加藤千恵(以下、加藤) お久しぶりです。初めてお会いしたのは、共通の友人の女性が主催してくださった……。
てれびのスキマ(以下、スキマ) そうそう! 3年ぐらい前の、テレビ好きが集まる飲み会。
加藤 なのでテレビバラエティ好きのお友達として仲良くさせていただいてます。
スキマ ホントに加藤さんは別け隔てない感じで接してくれて、ありがたいです。
加藤 最近スキマさんは色んなところでテレビコラムを書かれてますよね? ウェブだけでなく、雑誌の『テレビブロス』などでも。「ここにもスキマさんだぁ……」って感じで。
スキマ ありがとうございます。
加藤 ますますのご活躍でうらやましいです。
スキマ 僕はお会いする前から一方的に加藤さんのこと気になってたんです。枡野浩一さんが好きなので、彼の番組や著書で加藤さんの名前をお見かけして知って、『土曜の夜はケータイ短歌』シリーズ(NHK)とかも好きで。今は、「パトロン」※です。
※パトロン:『朝井リョウ&加藤千恵のオールナイトニッポンZERO』(ニッポン放送 金曜深夜3時〜)リスナーの愛称
加藤 すごくうれしいです。私のスキマさんの印象は、ご本人の人柄もそうだし、書く文章も全部「テレビ愛」にあふれてる。
スキマ 好きなことを好きって書いてるだけですけどね。
加藤 物事のマイナス面、特にテレビに関してだとそういうゴシップ的な部分を強調するほうがやりやすいのに。本当に根底に愛を持って書いてるから、「何て素晴らしいんだ!」って、いつも感動してます。たとえば、『ミレニアムズ』のこととか……。
スキマ (苦笑)。好みじゃない番組や企画についてはあんまり書かないだけで。
加藤 でも、それを書かないってすごいことだと思うんですよ。こういう仕事、テレビに関して思うことを発信されてる立場で、書いてることもそうだし、書かないっていうことも私はすごく尊敬するというか素敵なスタンスだなぁ、っていつも思ってます
スキマ ありがとうございます! 批判的なことを書くときは絶対ユーモアが必要じゃないですか。そうしないとただの悪口になっちゃうし、単純に読み物としておもしろくない。で、僕自身にユーモアセンスがまったくないんで書けないっていう。
加藤 え、そんな風に思ってるんですか?
スキマ できる方向性を探った結果、現在のようなスタイルになりました。
加藤 それはブログを書き始めたときから決めてたんですか?
スキマ そうですね、僕が書き始めた2004年頃は、テレビ番組のことは批判するものっていうのがネットの基本的なスタンスだったんで、逆に僕はいいことだけ書こうって。
伝説の番組『夢で逢えたら』
加藤 6月に刊行された本(『コントに捧げた内村光良の怒り』)は、ウッチャンナンチャンの内村光良さんの話がメインですよね。本の最初と最後を内村さんの章にする、っていうのはスキマさんが決められたことなんですか?
スキマ そうですね、2014年4月に有吉さんの(『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』)を出版した時点で、次にやるならウッチャンだと。
加藤 有吉さんとのバランス的なこともあるんですか?
スキマ いえ、そうではなくて、今の時代に取り上げるべき芸人さんは内村さんしかいないだろうと。
加藤 あとがきでも書かれていたように、スキマさんにとって内村さんは大きな存在なんですね。
スキマ はい。
加藤 もちろん、私も内村さんは小さいころから拝見してるんですけど、スキマさんほど影響を受けたり、熱中して見たっていうのがあんまりなくて。だから、ハマったきっかけを知りたいです。
スキマ 最初に内村さんをハッキリ意識したのは『夢逢え』です。でも、世代的には結構ギリギリなんですよ。
加藤 『夢で逢えたら』! 憧れがある番組なんですよ。ご覧になっていた方はみなさん言うじゃないですか、「伝説的な番組だった!」って。
スキマ 1978年生まれの僕の世代でやっと、最後にあたる時期をギリギリ見れたんです。内容自体はそんなに記憶がないんですけど、ウンナンにダウンタウン、清水ミチコ、野沢直子がレギュラーで、何だかカッコいいってイメージを記憶してます。初めてお笑い番組を見て「カッコいい」っていうのを意識した感じです。
加藤 覚えてるコントとかありますか?
