宇宙掃除

第6回】ルナ・ドリームカプセル・プロジェクト

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信さん。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

「ルナ・ドリームカプセルプロジェクトは、思いを同じくした数多くの関係者の情熱で動いているプロジェクトなのです!」
このプロジェクトが内閣総理大臣賞をいただいた時、授賞式の舞台で、大塚製薬のポカリスエットのマーケティング担当の浅見さん がそう話した。
子供たちの描く夢をタイムカプセルに詰めて月へ送り、将来、子供たちの誰かがそのカプセルを地球に持ち帰る。そんな壮大なプロジェクトだ。
大の大人が恥ずかしげもなく「情熱で動いている」と言えてしまうのは、本当にそれぞれの人生の背景にある思いをぶつけているからだ。浅見さんには浅見さんの、僕には僕の思いがある。
みんなで力を合わせたプロジェクト。僕らの会社は技術側を統括してる。僕の思いを素直に書こうと思う。

話は随分と遡る。
3月末生まれの僕は、いつも同級生を追いかけている感じだった。足も学年で一番遅かったから、文字通りみんなはウサギで僕は亀だった。
15歳のとき、アメリカでNASAの宇宙飛行士体験プログラム、スペースキャンプに入った。1988年のことだ。その際、当時40歳だった宇宙飛行士毛利衛さんが訓練を受けていた。お忙しい中、お話して、手書きのメッセージを頂いた。

「宇宙は君達の活躍するところ」

この言葉で、背筋に電撃が走った。宇宙は遠く眺めるものだと思っていたが、自分が主語になっていいのだと、初めて気づいた。
NASAのエンジニアとも多数話した。でかいコーラを片手に、クーラーがガンガンに効いた部屋で見たことのない機器を触っている。

カッコイイ。 ああなりたい!

それまでボーっと生きてきた僕 は人が変わった。死に物狂いで勉強するようになった。それまで学校で180人中160番くらいだったけど、高3の最初の模擬試験では全国で1番だった。
亀は追いつける。 自信がついた。
そして僕は東大に入学した。

それから20年あまり

僕は40歳になろうとしていた。宇宙での掃除を事業にする前にしなければならないことがある。毛利さんへの恩返しだ。
それは決して御礼を言いに行くことじゃない。毛利さんにして頂いたことを、次世代の子供たちに、何百倍にも、何万倍にもしてやってあげることだ。

僕は、今の子供たちに、何ができるだろう―。

日本の子どもたちの夢について調べた。小学生の将来の夢はというアンケート。パティシエ、サッカー選手、ゲームプログラマーなど、多様な夢が上位に並んでいる。
別のアンケートがあり、高校生の3分の2が「自分は役立たない人間だ」と感じている。
なんなんだ!中学・高校の6年間で日本人の2/3が自分に自信をなくすなんて!
東南アジアの国々の子供たちの夢も調べた。先生、警察、医者だけで65%になる。なんなんだ、この多様性のなさは!多分、パティシエという職業を知らないのだと思う。
そうだ、子供たちに夢をまず“言葉 ”にしてもらおう。夢は“言葉”にした瞬間に目標に変わる。

そして、それを決して忘れることのない場所に置いてこよう。それはいつも見ることができるれる場所だ。それは月だ! 月はいつも同じ面をこちらに向けている。
“言葉”を手書きで書いてもらい、金属に焼き付けて封印して、月に持って行く。そして、それをタイムカプセルにする。鍵をかけて子供たちには鍵を渡そう。いつか君が開けに行くんだよって!
月を見上げればそこに自分の夢がある。

夢を向いて生きよう!

こどもたちの夢を言葉にして、月に持って行こう、そして、それをタイムカプセルにしよう。

目的地は月だと思う理由が他にもあった。
2010年、オバマ政権下でNASAは月探査を民間に任せていく方針を打ち出した。月を見限ったからじゃない。月がもう一度アツいからだ。
実は月では次々と大きな発見がされていた。
2007年に日本の月周回衛星「かぐや」が多数の竪穴を発見した。そこは月面基地になるかもしれない!
2009年にはNASAが月に水を見つけた。水が見つかれば、水も、酸素も、エネルギーも取れる。月面に住むために、何もかもを持っていく必要はなくなった!
僕らが科学雑誌で読んでいた月面基地開発はまさにこれからなのだ。今、日本も、アメリカも、中国も、ロシアも、インドも、月を目指している。

さて、とはいえ、技術的には簡単じゃない。

またまた僕は世界 を飛んだ。技術パートナーを探し、諸機関に説明し、合意をもらい、と大変な作業だ。
タイムカプセルの設計は由紀精密の大坪さんと検討した。ロケットの振動に耐える剛性と、30年後でも手で開けられる柔軟性をどう両立させるのか。放射線にどうやって耐えるか。どうやって宇宙に青色を持っていくのか(これは実は難しい)。そもそも、重量をいかに軽くするか。

そうこうするうちに、どんどん仲間が必要になってきた。日本の優れた中小企業、いくつかの大学の知恵や施設などと力を合わせることになった。
大塚製薬の方々の地道な活動で、すでに15万人分の夢が集まった 。

「卓球選手になってオリンピックに出たい」
「忙しくても笑顔で誰からも好かれる看護師になりたい」
「野球選手になってパパとママにホームランボールをあげる」

まだまだ集まるだろう。

打ち上げの日は近づいている。
このプロジェクトはこの形になるまでに何度も何度も山場があった。
山場にぶち当たるたびに、僕たち関係者は情熱で乗り越えている。
このプロジェクトで学んだことがある。 いいプロジェクトは成長する。 楽観は意思で、悲観は気分だ。

僕たちの宇宙掃除もまた、楽観という意思を持って進めることになる。

「第7回 世界に向けてデブリ問題を伝える」に続く

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岡田光信

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

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