。
渋谷 『SENSUOUS』※からそんなに経ちますか。
※2006年にリリースされたコーネリアスの5thアルバム。
樋口 ついでにいうと、「from Nakameguro to Everywhere」※だったのが、中目黒から撤退しちゃって、いまや中目黒はEXILE帝国になっちゃった。いま小山田の目撃情報は、三軒茶屋の西友とかであったりするじゃないですか。
※コーネリアスが2002年よりスタートさせたワールドツアーのタイトル。2008年にDVD化。
渋谷 中目黒はもう、完全にそっちになりましたね。
樋口 僕は去年、ベン・ワット(元エヴリシング・バット・ザ・ガール)のライブで見かけた。というのはさておき、小沢も小山田も、そうやって好きなものしかパクれないから、早々にネタ切れするんじゃないかって思うんですよね。それは映画でも同じで、ほら、クエンティン・タランティーノがあと2作撮ったら引退するって公言したじゃないですか。
渋谷 えっ、そうなんですか?
樋口 うん。タランティーノは、たとえば『キル・ビル』だったら『修羅雪姫』※をはじめ引用、オマージュ、パロディ満載でしょ。しかも彼は、それを隠さない。インタビューした町山智浩さんが言ってたけど、なにしろパクリシーンを撮影する前に、スタッフを集めて元ネタのDVDを見せて「いまからこれと同じの撮るから」って指示するくらいだから。なかには、M・ナイト・シャマランみたいに、パクリ元を隠す監督もいるけど。
※小池一夫原作、上村一夫作画のマンガ。1973年に公開された梶芽衣子主演の映画版がタランティーノに多大な影響を与えたといわれる。
渋谷 パクってないよ風な感じで。
樋口 で、そういう「パクリストほど早く枯れる」ということに最も自覚的だったのが、大瀧詠一だったんじゃないかと僕は思うんですよ。大瀧さんも代表作の『A LONG VACATION』が81年、次の『EACH TIME』が84年で、それから約30年間ニューアルバムを出さないまま逝去してしまった。大瀧さんも自身の膨大な音楽ストックの中からまんま、トレースレベルで引っ張ってきてるんだけど、やっぱり自分の好きなものからしか引用できないんですよ。