ナタリーは、ニュース工場である
唐木元(以下、唐木) この話、もうそろそろ外の人に話してもいいかなと思っていて。
加藤貞顕(以下、加藤) ぜひ、ぜひ。
唐木 おととしだったかな、ある新聞社から、ナタリーに事業提携の話があったんです。それでお話を伺ったんですけど、先方から渡された企画書に模式図が載っていて。こう、片側にビルの絵が描いてあって「○○新聞」って書き添えられてる。それで、もう一方のナタリーのところは煙突のついた三角屋根で。
加藤 三角屋根?
唐木 「ニュース工場」って書いてあったんです。
加藤 うわあ(笑)。
唐木 それ見た瞬間に、ぼくは短気だからムッとしてしまって(笑)。あなた方はホワイトカラーのジャーナリスト様で、こちら工場で我ら工員ですかい、そりゃ結構なことですなあ、と。まあお引き取りいただいたわけですけど。
加藤 ええ。
唐木 でも、晩になって落ち着いて考えたら、「あ、ニュース工場でいいんだ」と気づいて。
加藤 というと?
唐木 つまり、我々にとってライティングという行為はジャーナリズムでも自己表現でもなくて、プロダクトを生産してるんだと。工場での業務のように手順がはっきりしていて、それに従って組み立てれば間違いない文章が書ける。そんな記事をユーザーのために淡々と毎日生産していくのがナタリーじゃないか。いや、むしろそうあるべきだと思ったんです。
加藤 謙虚ですねえ(笑)。
唐木 だからこの本も、「70点の文章を、技術によって書けるようになる本」なんです。決して作家性豊かで芸術的な文章の書き方ではないということは、はじめのほうでちゃんと断っています。
加藤 そうですよね。文章はちゃんと意味が伝わるのがいちばん大事ですからね。まずはそこからですよね。
唐木 そうですね、あるレベルまではセンスはいらないと思います。もちろん、センスはあるに超したことはないですよ。でもメディア運営はチーム戦ですからね、センスある個人に頼らず、技術を使って70点の文章を書ける育成に注力したほうがいい。ただ……コピーライティングの領域だけはセンスだなあ、とは思います。
加藤 はいはい。キャッチコピーや見出しの類はセンスが出てしまいます。
唐木 だから新入社員でも、見出しだけはベテランよりうまい人が出てきます。ニュースの見出しって、それだけで1冊の本になるくらい難しいですよね。正しく書けば書くほどつまらなくなっちゃうし、おもしろく書こうとするとウソになってしまう。
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