人生においてしなければならないことなど、何もない
「君は今、何をやればいいのかわからない、何を勉強すべきか、どうすればいいのかわからないと、悩んでいるかもしれない。しかし、『人生においてしなければならないことなど何もない』のだよ。
何をしたらいいのかわからなければ、何もしなければよい」
「それでも何かしなければ、と動き出してしまうのは君達が恐怖に立ち向かう勇気をまだ持っていないからだ。
私は君のその状態を否定しない。ただ、君は、自分のステージを理解しておくことだ。自己を俯瞰し、自分の感情、自己の本質に目を向けるということだ」
「大事なことだから、繰り返す。『この世の中に、君の人生に、しなければならないことなど何1つない』。君は、その存在そのものが価値あるものである。それを認めるしか人生の本当のスタート地点に立つすべはない。
外の世界で死ぬほど頑張って何億稼いだとしても、この真実、自分の本質的価値に気づかなければ、君は死ぬまで走り続けることになるだろう。内なるバイアス(偏見、他者嫌悪)を癒せなければ心の平安は得られないだろう。だからこそ青春の本質は自己肯定の内外の旅だと私は言いたいのだ」
「しなければならないことがない……ってのは、ショックが大きいですね。まだ飲み込むのに時間がかかるな……」「もちろん、時間はかかってもいいんだよ」
本当のエリートとは?
「さらに君は自分の将来の不安ばかり考えているが、それはダメだ。ノブレス・オブリージュという言葉がある」
「ノブレス・オブリージュ……」
「高貴なるものの義務という意味だ。真のエリートは、公共に殉ずるものだ。結婚式を挙げた君の友人の姿じゃない。君はエリートになるべきだ」
「僕がエリートに!?」
「エリートというのは、学歴でも出自でも所得でもない。エリートは自己が満たされているが故に公共への忠誠を尽くす魂を持つ者のことだ。ヨーロッパの貴族は戦争が始まると将校として前線で真っ先に命を落とす。だが、日本の軍部は中枢が生き残り、特攻を美化して責任の所在をそらした。それは大きな違いだ。日本には今、エリート教育は存在しない。ノブレス・オブリージュを養うのには時間がかかる。今からすぐ始めなければならない。我が国の未来は中央政府にも、団塊世代にもない。君達の勇気にかかっている。君の成功を心から応援する」
「はい、ありがとうございます」
「さて君への授業は今日で終了だ。これまで私の話に付き合ってくれてありがとう」
「え!?」