170kmの山道を笑顔で走る男が語る、トレイルランニングが世界一幸福なスポーツの理由

トレイルラン100マイル。おおよそ170kmの間、山道を走る。皆さんはそのスケールの大きさを想像できますか? 公立高校で教師を務めながら、国内外のレースで結果を残し続けるトレラン界のトップアスリート・山本健一(通称ヤマケン)さん。初の著書『トレイルランナーヤマケンは笑う』を出版後、8月下旬にフランスで行われたトレイルレース「レシャップベル」に出場し、見事第2位に輝いたヤマケンさんに、改めてトレイルランニングの魅力についてうかがいました。

山を走って苦しいと思ったことは一度もない

— ヤマケンさんはこれまでにも累積標高13,000m、全長170kmを超える世界の過酷なトレイルレースに出場されていますが、どんなときでもいつも楽しそうに笑って走っています。ズバリ、笑って走っている理由を教えてください。

山本健一(以下、ヤマケン) う~ん、理由はないんですよ、自然とですね。自分でも無意識のうちに笑いが出てしまうというか、自然と笑顔が出てしまうというか。その場面、その空気が、本当に純粋に楽しいんだと思う。僕もはっきりとした理由はわからないんだけど、たぶんひたすら楽しい気持ちで走っているからじゃないかなと。

— レースでは苦しい局面も必ずあると思います。そういったときの上手な気持ちの切り替え方、モチベーションを保ち続ける秘訣はありますか?

ヤマケン 僕はわりと単純なので、目の前の楽しさのほうに心を奪われるんですよ。例えばレース終盤に物凄く激しい登りの道が延々と続く苦しい状況でも、その先にちょっとでも一瞬でも景色がいい場面が待っていたりすると、それでそこまでの苦しさがふっと消えて楽しさに変わってしまう。目の前に来たものを自然に受け入れる力が人よりあるのかなとは思います。レース中に肉体的な疲労はもちろん感じていますが、山を走って苦しいと思ったことは一度もないですね。

— 『トレイルランナーヤマケンは笑う』を出版してみて、何か心境の変化や変わったことはありますか?

ヤマケン 多くの人が読んでくれて、仲間も読んでくれたりして。「非常に楽しい人生だね」と言われて、やっぱり自分が今まで歩んできた道は幸せだったんだなぁと改めて実感しています。嬉しいことが多いですね。

— 周囲からの反応はどのような感じですか?

ヤマケン 自分が思っていた以上に周囲からの反応は大きいですね。僕のことをよく知っている人からは、人生のさらなる助言をいただきました。本にも登場する僕が山を走るキッカケとなった恩師の名塚達夫さんからは、本に書いてあることは共感できることがほとんどなんだけれど、それに捉われ過ぎないで、これからも自分の気持ちを素直に出してほしいと。今回、本に書いたことで、例えば「笑顔で」とかそういうことにどうしても捉われて意識が向いてしまうかもしれないけれど、それすらも取り払ってほしいと言われました。かと言って無意識を意識し過ぎても形になってしまうから、無意識という形も作らずにいくためにどうするべきか—そのへんが今後、僕が成長するために必要なことなのかなと思いますね。

トレイルランニングは世界一幸福なスポーツ

— トレイルラン自体の盛り上がりについては、ヤマケンさんはどのように感じていますか?

ヤマケン トレイルランニングは本当に自由で幸せなスポーツなので、多くの人に触れてほしいと思っています。今、競技人口というか愛好者が増えてきて嬉しいと思う反面、山でのマナーやルールをよく知らないまま山を走り始めている人も多い、という話を聞いて少し心配しています。

— 人気が出る一方で登山者の人たちとのトラブルも増えているという報道がありますね。トレイルランナーは山を走る上でどんなことに気をつけなければなりませんか?

