この国で結婚をするということ 後編

元切込隊長・山本一郎氏が初めて語る自分の話。奥様と出会い、結婚をし、子を得て、そして自分の親と向かい合った時に何を思うのか。cakesオープン日に大きな反響を呼んだ、感動のエッセイ後編です!

この国で結婚をするということ 前編

 家内との出会いは、知人の紹介でした。もう諦めたはずの、結婚前提のお見合いではなく、ふっと、いい人がいるので会ってみないかと言われて、新宿の紀伊国屋書店の前で待ち合わせました。私自身、仕事が遅れて一時間近く遅刻していったんですけれども、家内はずっと、待っていてくれた。いま思うと、あそこで愛想を尽かされたら、正直いまでも独身だったろうと思うのです。しかも、最初に考えておけばいいのに喫茶店でお茶でもと言っても空いている店を探せなくて、これまた一時間近く新宿をふらふら。家内も、どういう人なんだろうと 感じたんだと思っていたんですが、あとからそのときのことを聞くと、どうやら、面白い人だと思ってくれていたようです。

 あまり私自身のことを知らされていない風だったので、私からはおカネのことや仕事のこと、本のことや、ネットで「切込隊長」などと自称していろんな人に面倒くさがられていることなどは言いませんでした。家内も、いろんな意味でおカネに執着しない人で、まっすぐに私を見てくれていました。日ごろ暮らしていて、ネットや仕事や投資や他人の悪口の話が出ない人と長い時間一緒になることはありませんでしたので、ただ薄ぼんやりと「私は恋をしているのだな」と何ヶ月かかけてようやく認識できるようになったのです。

 家内は歯学部を出てから東京大学付属病院の口腔外科に勤めていたこともあって多忙で、私もあれこれバタバタと走り回っておりますので、二人で会うのはもっぱら深夜でした。ようやく手を繋ぐことができ、一緒に赤坂で暮らすことになり、築地の安い寿司屋でプロポーズをしました。なんというか、結婚までの間は、私が「人間になっていった」ような感じでした。冷たくて荒涼とした人生を一生懸命に歩んできて、人は一人で死ぬものと思い込んでいた私が、ようやくなんとなく辿り着いた穏やかな松明の光のようなもので。

 正直、何で結婚できたんだろうと思うところがあります。たぶん、九割九分、運だと思っています。神が授けてくれた、とかそういうレベルに近い、私の人生においては、この破綻寸前の山本家が私の投資収益でどうにかなったことと、私の大変な人間性であるにも関わらずご縁があって家内と結婚ができたことという、二つの奇跡によって構成されているといっても過言ではありません。 なので、私は全力で投資に取り組み続け、同じく全力で家内を愛し続けようと思っています。これは私の人生に課せられた義務であり、したいことの最優先であることは間違いありません。

 長男が生まれたときに思ったのは、こんな私でも子供が抱けるんだという客観的な心境でした。生まれる直前にちょっとしたハプニングがあり、長男が少し小さめに生まれてきたことでわたわたして、感動だ感激だというよりは無事に生まれてきてくれて良かった、私はツイている、という少しひいた感覚でして。

 ただ、赤ちゃんの割には小さく痩せて生まれた長男が、私の人生においておおいなる負担でもあった親父に激似だったのです。もう、小さな親父。私のあの父が、ちっちゃくなって私に抱かれてミルクを飲んでいる。これが、悲しいぐらい親父に似ていまして。

 あの待望の、自分の長男が、自分自身を抑圧したり、一方でとても期待してくれていた親父に激似という。改めて、血というのを再認識します。ああ、好いても嫌っても親父は親父であります。この子にとって、私はどういう親父になるのだろうなあと。私は彼とどういう対話をし、どんな心の交流をしていけば、この子が伸びやかに過ごし、人生を豊かに歩んでいけるのだろうなあと。自分にはできなかった、人間として相応しい心を持って育っていくにはどういう父親になればよいのかなあと。

 その意味で、父親としての自覚という一般的な語感とはちょっと違う、生き物としての感覚の変化のようなものが私の中に芽生えたように思います。独身で、したいことをして、凝ることにすべての神経と時間を注ぎ込んだいままでと大きく変わる何かです。まさに、自分自身を構築しているすべての細胞に含まれる遺伝子のうちの、何かのスイッチが入った瞬間だったように感じるのです。

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山本一郎

 『大人が読んで、心がゴトゴト動く童話』を紡いでいきたいと思います、パッチを当てて貼り合わせたものではない、縫って繋いだものではない、過去からいまへ繋がる道のりを、穏やかに書き綴りたいのです。  それは、捨ててきた過去であり、逃...もっと読む

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コメント

contractio @frroots こんな感じかも。 https://t.co/XECZ1NsOFN https://t.co/L4jl7Kl2Ov 7ヶ月前 replyretweetfavorite

Shu_Katsumata 何度読んでもすばらしいなあ 11ヶ月前 replyretweetfavorite

user1566233 なるほど、山本一郎氏の奥さんは、口腔外科医なのですね。ネットでも、確認できました。 https://t.co/NpAk0bhwOn 自称「投資家」というのも、儲かっているのかどうかは、こちらでは、わかりませんからね。 (^_^;) https://t.co/3etBBuVVU8 約1年前 replyretweetfavorite

gotks 家庭を築くと気付くことがままある、と思い返しますな。子供がいれば尚のこと。 1年以上前 replyretweetfavorite