姫路のおばちゃんに教えてもらった、プラス思考の上位概念
—— いつも思うことなんですけれど、プロレスって、相手を信頼していないとできないものですよね。自分は相手の良さを受け止めるし、自分の良さは相手が受け止めてくれると信じる。
棚橋弘至(以下、棚橋) その通りです。
—— プロレスを長年見ていても、どうして相手にそこまで“委ねられる”んだろうと思うんですよね。かなりの勇気がいることだと想像するんですが。
棚橋 だからこそ、そこにプロレスの醍醐味があるんですよね。これはあるアメリカのレスラーが言ったことですが、プロレスは、「終わった後に自分の足で歩いて帰らないといけない」ものなんです。もちろん相手のことも歩いて帰させなきゃいけない。相手に深刻なケガをさせない、ギリギリのところで勝つ。それはお互いに“委ねて”いないとできないことだし、それがプロレスの美学であり、良さなんだと思います
—— そういうギリギリのところを見つめているプロレスの美学を、私たちも人生に何か活かすことができるんでしょうか。日々戦いに生きているプロレスラーと自分たちは違う、と思ってしまう人も多いと思いますが。
棚橋 本の中でも書きましたけど、「受け身」という考え方とか、受け身を取る勇気は人生に絶対活かせると僕は思っているんです。だから、もっと色んな人に知ってほしいんです。僕は、プラス思考の上位概念として、「相手の全てを受け入れる」という考えかたがあると考えています。
—— それはプラス思考というか、ポジティブシンキングとはどう違うんですか?
棚橋 ポジティブシンキングっていうのは、ある意味、起きたことをそのまま受け入れずに、違う方向に考えていくことじゃないですか?
—— たしかにそうですね。
棚橋 そして、それだけでは解決しないこともある。前の本『棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えられたのか』にも書いたエピソードですが、これは僕がブーイングを受けまくってちょっとしんどかった時期に、姫路のホテルの、マッサージのおばちゃんに教えてもらった考え方なんですよ。