最終回 真面目な珍書『日本・欧米間、戦時下の旅』とエピローグ

2014年に刊行した『ベスト珍書』。世の中にある珍書を選び抜いたその本から、さらに担当編集者がチョイスしたヤバイ本を、本文より抜粋してご紹介。今回は珍という名目で紹介するのがはばかれる本1冊と、『ベスト珍書』に隠された2つの秘密を公開します。これを読めば「この本自体がヤバい」と主張する理由も分かるはず。さあ、世にも類まれなる珍書、あなたは読んでから人生を終えますか、それとも読まずに終えますか?

戦時下に、命からがら日本へ引き揚げてきた人たちの旅程
日本・欧米間、戦時下の旅―第二次世界大戦下 日本人往来の記録
(泉孝英/淡交社/2005年)

 私のことを元々知っている読者は、今まで機会がある度にこの本を猛プッシュしてきたので、おなじみかもしれない。それほど「珍」というわけではないのだが、是非とも多くの人に知ってもらいたい本である。常に私の愛読書と宣言しているほどだ。

 第2次世界大戦時に海外、主に欧州にいた日本人にどういう人たちがいて、彼らがどうやって日本に引き揚げてきたかを詳細に調べ上げた本である。当時、欧米に滞在していた日本人はそれ以外の地域と違って移民ではなく外交官や学者、一流商社などのエリートばかりである。そして彼らは戦後も活躍し、日本の歴史に名を残す錚々たる顔ぶれだ。特に有名な人物を挙げると浅沼稲次郎、池田勇人、遠藤周作、岡本太郎、都留重人、鶴見俊輔、朝永振一郎、南原繁、早川雪洲、松尾邦之助、湯川秀樹、笠信太郎らがいる。

 第2次世界大戦と言っても時期によって欧亜渡航ルートに大きな変化が見られるのだが、ドイツ軍のポーランド侵攻の頃は、日本船によって割と普通にイギリスやフランスの港から帰国をしている。しかし独ソ戦が始まるとシベリア経由が不可能となり、意外なことにアメリカ経由での帰国が多くなる。そして日米開戦後は交換船による帰国がメインに。鶴見俊輔もその一人で、共著にて『日米交換船』という本を記している。その後はドイツ勢力圏であるバルカンやコーカサス、中立国であるトルコやアフガニスタンルートが採られる。こうした時期にブルガリアなどの枢軸国に駐在していた日本人のリストも大変興味深い。末期にはドイツの潜水艦により決死の覚悟で帰国するものも。ドイツ敗戦後は、抑留される国がアメリカとソ連で、その後の命運が分かれてしまう。欧亜の帰路ルートとその人名を紐解くことによって、日本の現代史と国際関係が別の視点から鮮やかに甦ってくる。

 著者は京都大学医学部卒で、日本を代表する呼吸疾患の専門医としても有名である。戦後の67年にニューヨークに留学する航路で、戦時中の日本人に思いを馳せたのがきっかけでこのテーマを探求し始めた。今は海外には簡単に行き来できるが、戦時中は命懸けだった。国際関係史ファン、国際交通マニア必読の書である。


エピローグ

 さていよいよ最後だ。ここで、冒頭で紹介した『ベスト珍書』に隠された二つの秘密を公開させていただこう。もし冒頭で気になって、秘密を解き明かそうとした奇特な方がいれば答えあわせをしていただきたい。

 まず一つ目、こちらは気づいた方もひょっとしていたかもしれない。18ページ、第1章「珍写真集」がはじまる直前のページに・・・

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ベスト珍書』自体が珍書なこれだけの理由

ハマザキカク

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コメント

HIRO_warruins 自分も以前読んだ。 1年以上前 replyretweetfavorite

HIRO_warruins これ読んだ!一番好きな戦争ネタは、戦時中欧州にいた邦人の話。関連書籍10冊近く読んだ。 2年以上前 replyretweetfavorite

consaba 珍という名目で紹介するのがはばかれる本1冊と、『ベスト珍書』に隠された2つの秘密を公開  3年以上前 replyretweetfavorite

hamazakikaku お硬い感じもする中央公論新社が 3年以上前 replyretweetfavorite