子孫を残せるかの鍵は積極性!ミクロの目で見た精子と卵子のメカニズム

人体の細胞はおよそ60兆個。毎分毎秒、からだの中をめまぐるしく駆け回る血液細胞や、脳の命令を全身に伝える神経細胞など、その種類と役割は様々です。この連載では、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使い、その美しき細胞のセカイに迫ります。初回の主役はからだを「つくる」細胞たち! ミクロよりもっと小さい、「マイクロメートル」の世界で生きる、不思議な細胞たちの姿に迫ります。

からだをつくる最小の生命体・細胞

細胞を表す英語の「cell」は、ラテン語の「cella」(修道院の小部屋、区切られた部屋という意味)に由来します。この構造を発見したイギリスの科学者・フックが命名しました。

(↑は脂肪細胞。青い球体の中に、脂肪がたっぷり詰まっています……)

今回は、その細胞たちのすべての根源である、精子と卵子の驚くべきメカニズムをご紹介いたします。

「最小」の細胞・精子。その生産システムがスゴイ!

ヒトの一番大きな細胞は卵子、最も小さい細胞は精子です。オトナの読者の皆さまならご存知のとおり、私たちヒトは雄と雌で有性生殖を行い、子孫を残します。 雌の生殖細胞、卵子は直径約0.1 mm。対する精子は全長約0.05 ~0.06mm で、精液1ml中に約1億個の精子が存在するといわれます。 男性は生まれたときから、後に精子のもとになる「精原細胞」を精巣の精細管内にもち、思春期になるとホルモンの影響を受けて活動を開始します。精原細胞から精子が完成するまでは約2ヶ月。1つの精巣には500 本(!)もの精巣管があり、成人男性は毎日(!!)約1億個(!!!)もの精子を完成させることができます。

そして精子が卵子と受精し、たった1つの受精卵から60兆個、つまりヒトのすべての細胞がつくられるのです。

(左)精子は、精巣の中にある精細管と呼ばれる、ごく細かく折りたたまれたひだ状の小部屋でつくられます。画像は精細管の内側で発育中の精子細胞をとらえたもの。青色の糸状の部分は精子の尻尾部分(鞭毛)。精細管には、未成熟な精子に栄養を与えて育てる役目をもつセルトリ細胞(赤色)と、やがて精子本体に成長する精原細胞(緑色)の2種類の細胞があります。
(右)画像をさらに拡大します。発育中の精子の頭部(画像下の緑色・赤色をした丸い部分)が、セルトリ細胞の層に埋まっていることが分かります。ここで大きくたくましく育った精子たちが、卵子めがけて一斉にスタートを切るのです。

「タフであれ!」 子孫を残せるかは「積極性」次第?

精子の何がすごいかって、そのメカニズム。精子の頭部(ぽこっと丸い部分)にはDNAが詰まっていて、女性の卵子と受精して男性の遺伝情報を伝えます。しかしそこに至るまでの道は非常に険しく、数億(一回の射精で放出される精子は約2億匹ともいわれます……!)のライバルより先に卵子に到達せねばなりません。そのために発達したのが、尻尾のように見える鞭毛(べんもう)。精巣から解き放たれた瞬間、精子たちは懸命にその鞭毛を振動させて泳ぎます。そして、最も屈強で、最も速い者のみが卵子に到達し、そのDNAを残すことができるのです。

人間社会で行われていることが、私たちの体内でも繰り広げられているなんて! しかし私たちの生きる世界では、意中の女性がどんなに美しくとも、ライバルは多くてせいぜい4~5人。 男性の皆さま、数億の競争を打ち勝って誕生したご自分に自身を持って、意中の女性に積極的にアプローチしてみてはいかがでしょうか。

英語習得も、「細胞」が鍵!

