最初から否定してくる管理職を説得するには

否定から入る管理職は、部下や取引先にとってはやりづらいもの。なかなか営業成績を伸ばせない美沙の障害になっていたのも、そんな取引先の管理職だった。しかし、そこに救いの手がやってきた。足繁く取引先に通う美沙を不憫に思ったのか、取引先の別部門の部長が助け舟を出す。この小説は、ひとりの崖っぷちOLが会社の魂を変えるまでを描いた新感覚のビジネス小説です。

「おはようございます」

すでにひな壇に着席している越野に向け美沙は挨拶をした。左手首に輝くシルバーの腕時計の重みが、弱りかけていた美沙の気持ちを救い上げていた。

坂井に腕時計(アナログ時計)を勧められた美沙は、昨夕さっそく腕時計を買いに行っていた。

『このまま、あなたがよいと思う通りに、営業をがんばっていけばいいんじゃないですか?』

いまは坂井の言葉、そして自身を信じ抜くしかない。結果なんて誰にもわからないのだから。美沙は視線を左下に落とし針の位置を確認した。始業時間まであと半分。(30分)一時間を全体と考え、効率よく時間配分をし仕事をこなす。メールチェックを行い、9時10分にはオフィスを出よう。

営業陣が出勤し始め、目的の挨拶も全員と交わしたのち、美沙が腕時計の針はちょうど1/5を刺していた。予定通りに物事が進むというのはとても気持ちのいいことだ。美沙はホワイトボードに『サニー』と記しオフィスを後にした。

時間通りにサニーに到着した美沙は、約束していた技術部の進藤課長の元へ向かった。

「あ、どうも。浅井さんこっちです」

低い声でボソっと言うと、進藤はスタスタと美沙の前を進んでいった。細身で色白、丸渕メガネはジョンレノンを彷彿させる。部屋に入るなり、美沙は仕様書を進藤の目の前に滑らせた。

「こちらになります。前回の仕様書、西崎部長はなんておっしゃっていましたか?」

「それが申し訳ないです。私としては浅井さんの提案してくれた装置で決めたいんだけどね。なんでも否定から入るところがあって、私の説明不足かもしれないんですが、首を縦には振ってくれませんでした。この性能は他にはないと思うんだけどなぁ」

進藤は視線を落とし、申し訳なさそうに頭をかいた。

サニーが求めているスペックにバッチリ合っていると美沙も自負していた前回の仕様書が認められないとしたら……もう何をしてよいのかわからない。とりあえず他の仕様書も持ってきたが、サニーの求めているものと合致しているとは思えなかった。

「そうですか。一応他の仕様書も西崎部長にご覧いただいてから、またお伺いします。ありがとうございました」

「悪いね。また連絡します」

美沙は静かに技術部の棟を後にすると、まっすぐと資材部のある棟へと向かった。

「五十嵐部長」

「おぉ、浅井さん!」

五十嵐は家を出た娘が久方ぶり帰郷したかのような喜びを見せる。

五十嵐は美沙が初めて坂井と一緒に営業回りをしたとき一時間以上も約束の時間を遅れてきた。美沙にとって第一印象は最悪だった。しかし、のちに何度も顔を合わせていると、信頼のおける人物だということがわかった。坂井が一目置いていただけある。

「今日も技術部へ?」

「はい。仕様書をお持ちしたのですが、なかなか難しいみたいで」

「進藤と話したのかい?」

「はい。進藤課長はうちのスペックは素晴らしい、装置も決めたいとおっしゃってくださるのですが、西崎部長がなんとも……」

「あぁ、西崎はダメだ。あいつは俺の同期だがいつだって否定から入るんだからな。よし、俺に任せとけ」

「えっ?」

「いや、任せとけなんてでかいこと言っちゃイカンな。また連絡するから、そう気を落とさずに」

「はい。ありがとうございます」

美沙は深々と頭を下げ、サニーを後にした。

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izumi_nachi  面白かったです(`・ω・´) 約3年前 replyretweetfavorite