カラフルなぼくら

男とも女とも思われたくない「ジェンダーファック」

「トランスジェンダー」と一口に言っても、その性自認にはさまざまなグラデーションがあります。写真家でジャーナリストでもあるスーザン・クークリンが、トランスジェンダーの若者に取材し、「カラフル」な性の多様性に迫った本が『カラフルなぼくら』(ポプラ社)。今回はその中から、女性として生まれ、彼とも彼女とも呼ばれたくない、16歳のキャメロンとのやりとりをご紹介します。

ぼくのファッションは「ジェンダーファック」

 ニューヨーク州ウェストチェスター郡でゲイのプロム・パーティ(*1)が開かれる。16歳のキャメロンによると(本人が「彼」「彼女」ではない性差によらない代名詞を望んでいるので、「この人」と呼ぶことにする)、この人が着用を予定しているのは、男物のシャツとパンツ、そして黒いレザーとメタルのハイヒールだという。
*1 正装で参加するダンス・パーティー。

「ジェンダー的に中立というわけじゃない。だって、ハイヒールはジェンダー要素がすごく強いものだし、ボタンダウンのシャツにもジェンダー要素があるでしょ。それより、うーん、なんて言えばいいのか—汚い言葉を使ってもいい?—ぼくのはジェンダーファック・ファッションかな」

「ジェンダーファック? なにそれ?」

「ごちゃまぜってこと。女物と男物と、そのどちらでもないものがごちゃまぜになってるわけ。グレーのパンツはタイトなコーデュロイだからジェンダー的に中立で、靴はセクシーなやつ。高さが四、五インチあってちょっと厚底。極端な厚底ではないけど」

 地元のレストランでアイスティーを飲みながら、私はキャメロンにジェンダーと性的指向のちがいについて教えてもらった。

「ジェンダーと性的指向は、人のアイデンティティにおける別々の変数で、両者のあいだに関連性はないんだ。ゲイが一歩進んでトランスジェンダーになるわけじゃない。どっちもジェンダーのルールを破壊している点は共通してるけどね。ゲイはセックス相手のルールを破壊してるし、トランスジェンダーは性別のルールを破壊している。こんなことは自明の理と思いたいけど、たぶんそうはいかないんだろうね。

 あなたはゲイかもしれないし、あるいはバイセクシャル、パンセクシャル、ホモ・フレキシブル(ほとんどゲイ)、ヘテロ・フレキシブル(ほとんどストレート)、または単なるクイアかもしれない。たとえばホモ・フレキシブルの女性は、たいていは女好きだけどたまに男が好きになるという、ジェンダーの垣根を超えることがあるクイアのこと。言ってみれば例外のあるゲイってところかな」

 これほど明快かつわかりやすく説明してくれるキャメロンに、私はますます興味を抱いた。目の前に座っているこの人はいったい何者なんだろう?

「ぼくはテレビなんかに出てくる類型的なトランスジェンダーとはちょっと違ってるんだ。親友の中にはトランスジェンダーのゲイがいるけど、ぼくはトランスジェンダーのパン。パンセクシャルのことで、基本的にはジェンダーに関係なく好きになる。つまり、女にも男にも惹かれるし、男でも女でもない人に惹かれることもあるわけ。実際、ぼくが惹かれる人の多くは男でも女でもないんだ」

「詳しく聞かせてよ」

ジェンダーというのは、社会が考えている以上に流動的で複雑なものなんだ。

いちばんわかりやすい説明をするなら、ジェンダーを表す線を横に一本引いて、その両端に矢印をつける。矢印の一方が「男」で、もう一方が「女」になる。

これはジェンダーのスペクトラムみたいなもので、誰でもその線上のどこかに位置することになる。

しかしぼくの場合、このスペクトラムでもうまく説明できない。これだと「男と女のあいだのどこか」という説明になるからで、このジェンダーのとらえ方は一般社会となんら変わりがない。ジェンダーとはそういうものではないんだ。世の中にはこのスペクトラムにあてはまらない、その他のジェンダーというのも存在している。