スキマ 「いまどき下町物語」ってシチュエーションコメディが好きで、かろうじて覚えてますね。
加藤 全然イメージできないのが悔しい(笑)。
スキマ 浅草の根津の職人の家が舞台なんですよ。そこに出入りする松本人志さんが演じたヘビ人間の警察官が特にインパクトがあって。顔にヘビの鱗の模様がメイクでついてるキャラ。
加藤 うんうん。
—— ええと、浜ちゃん(浜田雅功)が一家の大黒柱の頑固オヤジ役をやっていたみたいですね。お母さん役は……
加藤 レギュラーの中で考えていくと、清水ミチコさん?
スキマ たしかそうです! 内村さんと松っちゃん演じるヘビ人間の警察官「ガララニョロロ」がいわゆるボケ役で。
加藤 二人とも蛇なんですか?
スキマ 村さんはヘビ人間とかじゃなく、普通の意地汚い感じのおじさんですね。で、居候的立場で浜ちゃん一家に邪険にされるっていう。本でも触れましたが、この村さんのキャラクターが内村さんがキャラクターコントに目覚めたきっかけだっていうふうに言ってますね。
加藤 今聞いてて、私、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)がすごく好きで育ったので、『トカゲのおっさん』のコントを思い出しました。ヘビとトカゲって共通するし、ダウンタウンにとっては原点なのかな。
スキマ そういう趣向はあるかもしれませんね。
ウッチャンは本音を出さない
加藤 本でも触れられている、ウッチャンナンチャンが土曜8時に進出した『やるならやらねば!』の特別感はなんですか?
スキマ 『やるやら!』はわかりやすさで、ちょうど子どもの頃の気持ちにがっつりハマってたっていう感じです。
加藤 私も「ナンチャンを探せ!」をけっこう覚えてて。看板と同化して隠れてる南原さんをクイズ形式で探す、子どもが純粋に見て楽しめるシンプルな笑いですよね。
スキマ 本当ですよね。
加藤 内村さんをテレビで拝見してても、温厚な印象がずっとありました。だから、この本を読むまで、怒るイメージが想像できていなかったんで、スタッフさんにキレたりするんだ、ってすごく新鮮です。
スキマ ウッチャンってテレビや雑誌のインタビューだと、真っ当すぎる受け答えをすることが多くて、ハッキリ言っちゃうと「つまらない」(笑)。あんまり本音を出さないから。それが美学なんでしょうけど。
加藤 うん。
スキマ でも、その反面、共演者から語られるウッチャンはすごく魅力的で。怒ったときのことも、内村さんご自身はほとんど話に出さないんですけど、周りのタレントさんやスタッフさんがいろいろ証言していて。その逸話を集めるのはきっとおもしろいんじゃないだろうかと。なので、表題作は『内村光良の怒り』として書き下ろしたんです。
加藤 スキマさんのウッチャンのイメージはどうだったんですか?
スキマ やっぱり温厚でニコニコしてる。小中学生の頃の僕にとって親しみやすい存在でした。
加藤 ダウンタウンって怖いイメージあるじゃないですか。だからウッチャンナンチャン、中でも特にウッチャンが優しそうみたいな対比で見てたかも。たしか『笑っていいとも!』も同じ時期にレギュラーでしたね、当時。
スキマ 僕はその後、中学生になるといわゆる松本信者みたいになるので、ウッチャンからは離れるんですよね、一時的に。だから『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(日本テレビ系)はほとんど見てなくて。
加藤 私もちょっとポケビを見ていたとかそれくらいですね、そんなには通ってないです。「芸能人社交ダンス部」もチラっと見たかな?
