海外遠征で思い知った「身近な幸せ」
—— 棚橋選手が幸せのハードルが低くてもいいと気づいたきっかけはなんだったんでしょうか? いろいろおありかもしれませんが。
棚橋弘至(以下、棚橋) たとえば、海外遠征に行った時とか。新日本プロレスという環境はすごく恵まれていたんだと痛感しましたよ。滞在したマンションが三週間中二週間停電してて、最後の一週間はずっと水シャワー浴びてガタガタしてたりとか……。
—— ええっ!(笑)
棚橋 日本は蛇口ひねればちゃんとお湯が出るから恵まれてますよね(笑)。あとは結婚して子どもができたのも大きかったかな。子どもを育てるのは大変なんだ、って気づいて、両親にもそれまで以上に感謝するようになりました。
—— 大きな夢を持つことばかりに目を向けるのではなく、身近な幸せに目を向けたり、好きなものを増やしたりすることでも人生は良いものになっていくよ、ということなんですね。
棚橋 好きなものを増やす、っていうのは大事だと思っています。好きなことが増えると、それを自分で調べたりとか、見て楽しい気持ちになったりして、生活が充実するじゃないですか。僕の場合はそれがプロレスだった。プロレスを知って、生活がそれまでの千倍も楽しくなったんです。雑誌買ったりビデオ買ったりして、本当に生き方がガラリと変わった。人間関係も見聞も広がっていった。
—— だからこそ、皆が好きになるものの中に、プロレスも含まれてほしい、と思われるんですよね。
棚橋 そうですね。どっぷり好きになってもらえたら嬉しいけれど、生活の片隅にちょっとあって、時々「プロレス元気か?」ってのぞいてくれるくらいの「好き」を持つ方が増えるのだってすごく嬉しいんです。特に地方会場だとそんなに頻繁には試合がないので、「おおプロレスの試合がやってるのか、たまには見るか」って思ってくれる人たちの存在っていうのはとても大切です。
—— 棚橋選手のプロレス愛は誰も疑うところのないものですけど、棚橋選手自身は、プロレス以外に好きなことについても隠さない方ですよね。仮面ライダーも好きだし、お菓子も好きだし、お買い物も好きだし(笑)。
棚橋 あれもやりたいこれもやりたい、って開き直って生きてますから。ギター弾きたいってずっと言ってたら、エアギターじゃなくて、この間とうとうリング上で弾いちゃったりね(笑)。
—— 2014年1月4日の東京ドーム大会では、遂にあのマーティ・フリードマンさんが登場して本物のギターを棚橋選手のエアギターに合わせて下さいましたものね(笑)。本当に、何にでも取り組んでいらっしゃいますよね。
棚橋 これってもう僕の生き方ですよね。高校時代、野球選手になろうとして駄目で、マスコミ方面を志望してそれも駄目で……。
—— ふだんは口に出されないですが、いろいろな挫折を経ていらっしゃる。
棚橋 でも結局プロレスラーになった時には高校時代にやった筋トレが体作りに活きていたり、受験勉強で得た知識が今TVのクイズ番組に出演した時に役に立ったりしている。目の前にある好きなことを一生懸命やっていたら後々全部活きてくる。何も無駄にはならない。この俺がそうだったんだよ、っていうことを、いろいろな人に伝えていきたいと思っています。
—— 新しいファンの方などは、棚橋選手がブーイングを受けていた時代のことを知らなかったりするとおっしゃっていましたけど、この数年、ファン層はやはり広がりましたか。
棚橋 広がりましたよ。会場で、小さいお子さんとか女性のお客さんが目立つようになってきました。あと、お年寄りの姿も増えてるんですよ。
—— そうなんですか!
棚橋 「おじいちゃんプロレス好きなの?」って聞いて、「おお、昔から好きなんだ!」って返されたりすると嬉しいです。もっともっといろんな人に観てもらいたいですね。
生まれた時から全力だった!
—— 今回の新刊には、タイトル通り、「全力」という言葉がたくさん登場します。本以外でも何度も発言されている言葉でもありますが、いったいいつから「全力」派だったんでしょうか?
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