さて、私たちのモトとなる受精卵ですが、その成長はめざましく、受精して24日目には、脳がつくられ始めます。
まずは脳と脊髄のもとになる「神経管」と呼ばれる部分ができ、その中でニューロン(神経細胞)の前身である神経芽細胞やグリア細胞がつくられます。ニューロンは受精後約9ヶ月までに急激に増加して、300 億個ほどになります。それ以降、細胞の数は大人になるにつれ減っていくため、新生児の脳細胞は、大人よりはるかに多いのです。 細胞同士のネットワークは生後~9歳頃までに最も活発に形成され、20 歳頃に完成します。このため母国語以外の言語習得は、幼児期のほうがスムーズなのです。

脳内でニューロンと共に活躍するグリア細胞。その一種で、星形の形状をしているのが、アストロサイトです。彼らは手足のような分枝をもち、脳のニューロンを支え、栄養を供給してくれています。画像は胎児の脳のアストロサイトで、薄紫色の丸い部分は核。緑色の葉のように見える部分はタンパク質でできた「巻き毛」。栄養を集める働きがあり、ニューロンの樹状突起や軸索が成長するとともに絡みあうようになります。アストロサイトは、病原体や毒物、出血などによるニューロンのダメージを補修する修理屋さんでもあります。……なんてできる子!

日本人の名前がついた細胞がある!

「iPS細胞」に、(やっぱり無いことが分かっちゃった)「STAP細胞」……細胞にはいろいろな種類がありますが、人体に存在する細胞の中に、日本人の名がついた細胞があるのはご存知ですか?

 その名も「伊東細胞」(Ito cell)。この子は肝臓にいます。視力に欠かせない「ビタミンA」を摂取・貯蔵する細胞で、肝細胞と毛細血管の隙間に存在し、中は脂肪滴で満たされています。サプリメントの「肝油」(懐かしの「肝油ドロップ」もこれですよ~)は、魚の伊東細胞にあたる部分からビタミンAを抽出してつくられたもの。 この伊東細胞は1956年、解剖学者の伊東俊夫によって発見されたものですが、後年、ドイツの科学者クッパーが「星状細胞」として1876 年に報告していたものと同種だと指摘されちゃいました。 伊東細胞はほかにコラーゲン線維をつくり出す機能もあり、柔らかな肝臓の形と構造の保持に貢献している、大事な存在。しかし、肝炎などで肝臓が損傷を受けたときには、細胞の欠損部分を保護するためにそのコラーゲン線維が蓄積してしまい、硬化して肝硬変になることも。

肝臓は脅威の再生能力をもつ臓器です。その約8割を構成するのが、この肝細胞。画像には肝細胞の中にある2つ特徴的な細胞小器官が写っています。大きな丸い形のものは核で、そのすぐ上にある波のような緑色の線は、タンパク質やステロイドなどをつくり出す組織のひだです。


いかがでしたか? 今回は、私たちのからだを「つくる」細胞をご紹介いたしました。

次回のテーマは、からだを「守る」細胞! 武士のごとく敵(ウイルス)をやっつけ、役目を終えたらしずかに消えてゆく……そんな健気なイケメン細胞たちがたくさん登場します。

お楽しみに!

この連載について

美しい人体図鑑 ミクロの目で見る細胞の世界

奈良信雄

人体は、約60兆個の細胞で構成されています。私たちの太陽系がある銀河系には星が2,000億個あるそうですから、これはまさに天文学的な数字です。細胞はその役割によって、球形、円盤形、アメーバ形、星形など、実に多種多様な形状をしています。...もっと読む

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コメント

tomshirai ヒトの一番大きな細胞は卵子、最も小さい細胞は精子です。 約5年前 replyretweetfavorite

ochibineco |美しい人体図鑑 ミクロの目で見る細胞の世界|奈良信雄|cakes(ケイクス) 細胞も一つ一つ必死で生きている様に思う https://t.co/72w35Q6Rxb 約5年前 replyretweetfavorite

sizukanarudon 美しい人体図鑑 ミクロの目で見る細胞の世界|奈良信雄 https://t.co/LawrADuzEa 世界一受けたい授業・奈良信雄先生 http://t.co/6nGHr4Ionp 約5年前 replyretweetfavorite

amy2949 遅めの昼休憩。ごはん食べながら、この記事読んでたら、ギョッとした顔された ----- 約5年前 replyretweetfavorite