“雌伏の時”を大事にしろ!
——ところで、G1やタイトルマッチには優勝やベルト奪取という明確な目標があると思うのですが、逆に、タイトルマッチに絡まない日々の試合の中でも、小さい目標を立てていらっしゃったりするのでしょうか?
棚橋弘至(以下、棚橋) どんな試合においても、毎回立てますね。
—— 毎回ですか!
棚橋 例えばタッグマッチだと、出番が限られてくることもあるじゃないですか。もちろん僕はその中でも全力をつくします。そして、短い出番の中で何をもって全力とするかというと、“集中力”なんです。ひとつひとつの技を放つときにどれだけの熱を、魂を込められるか。それを自分の着地点にしています。
—— なるほど。たとえばAJスタイルズ※と30分にわたる激戦がある。その一方で、8人タッグの中で、もしかしたら出番は5分もなかったかもしれない試合もあるけれども……。
※新日本プロレスのヒールユニット「BULLET CLUB」に所属するアメリカ人レスラー。アメリカの団体・TNAで活躍し、世界的人気を誇る。G1クライマックス公式戦では棚橋と30分近くに渡る死闘を繰り広げた。
棚橋 その5分以下の中で、もしかしたらストンピング※があるかもしれないしエルボー・ドロップにいくかもしれない。そういう技を、どれだけの気持ちを込めて打てたか。そこで自分の中の「全力」を計るんです。
※勢いをつけ、相手を踏みつぶすように蹴る技。
—— そういう時って、ご自分が目立つことをまず考えるものですか? 例えば8人タッグ戦の中で、タイトルマッチの前哨戦の選手がいた場合、どうしてもお客さんはその選手に注目しますよね。そういう時、「それでも俺が一番目立ってやるぜ!」なんていう風には思わないですか。
棚橋 それは、その試合で「何を一番お客様に見せるべきなのか」を考えた上で判断しますね。「この二人をタイトルマッチに向けてアピールしなきゃいけないな」と思ったら、お客様を全力で煽りますし。
新日本プロレスそのものが上昇すれば、自分もより上に行ける
—— 常に「俺だけを見てろ」っていうだけではないんですね。
棚橋 はい。今は段々そうなってきています。コーナーにいるときに「この二人を見てくれ!」ってお客様に伝えるとか。タッチが終わってその二人になったときに、勝負所だったら相手のコーナーを蹴散らして、二人が試合に集中できるようにお膳立てしたりとか。まあその辺はさらっとやるところですけど。