ビオレタ

第4回ポプラ社小説新人賞受賞ー寺地はるなさんインタビュー

TBS系「王様のブランチ」『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『ダ・ヴィンチ』等、各メディアで取り上げられて話題を呼んだ、第4回ポプラ社小説新人賞受賞作『ビオレタ』。著者の寺地はるなさんに、デビューにいたるまでの経緯からデビュー作にこめた思いまで、たっぷりお話を伺いました。同時掲載の本編とあわせてお楽しみください。(取材・構成:藤田香織 撮影:土居麻紀子)

昨年末、第四回ポプラ社小説新人賞を受賞した寺地はるなさんは大阪府在住の三十八歳。受賞の報せを受けたのは、子どもを保育園に迎えに行き、自宅へと自転車を走らせている途中だったという。

「その少し前に、最終候補に残ったという連絡は頂いていたのですが、期待よりも、ダメだろうな、という気持ちのほうが大きかったのですごく驚きました。ずっと心の奥底でドッキリじゃないかと疑っていたんですけど、今日初めてこうして取材を受けたり本の装丁を見せて頂いて、ようやくああ、本当だったんだ、と思えてきたところです」

子どもの頃から本を読むことが好きで、いつかは自分も小説を書いてみたい、そうした仕事に就きたい、という気持ちはあった。しかし、それはあくまでも「夢」。二十代半ばの頃、初めて書いた小説も、わずか十数行で投げ出してしまったとか。

以来、結婚、出産、仕事復帰と年月は過ぎ、もう一度「夢」と向き合おうと決意したのは三十五歳の時だった。「今思うと、二十代の頃は、多少は書けるだろうって根拠のない自信があって、だから自分の下手さが許せなかったんだと思います。でも、三十五歳にもなったら、自分がそんなに大したもんじゃないと分かっている。ちょうど育児休暇が明けて忙しくしていた頃でしたが、一日のなかで、三十分でも一時間でも、日常とまったく別の世界に入れることも楽しくて、だから下手でも気にせず、最後まで書き上げることができたのかもしれません」

初めての小説が完成したのは今から二年前、三十五歳の夏。誰かひとりには読んでもらえるだろうと、文芸誌の新人賞に応募してはみたものの、結果は一次通過も叶わなかった。

しかし翌春、今とは別名義で応募した作品が第二十九回太宰治賞(太宰賞)の最終選考まで残り、更に昨年、二年連続での第三十回太宰賞、第十回日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞(ラブタメ大賞)とたて続けに最終候補に挙げられた。見事受賞に至ったポプラ社小説新人賞を含めると、初めて小説を書き上げてからわずか二年半で最終候補四回という好成績。しかも、それを純文学とエンターテインメントという異なるジャンルで収めたのだ。「下手でも気にせず」どころか、恐るべし才能だと感じるが、寺地さん自身はこのデビューに至るまでの道のりをどう受け止めているのか。

「初めて書いた小説以外にも、いくつか書き上げて新人賞に送っていたのですが、ぜんぶ一次も通りませんでした。それが太宰賞ではいきなり最終候補になったので、ああこれは相性が良いのかもしれないと思ったんですね。だけど、翌年もまた最終で落ちてしまって、あれ、そうでもなかったのかなって(笑)。それで、じゃあまた違う賞にも送ってみようと公募ガイドを買ってきて、応募したのがラブタメ賞でした。実は私、純文とかエンタメとか、あまり意識したことがなくて、今でもその違いがよく分からない。特に作風を変えたわけでもなく、単に締切が近かったから応募しただけなので、ジャンルが違うのに凄いって言われると恐縮します……」

太宰賞は最終候補になると一冊の単行本にまとめられるのだが、確かにその作品や、ラブタメ賞の選評を読む限り、今回の受賞作『ビオレタ』と、作風に大きな違いは感じられない。いずれも、日常から大きく逸脱することのない、私たちの日々に寄り添う物語だ。

「毎回、一応プロットは作りますが、ストーリー先行ではなく、自分のなかにあるなにか〝ひっかかる〟物事を膨らませながら書いています。頭のなかにあるバラバラのピースみたいなものが、繫がる瞬間が来るのを待ってるような。『ビオレタ』でまずあったのは、主人公の妙を拾ってくれた菫さんのイメージ。何かを作っている、手仕事をしている、迷いのない強い女の人が思い浮かんで。そこから、でも、そういう強い人が誰かを救うような話じゃありきたりで面白くないな、じゃあ主人公は逆に人間として未熟な、ダメな子にしよう、そういう子でも誰かの助けになれるんだ、ってことを書こうかな、という感じで進めていきました。一度書き上げてからも、一年ぐらいかけて少しずつ手直しして。家族のエピソードや、法事で島に渡る場面を書き足したり」

『ビオレタ』は、結婚を間近にしながら婚約者にフラれた主人公・妙が、人目をはばららず路上で号泣していたところを、雑貨店『ビオレタ』を営む菫さんに拾われ、彼女の店で働き、周囲の人々や客と触れ合ううちに、少しずつ自分を取り戻していく物語だ。と書くと、特に目新しさは感じられないかもしれないが、圧巻なのはそうした普遍的な物語を飽きさせず、読者をぐっと惹きつけ読ませる文章力である。台詞のひとつひとつに発する登場人物の体温が感じられ、何気ない描写が深く胸に残る。それでいて随所にユーモアがあり、読み手の気持ちをふっと和ませもする。

「ユーモアに関しては、私のダメなところでもあるんですけど、真面目なことを書き続けていると自分が耐えられなくなるんです。文章も、過去の選評でも書き慣れている、というようなことを言って頂いたことがあったけど、自分ではよくわからない(笑)。ああ、いい文章を思いついた、と思うことがあっても、好きな作家さんの模倣になっているような気がして、あまり小説を読まないようにしていた時期もありました」

「でもよく考えたら、無意識に影響を受けている部分はあっても、私が書いたら同じにはならないんじゃないかと。そう思ってからは気が楽になりました」と笑うが、実際、作品からはデビュー作にして既に寺地さんの「色」や「味」を強く感じる。それはもう、誰かに教えられて生み出せるものではない、特有の武器だ。

そして三度目ならぬ四度目の正直で「夢」を摑んだこれからは、商業作家としての「現実」が始まる。「自信はありますか? と訊かれたら、ないです、っていうしかないんですけど、それじゃダメだという自覚はあります。大きな事件が起きるような派手な物語は思いつかないけど、逆にいえば、そうじゃない物語なら書き続けていけると思うし、そうした物語を好んでくれる方もいると信じたい。みんなに好かれる話じゃなくても、誰かにちゃんと届くような話を書いていきたいです。次の夢は、いつか書店の棚に自分の名前の仕切り板を作ってもらうこと! 叶う日が来るように、地道に頑張りたいと思います」。

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寺地はるな

TBS系「王様のブランチ」『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『ダ・ヴィンチ』等、各メディアで取り上げられて話題を呼んだ、第4回ポプラ社小説新人賞受賞作『ビオレタ』。6月の刊行直後より、「引き込まれた」「ファンになる!」等々、絶賛・感...もっと読む

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