ヤケクソ気分の社員旅行がすべての始まり
加藤貞顕(以下、加藤) クラシコムが運営している「北欧、暮らしの道具店」は、Facebookページ「いいね!」30万以上、Instagramアカウントのフォロワー20万以上と今、大変人気のあるECサイトですね。サイトへの月間のアクセスはどのぐらいあるのですか?
青木耕平(以下、青木) 月間のPV(ページビュー)が約1000万ほどですね。
加藤 「北欧、暮らしの道具店」はネットショップというより、まさにメディアですよね。まるでライフスタイル誌の掲載されていたようなコンテンツと掲載して、それでモノを売って、大成功している。僕は最近、メディアビジネスの最先端をいっているのはここなんじゃないかと思っています。メディアビジネスの未来のお手本のようなサイトですよね。
青木 ありがとうございます。
加藤 「北欧、暮らしの道具店」のサイトを始めたのはいつでしょうか?
青木 実際に始めたのは07年9月です。もともとは賃貸不動産のオークションサイトを運営する事業を立ち上げようとしていたのですが、ぼくに力量がなさすぎて全然うまくいきませんでした。
加藤 へええ。もしかして、それでクラシコムという社名なんですか。
青木 はい。キャッシュも着実に減っていって、あと2~3ヶ月でなくなるというときに、会社の口座に残っていた現金で思い出作りの社員旅行をしようと(笑)。
加藤 なるほど(笑)。その旅先が北欧だったんですか?
青木 ええ、そのころから妹と一緒に事業をしているんです。彼女の旦那さんがそのころプロダクトデザイナーをしていて、それがきっかけで当時、北欧にハマっていた。
妹によれば、北欧のヴィンテージのブランド食器類が、日本ではすごく人気があるのに品薄で、買ってくればある程度の利益を確保できるという。なら、会社に残っている現金とぼく個人のクレジットカードを全部持って、限度額まで仕入れてしまおうと。ちょっとヤケクソな気分でした。
加藤 ははははは。
青木 百数十万円分ぐらい食器を買いましたが、準備不足のまま行ったので、売り方どころか梱包の仕方すら全然わかっていなかった。帰国後、郵便屋さんが悲壮な顔で小包を届けに来たんです。何か様子がおかしいと思ったら、手渡された瞬間に「ジャリッ」という音がして。
加藤 うわっ。
青木 半分ぐらいは割れてしまっていました。残りが全部売れても利益が見込めない。だから、儲けるというよりこの機会を生かして何か学びを得ようと考え方を変えました。
加藤 そこで考え方を変えられるのがすごい。
青木 ぼくは商売が好きで、もともと通販ビジネスにも興味があったので、「北欧、暮らしの道具店」を始めたのです。ところが、サイトを作ってテストでオープンしてみたら、注文や問い合わせがどんどん来る。あわてて「まだ販売していないので、よかったらメルマガに登録してください」と返事をしたぐらいです。その後、実際にオープンしてみたら、1週間ほどで3~40万円分ぐらい売れたんんです。
加藤 おお、それはすごいですね。誰も来ないと思っていたら、反応がめちゃくちゃよかったと。
青木 ある意味、奇跡が起こったと思います。僕はよく“パラグライダー理論”と言っていますが、パラグライダーはパラシュートを引きずりながら斜面を下って、一瞬ふわっと浮きますよね。それを何回か繰り返して、崖のところでテイクオフする。なんでも新しいことやるとき、テイクオフする前にふわっと浮く瞬間が1回か2回あるんです。
これって、ささやかでもいいから投入コストに対するリターンが想定以上にあることを実感できるってことなんですけど。それを感じ取ったら、一気にそこに踏み込んでいくのが僕の一つの定石なんです。この時はその手応えを感じました。
理想という結論から逆算して考える
加藤 「北欧、暮らしの道具店」は通販サイトですが、メディアであることを意識して運営されていると思います。最初からメディア的な運営をされていたのですか?