続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方

内村光良の怒り。【後編】

1985年にウッチャンナンチャンとしてデビューして以来、芸能界の第一線で活躍し続けるウッチャンこと内村光良さん。デビュー30周年の節目に「第三の全盛期」を迎えたウッチャンの知られざる姿を、多くの証言や資料を元に解き明かしていきます。
てれびのスキマさんがてれびのスキマ(戸部田誠)さんが、テレビっ子視点で描写するエンターテイナー評伝集第2弾『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方 』より、内村光良編をお届けします。

目立たないけどモテる奴

 自分の情熱を映画ばかりに注いだためか、クラスメイトが受験に力を向け始めても、内村は大学を受ける気持ちにはなれなかった。そんな折に、たまたま見かけた本に載った案内に目が止まった。それが「横浜放送映画専門学院」の紹介だった。講師陣のひとりに『日曜洋画劇場』(テレビ朝日系)で毎週見ている淀川長治が名を連ねているのが決め手だった。

「よし、ここに行こう」

 即決だった。

「日本の映画界を変えてやろう」、そんな意気込みで入学したが、学校では内村はいわば落ちこぼれ。

「ちょっと可哀想なぐらいでしたね」と南原は振り返る。「演技の授業では、最初に演出家の先生が役を振るんですよ。Aグループは目立つ感じの奴で……」「内村はBグループの一二番手ぐらいでした(笑)。役も一言言って去るような」(※3)

 目立っていたのは南原や、のちに一緒に劇団SHA・LA・LAを立ち上げる入江雅人や出川哲朗だった。内村を学生時代から「チェン」と呼ぶ出川も同様の印象を語っている。

「チェンは学校ではまったく目立たない、正直、華のない男で、芝居でも端役ばかりだった」と。だが、一方で「女のコにはなぜかすごくモテました。『ウッチャン、ウッチャン』って、女のコがよくお弁当作ってきたりして。華はないけど可愛らしいんですね」(※7)

 2駅ぶんを走って通学していた内村は、昼休みにもみんなが食事に誘うと、「オレ金ないからいい。走ってる」と言い残し、教室で走っていた。するとそれを見た女生徒が「ウッチャン、可哀想」と翌日お弁当を持ってくるのだ。

 のちに勝俣州和は「母性本能をくすぐるというのを常に頭の中で考えている」(※8)と内村を評したが、このころから既にそうだったのかもしれない。

 だから出川にとって学生時代の内村の印象は「目立たないけどモテる奴」(※7)だった。

 そんな内村が唯一目立ったのが2年次春から始まった漫才の授業。

「とりあえず誰でもいいから、組むように」という講師の指示で、内村が組んだのは女性ふたりとのトリオだった。だが、ほどなくして解消。困った内村の前に現れたのが南原だった。南原は当初、入江雅人とコンビを組んでいた。だが、ともにクラスで1・2を争う人気者同士。両方が目立とうとして上手くいかずあえなく解散。

 特別発表会には内海桂子・好江やマセキ芸能社の社長らが見にくるため、参加が義務づけられていた。結局、内村と南原ははぐれ者同士で運命的にコンビを組んだのだった。

「ネタもできてないのに、女子と消えるとは何事だ!」(※3)

 発表会の前日、内村は怒りに打ち震えていた。

 南原が稽古もせずに女の子と遊びに行ってしまったのだ。怒りをエネルギーにして書き上げたのが「素晴らしきイングリッシュの世界」というコント。漫才の授業だからほかの学生たちは当然漫才をやったが、彼らだけはコントを演じたのだ。

 内海好江はそのコントを見て「新しいパターンだ」(※3)と絶賛した。

 ウッチャンナンチャンの誕生である。

冬の時代

「もうあっちの人にはなれないんだな」(※9)

 内村はプロの芸人として初舞台を踏んだその日、新宿の街を行き交う人々を劇場の階段の上から見下ろしながら、少し後悔した。日曜の夕暮れ、カップルたちは楽しそうに笑い合いながら歩いていた。

 何とかして売れなければ。一刻も早く周囲に認めてもらわなければ。

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てれびのスキマ(戸部田誠)

1985年にウッチャンナンチャンとしてデビューして以来、芸能界の第一線で活躍し続ける内村光良。デビュー30周年の節目に「第三の全盛期」を迎えたウッチャンの知られざる姿を、多くの証言や資料を元に解き明かしていきます。てれびのスキマ(戸部...もっと読む

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notei |てれびのスキマ https://t.co/Kw70mQy1rP ”発表会の前日、内村は怒りに打ち震えていた。  南原が稽古もせずに女の子と遊びに行ってしまったのだ。怒りをエネルギーにして書き上げたのが「素晴らしきイングリッシュの世界」というコント。” 2年以上前 replyretweetfavorite

u5u 【告知】こちらも前回の続きです。試し読み的に是非。続きは本書で! 5年弱前 replyretweetfavorite

u5u こちらも前回の続きです。試し読み的に是非。続きは本書で! 5年弱前 replyretweetfavorite