続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方

香取慎吾の笑顔と嘘【後編】

「SMAP」と言えば、もはや国民的人気アイドルグループですが、実はジャニーズ史上初、デビューCDで1位を獲れなかったことをご存知ですか? 彼らがその後バラエティやドラマで人気を博し、今日に至るまでには、想像を超える数々の苦労がありました。てれびのスキマ(戸部田誠)さんが、テレビっ子視点で描写するエンターテイナー評伝集第2弾『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方 』の発売を記念して、本書未収録の香取慎吾編をお届けします。

ガラガラのコンサート会場

「衝撃的に、鼻をへし折られた」(注6)と香取は振り返る。

 1階のアリーナ席は半分くらいしか埋まっていなかった。さらに2階席には客がわずか二人。その二人のファンはSMAPがステージ上を右に左に移動するのと併せて、スタンド席を走り回り「キャー!」と手を振っていた。「そのファンの子には申し訳ないけど屈辱でしたよ」(注1)と中居は振り返る。

 香取がよく覚えているのはそんな屈辱的なコンサート中の風景よりも、その幕が開く前の情景だという。

「幕が開く前の、チャラチャラした雰囲気のほうをすごい覚えてて。眠いなー、今日も眠いなって。幕開く1分前とかで。はぁ~ってやってる時の状況の方がすごい覚えてて。それが開いたとたんにお客さん半分くらいしか入ってなくて、それがこうなんかすごいリセットされて。なんかどっかその、年齢が若くても、あれ、このままじゃいけないのかって思いになったのは覚えてますね」(注6)

 他のジャニーズの先輩アイドルに比べてCDは売れない。けれど人気はある。そう思い込んでいた自分たちの甘さに気づかざるを得なかった。

「最初の何年かは、『一生懸命』『必死』『本気』は持ってなかったかもしれない。『ジャニーズです』『僕らデビューしました』と言っても、売れなくて、『どうしてだ?』っていう、クエスチョンマークだらけの日々でした。コンサートをやっても、会場にお客さんが入らない。
 いまも鮮明に覚えてます。最初は僕らもそれこそ幕が開く寸前まで伸びきった感じでした。本番直前まで爆睡していて、起きて『今日もライブか』みたいな感じ。んで、幕が開いたら、お客さんがだれもいなかったんですね。そのときに『あれ、こりゃおかしなことになってるなー』と気づいて、そのへんからずっと一生懸命、走ってるんじゃないですかね」(注8)

 当時、歌番組はほとんどなくなっていたため、SMAPはドラマやバラエティに活路を見出していた。いわゆる「ドラマ班」は木村拓哉、稲垣吾郎、森且行、「バラエティー班」は中居正広、香取慎吾、草彅剛。彼らはふた手に別れそれぞれの分野で活躍し始めていった。

「バラエティー班」にとって大きな転機は中居正広と香取慎吾の『笑っていいとも!』(フジテレビ)レギュラー抜擢だった。当初は同じ曜日のレギュラーだったため、中居は香取を遅刻させないよう前日から自分の家に泊めていたという。そこで、中居は「アイドル」としての哲学を香取に叩き込んだ。
 だから、中居は「いざとなったときに、SMAPを任せられるのは、慎吾」と語っているほど香取に対する信頼は篤い。「(自分と)似てるとこあるじゃん。んで、物事に対してこう引いて見られるじゃん。引いて見ることができるタイプだと思うのね。客観的に見れんじゃん、SMAPのことも客観的に見れるし自分のことも客観視できたりする」(注10)とその理由を挙げる。実際に香取は、当初中居が務めていたコンサートの演出を現在は任せられている。

「どっち考える? 自分がやりたいことをやってますっていうライブを見てもらうのと、自分はもしかしてこれ、あれかなー、面白くないけどもお客さんが求めてんならこれやろうっていうタイプと」と中居が尋ねると香取は「お客さんだねぇ」と即答している。「だってそのためにやってる」と(注10)。その答えを聞いて中居は我が意を得たりとでもいうかのように微笑んだ。

 いわば、香取慎吾は中居イズムが作り出した“アイドルマシーン”だ。

 だから、普通ならば逡巡してしまうような『西遊記』の孫悟空、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉、『忍者ハットリくん』の服部カンゾウ、慎吾ママといった「キャラもの」も躊躇なく演じてきた。

「ああいうの(キャラもの)は『自分』じゃないですしね。でもコントとお芝居は一緒な気がしてて、僕は別に違いはないと思う。全部、一緒ですね。カニ蔵とダニー・オーシャンは同じです。(演じるということにおいて)別に違いはないから。慎吾ママもそう。(略)『キャラものでずっとロケとかやってるの、すごくキツくないですか?』って言われるけど、全然キツくないですよね。もう別物として、自分はその時間を生きてるから」(注9)

 香取は「自分のなかで、SMAPを“仕事”として捉えている部分はすごくあります」と語るように、ある種ドライに自らの立ち位置を客観視している。「ただ、100%仕事と思いながらも『香取慎吾』という個人もそこに同時に存在する不思議な感覚、というのが正直な気持ちです。自分が“この世界でしか生きられない生き物”であると自覚したうえで、やっぱりSMAPは僕にとって天職だと思いますし、その気持は年を重ねるにつれてますます強くなっています」(注7)

 ともすれば、感情がないようにすら見える。“生まれつき”笑顔であるかのように、いつだって「笑顔」が仮面のように貼り付いている。香取にとって自分の感情をさらけ出すよりも、何かのキャラになってその役に身を捧げ、見ている人たちに奉仕することのほうがある意味で「楽」なのだろう。

「本気でやんなきゃいけないんですけど、真面目にやったら駄目なんですよ。失敗しそうでも本気でそこに向かう。でも、『真面目か?』と言ったら、違う。バラエティー的に『これはやっちゃいけない』からやらない、じゃ駄目だし。『やっちゃいけない』けど、本気で立ち向かっていったら面白かったり。そのルールブックはあると思う。一見なさそうな感じもするけど、あると思う。ただ常に更新されていくんです」(注9)

「タモリ」と「笑っていいとも!」の存在

 確かに香取はいつだって「本気」だった。けれど、そこに「本音」を覗かせることはほとんどなかった。

 そんな香取のすべてを肯定してくれたのがタモリだった。

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続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方

てれびのスキマ(戸部田誠)

1985年にウッチャンナンチャンとしてデビューして以来、芸能界の第一線で活躍し続ける内村光良。デビュー30周年の節目に「第三の全盛期」を迎えたウッチャンの知られざる姿を、多くの証言や資料を元に解き明かしていきます。てれびのスキマ(戸部...もっと読む

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コメント

sanukimichiru 過去記事なので有料会員しか読めんかもしれんが、 演じるってことと生活ってことを考えること 大変。懊悩。 約3年前 replyretweetfavorite

mamiuwaterize https://t.co/lSe0XZFafq 約3年前 replyretweetfavorite

show_jp 極限まで自分(自我)を押し殺して人生のほとんどを仕事し続けてきた結果、マシーンと化してしまった香取君に、解散いたしますって言わせざるを得ないほど追い込んだってことでしょ。。。 >> 約3年前 replyretweetfavorite

u5u 「SMAPっていうものを知ってる人たちが、いてくれるんですね。その人たちと、会えたら、つらく苦しい状況の人たちでも、一瞬笑顔になれると。この、一瞬の笑顔のために、僕ら20年やってきた」 約3年前 replyretweetfavorite