山本耕史との出会い
「なんて嘘くさい笑顔をする子なんだろう」
三谷幸喜は香取慎吾を初めてテレビで見た時の印象を「鮮明に覚えている」と言って、そう述懐した。(注1)
そんな香取は三谷幸喜が脚本を務める『合い言葉は勇気』、『HR』(ともにフジテレビ)の主演に起用される。そして三谷は2004年、自身が脚本を務める大河ドラマ『新選組!』(NHK)の主演・近藤勇役に抜擢した。
その『新選組!』で芹沢鴨役の佐藤浩市は香取について「頑なな人なんですよ。非常に臆病なのかどうなのかわからないんだけど,人に対する距離感というものがあんまりうまく詰められるタイプじゃないな、決して人と一緒にいることを得手としてないな、というのが(『新選組!』での)最初の印象」(注2)と語っている。
しかし、香取は『新選組!』の撮影を通して大きく変わっていった。
佐藤は副長・土方歳三役の山本耕史に「おい、あいつ大丈夫か? お前、腹心役なんだから、なんとかしろよ」と囁いたという(注3)。
「僕、芸能人の友だちってホントにいないんです。ゼロ。そういって全然オッケーなくらいゼロ」「ケータイの番号教えてないんです、だれにも。これもほぼゼロ」(注4)と語る通り、香取はスタッフはもちろん、共演者にも一定の壁を作っていた。それが香取にとっては自分を守る術だったのだ。
それをこじ開けたのが山本だった。
「彼はここ十何年も、仕事現場の人と連絡先を交換したことがないし、いっしょにご飯を食べに行ったこともないんですって。『じゃあ、目標はそれだ』と」(注5)決意し、「携帯電話の番号教えてくれよ」としつこく香取に迫った。それでも“壁”を崩そうとしない香取から、半ば“盗む”形で電話番号を獲得したのだ。それに観念したのか、香取は『新選組!』出演者で開催される飲み会に参加するようになった。
「しばらくしたら、ちゃんと座長になってた。言い方悪いかもしれないけど、“ただ真ん中にいるだけの人”じゃなくなった」(注3)と佐藤は振り返る。
今でも香取は『新選組!』メンバーで毎年のように開かれる忘年会に参加している。それは香取にとって極めて異例のことだ。「僕の中では、山本耕史に出会えたことがすごく大きい」(注3)と言う。
「香取君って、ぎりぎりのバランスで建ってる建物みたいなもので、ぼく(山本)はそれをこじ開けて入っていこうとしてたんです。だから、最終的には、建物は半分くらい崩れちゃったかもしれないけど、ぼくはそのほうが風通しがよくていい家だと思いますね」(注5)
そうやって無理矢理にでもこじあけない限り開かないほどの強固な壁を香取は作ってきたのだ。
SMAPが解散したら、僕は誰になるんだろう?
「なんだか今がもうわけがわからない。これはどこ? ドキュメント? リアル? なにこれは? 誰かー!」
2014年の『武器はテレビ。』と題された『FNS27時間テレビ』の終盤の「未定」と名付けられた企画で香取慎吾はそう叫んだ。「5人でなにをしても自由」と放り込まれた椅子と机だけが用意された部屋に放り込まれたSMAP。体力を消耗された中、もはや、自分たちがテレビに映し出されているのか、それが放送されているのかさえ曖昧になって、“トゥルーマン・ショー”に迷いこんでいるかのようだった。
「解散」について赤裸々に話す香取に対して中居正広は「そのチャックは開けたくなかった」と振り返った。中居にとってその部分はアイドルという“きぐるみ”を維持するためのギリギリのライン、すなわち“チャック”だったのだ。それに対し「チャックは開けてなくても透けて見えたりするもの」と稲垣吾郎は言う。一方で香取は「チャックとか考えたことない」と語るのだ。「別にチャックがあってそれで隠してるとか開けられるとか、そういうんじゃないから」
思えば、香取慎吾は子どもの頃からそんな世界にいた。「ここ以外の世界を知らないです」と香取は言う。そして「SMAPの解散」をテーマにしたフェイクドキュメント風ドラマでつぶやいた。
「SMAPがなくなっちゃうなら、僕は誰になるんだろう……?」
果たして香取慎吾にとってなにがリアルでなにが嘘なのだろうか。