『内P』とオードリーの共通点
スキマ ウッチャンってファンからすると“うしろめたくない”っていうか、離れた時期があっても全然受け入れてくれる。ほかの芸人さんやミュージシャンだと見ない時期があると罪悪感みたいなものを味わうことが多いんですけど、ウッチャンに関してはまったく感じない。
加藤 何かわかる気がする。今おっしゃった松本信者=松本さんのファンだと「え、じゃあアレ見てるよね?」って反応されそう。でもウッチャンファンはなさそう。ご本人の穏やかさをファンの方々も持ってそうですね。では、いわゆる松本信者から、内村さんに戻ったのは何かきっかけがあったんですか?
スキマ 『内村プロデュース』(テレビ朝日系、以下『内P』)ですね。
加藤 あー、そっかそっか!
スキマ ご覧になってました?
加藤 毎回欠かさずではないですけど、タイミングが合えば見ていて、温泉企画が好きでした。
スキマ 温泉での「だるまさんが転んだ」とか最高でした。「玉職人」とか、とにかくくだらなくて(笑)。
加藤 懐かしいですね。
スキマ 『内P』って芸人さん同士が番組の中で、仲が良いところを見せていいっていうスタンスの最初の番組なんじゃないかなと思ってて。それまでの番組はライバル同士って感じで良くも悪くもどこか緊張感があったけど、『内P』には嫌なギスギス感がないというか。
加藤 そういう番組の元祖なのかも。
スキマ 『ボキャ天』は実際は仲良いのかもしれないけど、番組上では戦う相手って感じだったので。
—— 番組の形式もランキングがあって、一位を目指して芸人さんが戦うっていうものでした。
加藤 『ボキャ天』は今になって爆笑問題さんのラジオ『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ、以下、カーボーイ)とかで、当時の楽屋での交流を知れる。確かに『内P』は表も裏もそのまま続いてる感じ。
スキマ そういう「部室感」がとても好きで。『ボキャ天』にも『内P』にも優勝を目指すところが共通してますけど、『内P』の優勝はあんまり重要じゃない。
加藤 おもしろくなくてもポイントを獲得できることもあったり(笑)。
スキマ それでいて、大喜利としてはすごいレベルが高い。
加藤 確かにあれだけ仲が良くっても、グダグダにはなってない、部屋めちゃくちゃにする企画でも、根底にお互いの信頼感があるから。
スキマ 僕、テレビの企画で部屋ぐちゃぐちゃにするのすごい苦手で……。でも『内P』だと不思議と楽しめて。
加藤 ちょっと話ずれちゃうんですけど、『オードリーのまんざいたのしい』のDVDの特典映像で、若林さんが春日さんをパジェロでひきかけたシーンがとても好きなんですよ。春日さんの体力が本物なのか試すっていう。
スキマ ええ。あれ最高ですよね(笑)。
加藤 それって多分、春日さんと若林さんの間に強い信頼関係があるからなんですよ。それが透けて見えるっていうか、無理してるとわかるなって思うんですよね。『内P』とも共通してる。
スキマ そうですね。
加藤 本当に嫌なことはしないし、みんなそれぞれのラインを把握してる。中心に内村さんがいるからこそ成立する関係性ですよね。
スキマ うん。
加藤 オードリーは、若林さんが本当に無表情でひくんですよね。ためらわずにアクセル踏み込むんです。
スキマ かなりのスピードで(笑)。
加藤 結構激しいですよ。パジェロの上に帽子乗せて帽子取るとか綱引きするとかいう企画なんですが、とにかく若林さんの無表情がめっちゃおもしろくて。学生時代からやってきたからこそできるんだろうなって。
スキマ 学生時代から「春日チャレンジ」※みたいなことやってたらしいですからね(笑)。彼らにも「部室感」を感じます。
※『とんぱちオードリー』(フジテレビ)の企画。「並走している自転車に飛び乗ることができるか」など春日が体を張った無茶なチャレンジをする。
つづく
構成:小島研一
【cakes特別掲載中!】温厚に見える内村光良が心の奥底に秘める怒りとは? 「テレビっ子」視点で描写するエンターテイナーたちの生き様!!
『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』
28歳の私が人生のその時々に選んできた「点」は正解だったのだろうか……。リアルな心情描写が胸を打つ長編小説。