ヤマケン 混雑している山では基本的には走らないほうがいい。ゆっくり歩く人が優先です。自分本位に走れば、山を歩く人たちにとって迷惑になります。トレイルランナーの目線からみても気持ちよく走れたほうがいいじゃないですか。週末、東京の山へ行けば混むことはわかっていますし、山はただのトレーニング場所じゃないので。山っていうのはとても贅沢な場所であり、優雅な場所だと思います。人が少ないエリアを選んで、とびきり贅沢な時間を過ごすのがオススメですね。あとは、一人で山に行かないとか、最悪の事態に備えて装備を持っていくとか、そういう基本的なところは登山の考え方に基づいて走っています。

— なるほど。“ランニング”と名がついていますが、トレイルランニングの楽しみ方は山を楽しむ登山の考え方により近いんですね。

ヤマケン そうなんです。だからぜひ、トレイルランニングをやると同時に登山をしてもらえたらなと。そうしたらもっとトレイルランニングは楽しくなるんじゃないかと思います。山の楽しみ方をもっと知ってほしいと思う。それってきっと走っているだけだと見えてこないことがあると思うんです。

 山を歩けばゆっくり景色が流れますし、気持ちのゆとりも生まれますし、登山者の方とのコミュニケーションだったり、その人たちの気持ちがわかったり、重い荷物を背負って歩くということがどういうことなのかもわかるし、自分が山を走るときにも相手(登山者)の気持ちがわかると思う。僕もトレランと同じぐらい山歩きをしているし、実際歩くのもとても楽しいと感じています。泊まりで行けばもちろん楽しいし、山で食事を作ればもっと楽しいし、仲間と行けばもっともっと楽しい。本当にトレイルランニングでは見えない楽しさも山歩きにはいっぱいあるので、トレランをやる方にはぜひ山も歩いてもらいたいなと思います。

人生を楽しむ秘訣は“無理をしないこと"

— ずばり、トレイルランニングのどんなところがおすすめですか?

ヤマケン 身軽な装備で遠くまで行けること、短時間でいろんな景色を観られること、普段味わえないものに触れることができること、ですね。山を走るのはちょっと敷居が高い…という人は山を歩くだけでももちろんOK。軽装備でもいいですし、登り歩いて平らでちょっとここ走れそうだなというところで走ってみたり、下りでも大丈夫そうだなと思ったらちょっと駆け下りてみたり。

そうすると意外と道がそんなに広くないのでゆっくりでもスピード感を感じるんですよね。周りの木や景色の移り変わりが、まるで自分が速く走っているかのような感覚にさせてくれる。走るレベルとかまったく関係ないと思います。ちょっと小走りするだけでも充分楽しめるし、トレイルランの醍醐味を味わえると思います。本当に気持ちがいいのでぜひ皆さんにも体験してほしいですね。

— ヤマケンさんはトレイルランナーとしての自分、先生としての自分、父親としての自分というのを上手に切り替えられているように感じますが、何かコツはありますか?

ヤマケン とにかく絶対に無理をしないということ。全部を完璧にやることはできないから、ある意味あきらめも大事。仕事はもちろん最優先にはなりますが、家庭とトレーニングのバランスは無理をしないこと。絶対今日やるんだという気持ちじゃなくて、できたらやらせてもらう。家族の言うことは素直に聞きながら、今日は練習に行ってもいいかな、今日はダメかなというぐらいの気持ちでいます。両立するためにも、そこで無理をして家庭を省みないような行動はしないようにしていますね。

— ヤマケンさんにとってトレイルランニングとは?

ヤマケン 僕自身、僕のすべてです。生きている証でもあり、最高の趣味であり、生き甲斐であり、何よりも楽しいことです。

— 最後に読者の皆さまへのメッセージをお願いします。

ヤマケン 日本は山がたくさんある国です。家の外に一歩飛び出せば、日常生活の中では発見できない何かが必ずそこにあります。ぜひ山に行って、自然の雄大さに触れてほしいですね。

ヤマケンはなぜ笑顔で走り続けるのか? 世界一幸せそうに走る男の人生哲学

この連載について

トレイルランナーヤマケンが170kmの過酷な山道を“笑顔”で走る理由

山本健一

舗装されていない山道など自然の中を走るアウトドアスポーツ「トレイルランニング」。近年日本でも老若男女に幅広く人気が高まっている中で、注目を集めるトレイルランナーがいます。自らの半生を語った『トレイルランナーヤマケンは笑う』の著者であり...もっと読む

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コメント

A_yuu000 気になる… 4年以上前 replyretweetfavorite

KANZEN_pub cakesで山本健一さんの連載「」がはじまっています! 第1回がすでに掲載中です。ヤマケンさんが走る理由、ぜひご覧ください! https://t.co/nswM8AJGPj 4年以上前 replyretweetfavorite

YukariWatanabe 私が森のジョギングをこよなく愛する理由はこれ。タフな道を90分走るほうがトレッドミル15分よりずっと楽ちんに感じちゃうのだ。|トレイルランナーヤマケンが 4年以上前 replyretweetfavorite