男でも女でもない人間として認識されたい

 ぼくはキャメロンを名乗ってるけど、本名はぜんぜんちがう名前。これはほんとのこと。  自分のジェンダーに疑問を抱くようになったのは14歳の誕生日を迎える前後だった。性体系(ジェンダー・システム)に疑問を持ちはじめたのもそのころだったと思う。

 最初に思ったのは、自分がジェンダー・クイアじゃないかってこと。ジェンダー・クイアというのは、二元的ジェンダーからの逸脱者—つまり、純粋な男でも純粋な女でもない人のことを指す言葉だよ。

 ジェンダー・システムはもはや機能しなくなったと、いまは自信を持って言えるようになった。実際、ぼくには何の役にも立ってないんだから。それ以来、ぼくは自分を、この社会を支配するジェンダー・システムからのはみだし者と規定するようになったんだ。

 これを理解できない人もいると思う。「ぼくは男だから〈彼〉と呼んで」と言ってるように聞こえるかもしれないけど、ぼくの希望は、男でも女でもない人間として認識されることだ。ジェンダー・クイアとか、流動的ジェンダーとか、その他ジェンダーと呼んでもらってもいい。

 見てのとおり、ぼくは常にこのことを考えている。人生の大きな部分を占める事柄なんだ。ぼくと世界との間に、この問題が大きく横たわっている。ジェンダー問題は社会のいたるところに顔を出していて、ぼくはそれをより深く理解しようとしてるんだ。女の子はなぜピンクを身につけるのか? なぜ男の子は青なのか? ジェンダー・システム全体はどのように機能しているのか?

 自分のジェンダーに疑問を持ちはじめたとき、一般的に受け入れられているジェンダー概念が100パーセント正しいとはかぎらないということに気がついた。その後、トランスジェンダーの人たちと会ったり、トランスジェンダー文学を読んだりするようになって、それが確信に変わった。すべての人にあらゆる可能性がある。それを説明するには、図を使うのがいちばんわかりやすい。

ジェンダーは、二次元の線上というより、三次元の空間の中にあって、男はその中のある場所に漂い、女はまた別の場所に漂っている。そして、ただ漂っているのではなく、その中を泳ぎまわっている人たちもいる。

つまり、泳いでいる人たちは、漂っているだけの人とはちがって、自分がどこへ向かうかを自分でコントロールしている。泳いでいる人たちは、ジェンダーで「いる」(be)のではなく、ジェンダーを「している」(do)んだ。少なくとも、自分のジェンダーを自分で決めている。

ぼくがやっているのは、たぶんそういうことだと思う。

自分らしく生きるため、勇敢に一歩を踏み出した若者たちの告白。

この連載について

カラフルなぼくら

スーザン・クークリン

LGBTという言葉をあちこちで見かけるようになり、セクシャルマイノリティーへの理解もずいぶん進んだように感じます。でも、性別というのは想像以上に多様で、とくに成長過程にあるティーンは、世界を揺るがすような変化と違和感にさらされています...もっと読む

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コメント

3839Ay たとえばホモ・フレキシブルの女性は、たいていは女好きだけどたまに男が好きになるという、ジェンダーの垣根を超えることがあるクイアのこと。言ってみれば例外のあるゲイってところかな https://t.co/dHSRYFv1wW 7ヶ月前 replyretweetfavorite

ichbleibemitdir ジェンダーファック https://t.co/uCuE7eMlBv 10ヶ月前 replyretweetfavorite

043zz ↑のは途中で有料になるけどタイトルが的を得ていたから貼った。こっちは最後まで読める https://t.co/ckQBO0CNaM 自分は同性好きになった事ないけどそもそも異性にも滅多に恋愛感情を持たないので今後の事は不明。 約1年前 replyretweetfavorite

yojik_ 性別の区別も性的志向の区別も無限のバリエーションがあるから常に難しく面倒かもしれない。でもそもそも生きてくのは誰でも面倒くさい(©逃げ恥)という話 2年弱前 replyretweetfavorite