何者かになりたくて、気仙沼ニッティングをやってるわけじゃない

『気仙沼ニッティング物語 いいものを編む会社』を上梓した御手洗瑞子さんへのインタビュー。最終回は、編み手さんの面談の話から、「気仙沼ニッティング」の未来へと続いていきます。あまりの人気で生産が追いつかない気仙沼ニッティングを、さらに100年続く老舗にするために、いま進めていることとは。

「次の社長」のことは、常に考えている

— 『気仙沼ニッティング物語』を読んで、じっち(斉藤健一さん。御手洗さんが下宿している斉吉商店の会長)の方言の話や、編み手さんの子どもの頃のお話など、ちょっとしたエピソードがすごくおもしろいなと思ったんです。先日は、編み手さんの個人面談をされたんだとか?

御手洗 そうなんです。編み手さん一人ひとりの状況を把握するためにもすごく大事なことなんですけど、こちらの人生勉強にもなるんですよね。例えば仕事で大変な時、明るく前向きに乗り切っていく人と、しんどく感じてしまう人がいる。

— 本の中でも、編み方を1目でも間違えると全部ほどく、最終的に大きさが何%か違っていたらいちから編み直すこともある、と書かれていました。それはすごく心が折れてしまいそうです。

御手洗 そんなときも、「うわーほどかなきゃ。でもがんばっぺしね!」って楽しく乗り切れる人がいる。そこで、全員に話を聞いてみると、やはり家庭がすごく影響してると思ったんです。家族が健康で、仲がいい人って家庭の外でがんばる力も湧いてくるんですね。

— その面談の時に、編み手さんに「社長のお母さんはどんな人ですか」と聞かれたんだそうですね。

御手洗 あ、そうなんですよ。「社長に一つ質問があるんですけど、うかがっていいですか」と言うので、何かと思ったら、「社長のお母さんは、どんな人ですか?」って。「え、そこ?」と思いました(笑)。

— 会社の将来や待遇などではなくて(笑)。でも自分の家族の話をするのと、御手洗さんのお母さんの話が気になるというのは、同じことですよね。

御手洗 そうそう、同じです。そこから理解するんですよね。

— 御手洗さんの仕事の仕方や考え方などに、お母様の影響はあると思いますか?

御手洗 うーん、多少あるんじゃないでしょうか。まず、わりと行き当たりばったりで楽しそうに仕事をする母を見て、何事もそんなにかっちり考えなくていいんだと思うようになりました(笑)。あと、母に言われたことでひとつ、すごく覚えていることがあります。小学校で「将来何になりたいか」という課題が出たとき、考えてもよくわからなくて母に聞いたんです。そうしたら、「それは質問が悪いわね」という答えが返ってきました。

— おお……(笑)。

御手洗 小学生が知っている職業は非常に限られている、その中でどれがいいか選ぶのは意味がない、と。母がやっている仕事も学生の時には存在を知らなかったし、多くの仕事はそういうものなんだよ、と教えてくれました。そして、「中学・高校では、何になりたいかじゃなくて、どう生きていきたいかということを考えなさい」と言われたんです。いろいろな経験をして、自分の価値観を磨いていきなさいと。

— 非常に正しいですね。

御手洗 この話を聞いて、ずいぶん気が楽になりました。そして、ずっと「何かになりたい」という目標を持たずにいるのも、この母の話が影響してると思います。

— なるほど。

御手洗 よく、「この先何になりたくて、この仕事をやってるんですか」とか聞かれることがあるんですよ。でも、私はこの先の何かのために気仙沼ニッティングをやっているんじゃありません。気仙沼ニッティングがやりたいから、やってるんです。失礼しちゃうわ、と思って(笑)。

— 「これをやるべきだ」と思っているのではなく、「やりたい」からやってるんですね。私、そこはけっこう「やるべき」が大きいのかな、と思っていました。

御手洗 やるべき……そうですね、震災直後の東北では一時的なボランティアやチャリティーが多く、ここに持続する産業を育てていくべきだ、というのは「べき論」で思いました。でも、気仙沼ニッティングはやりたいからやっていますし、気仙沼に来たのはこの町が楽しそうだったから。それが決め手になっています。

— うん、うん。

御手洗 ボードゲームの盤上を眺めるような目線もあるんです。震災後の東北で、持続する産業をつくる必要があると思った。でも、私はただの一個人なので、私が盤上で自由に動かせる駒は自分一人だけ。だから、その駒を東北にポンと置く。そんな感じ。でも、それだけでは、決められなかったと思います。おもしろそうだ、楽しそうだという直感があったから気仙沼に来たし、いまも夢中になって仕事をできているんだと思います。

— 駒がひとつだと、フォーメーションを組んだりはできない。それが、会社になるともっと大きいことができるようになる、と考えて会社を始められた?

御手洗 うーん、会社は、「続く」ことが大事かなと思っています。人が入れ替わり、組織が変化しながらも、この気仙沼ニッティングという会社が続いていくって、すごくおもしろいことだと思うんです。細胞が入れ替わりながらも、ひとりの人間という個体が生きていくみたいに。1年前のうちの会社と2年前のうちの会社は、人も組織も違う。でも、ずっと「気仙沼ニッティング」というアイデンティティは保ち続けています。そういうところが、とても楽しいんです。それが会社にしたことの意味だし、可能性でもある。だから、個と一体化させないようにということは思っています。

— 「御手洗瑞子の気仙沼ニッティング」、にはしたくないと。

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震災後の気仙沼で編み物会社を起業。編み物で「世界のKESENNUMA」を目指し、100年続く会社をつくる奮闘記。

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大切に思える人の範囲—気仙沼ニッティング・御手洗瑞子インタビュー

御手洗瑞子

マッキンゼーのコンサルタントからブータンの首相フェローに転身。その後、2012年に震災後の宮城県・気仙沼市で編み物の事業を起ち上げた、御手洗瑞子さん。「気仙沼ニッティング」の奮闘の軌跡を綴った『気仙沼ニッティング物語〜いいものを編む会...もっと読む

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コメント

abgk この人素敵だなあ。 約4年前 replyretweetfavorite

megrittoujours すてき。読んでいてしみじみ。 |大切に思える人の範囲―― 気仙沼ニッティング・御手洗瑞子インタビュー|御手洗瑞子 @mtamaco |cakes(ケイクス) https://t.co/aQC570E9P6 4年以上前 replyretweetfavorite

hadukiafkk 読みました → 4年以上前 replyretweetfavorite

rengejibu すごいいい!「地方に仕事がない」理由も分かる⇒ 4年以上前 replyretweetfavorite