人間の欲が一番わかる身近な場所とは?
前回の記事で、「売りにつながる10の欲望(D10)」をご紹介しました。
①「健康・長生きしたい」
②「セックス欲」
③「食べたい飲みたい」
④「安全安心安泰でいたい」
⑤「気持ちいい刺激がほしい」
⑥「美しくありたい(カッコよくありたい)」
⑦「愛されたい愛したい」
⑧「お金持ちになり豊かな暮らしがしたい」
⑨「社会的に認められたい」
⑩「自己達成したい」
いかに人間がD10を持っているか、それがわかる身近な場所があります。
それは書店です。
書店に行ってみて置いてある「本のタイトル」を見てみてください。
本というと、「文芸書」「学術書」が多いイメージですが、多くは実用書です。
そしてそのタイトルを見れば、多くがD10絡む内容になっていることがわかるでしょう。特に幅広い年代にベストセラーになっている本は、D10をテーマにした本が多い傾向にあります。売れやすいテーマだからです。
例えば日本最大の取次(本の問屋)である日本出版販売が発表している2014年度ベストセラー総合ベスト10のうち、小説などのフィクションや宗教系の本を除いた書籍のタイトルは以下の通りです。
『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』
『人生はニャンとかなる! 明日に幸福をまねく68の方法 』
『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』
『まんがでわかる7つの習慣』
『こころのふしぎ なぜ?どうして?』
『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
逆説的なものも含め、ほとんどがD10を連想させるタイトルになっています。
欲望をベストセラーにした男
このように人間の持つ欲望や欲求を書籍づくりの現場に導入して、戦後の出版業界でベストセラーを連発した男がいます。
それが、神吉晴夫です。
神吉は戦前に講談社に入社し、戦後別会社として設立された光文社に創立メンバーとして参加しました。神吉は、戦前からある岩波新書に対抗して、わかりやすさに重点を置いた新書の刊行を企画し、1954年にカッパ・ブックスを創刊します。
カッパがラッパを吹いているイラストが有名なこの新書は、当時としては大きい9ポイントの活字で印刷され、本の裏表紙に著者の写真と略歴を入れる装丁も画期的でした。
そして神吉は、著者の有名無名を問わず、編集者による企画先行の本作りを手がけたのです。それまでの日本の書籍は、有名作家や学者が自分が書きたいテーマを書くというものが多数でした。
カッパブックスが創刊されると瞬く間にベストセラーを独占しました。創刊翌年の1955年には年間ベストセラーランキングの上位10冊に4冊がランクイン。その中でもランキング2位に入った『欲望 その底にうごめく心理』(望月衛・著)は、まさにタイトルずばり「性や食の欲望」について書かれた本です。
この本の新聞広告でのキャッチコピーは
毎日の欲望を満たし、幸福な方向への欲望のテクニック、
処理の仕方を……
でした。
前述の売りにつながるD10でいうと、①②③④⑤を連想させる1行になっています。
このタイトルやキャッチコピーによって、『欲望』はバカ売れ。45万部のベストセラーになりました。
その後も、カッパブックスはベストセラーを連発し、1961年にはついにミリオンセラーが生まれます。それが『英語に強くなる本~教室では学べない秘法の公開』(岩田一男・著)です。
これは前述のD10で言うと⑨⑩欲求を刺激するタイトルです。
〇〇のように売れる本
『英語に強くなる本』は、8月1日の発売当初から売り切れになる書店が続出し、追加注文が殺到しました。その結果、大増刷になり発売10日後には朝日新聞に全5段の新聞広告がうたれます。 その後、週刊新潮で特集が組まれ、その時に載った書店関係者のコメント「パンが売れるように売れるんです」を元に新しいキャッチコピーが生まれました。 それが
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