NewsPicks佐々木紀彦「テクノロジーがない伝統企業は、行き詰まるだろうと考えていた」​

cakes3周年シリーズインタビュー企画「メディアビジネスの未来」。初回は、ビジネスパーソンから絶大な支持をあつめる、経済情報に特化した会員制ニュースアプリNewsPicks編集長の佐々木紀彦さんをお迎えしました。
前編では、佐々木さんが『東洋経済オンライン』編集長時代に実行したこと3つ、そしてNewsPicksに移籍した理由についてお聞きします。佐々木さんが考えるメディアが勝利するための秘訣「プラティシャー」とは何なのでしょうか?

東洋経済オンラインで実行した3つのこと

加藤貞顕(以下、加藤) 今日はcakesの3周年企画として、「メディアビジネスの未来」と題して、どうやってネットでメディアが稼いだらいいのか、というお話を聞きたくて、お時間いただきました。

佐々木紀彦(以下、佐々木) 直球のテーマですね(笑)。よろしくお願いします。


株式会社ニューズピックス 取締役/編集長 佐々木紀彦

加藤 これまでインターネットのメディアは、どちらかというとIT系の人たちが中心になってつくられてきたと思います。しかし、最近になってメディア系にいた人たちがネットの世界に移り住みだして、いろいろなビジネスモデルをつくりはじめています。
 佐々木さんは、その代表ともいえるかただと思うので、今日はいろいろ聞かせてください。

佐々木 はい。なんでも聞いてください。

加藤 ありがとうございます。佐々木さんといえば、東洋経済オンラインの編集長だったイメージが強くあります。まずは簡単に前職について伺いたいのですが、もともと東洋経済にずっといらっしゃったんですか。

佐々木 はい。23歳のときに東洋経済に新卒で入社して、最初の4年間は『週刊東洋経済』の記者として自動車業界とIT・ネット業界をそれぞれ担当していました。ずっと紙の雑誌の編集をして、最後の1年半ぐらい東洋経済オンラインの編集に携わりました。

加藤 実際にかかわったのはその1年半だけなんですか?

佐々木 1年半だけです。でもDNAは紙ですね。紙大好き人間なんです。

加藤 で、その後、オンラインメディアの「東洋経済オンライン」ですよね。ここには、どうして配属されたんですか?

佐々木 自分で「行きたい」と言ったんです。当時は「日経ビジネスオンライン」と「ダイヤモンドオンライン」が2強で、東洋経済オンラインは「何とかしないといけない」という感じでした。それなら「ああ、やってみたいな」と。東洋経済オンラインはあまり人気がなかったとはいえ、30代前半で編集長をやらせてくれるというのはけっこう異例だったと思います。

加藤 佐々木さんが編集長に就任後、東洋経済オンラインのページビュー(PV)が一気に上がりましたが、具体的にはどんなことを?

佐々木 三つあります。一つは若い年代にターゲットを絞ること。
 それまでネット媒体は紙の雑誌のおまけだったので、紙と同じ層を狙っていました。要するに40〜50代のビジネスマン、会社で管理職をしているような人。でも、ダイヤモンドオンラインも日経ビジネスオンラインも同じ層を狙っていたので、それでは勝てない。そこで一気に年代を下げて、紙と違う層、30代のビジネスパーソンを狙うことにしました。

加藤 記事の内容ごと変えてしまったんですね。

佐々木 二つ目は、紙の雑誌からの転載をやめて、オリジナルのコンテンツを作るようにしたこと。東洋経済オンラインは編集者が3〜4人しかいなかったので、コンテンツを増やすために外部のライターの方たちを巻き込むような編集モデルにシフトしていきました。

加藤 一つ目と二つ目はクリエイティブに関する変更ですね。もう一つは何でしょう?

佐々木 三つ目がオープン化することです。Yahoo! とかGoogleとか、あらゆるプラットフォームに記事を配信してもらうという戦略に変えました。ユーザー登録も不要にしてしまいました。とにかく多くの人に読んでもらえるように方針を変えたということですね。

加藤 それでページビューが伸びたんですね。ビジネス面ではいかがでしたか?

佐々木 ビジネス面も広告売上が上がっていって、今はかなり好調だと思います。PVは、私のときにも上がりはじめていますが、その後に(現職の)山田俊浩編集長がさらに大きく伸ばして、今は月間1億PVを超えたと聞いています。広告もさらに伸びているでしょう。

加藤 基本的にPVを伸ばして広告を伸ばすという考えだったんですね。

IT業界にコンテンツ業界のカルチャーを持ち込む方が早いと思った

加藤 その後、東洋経済をお辞めになってNewsPicksに移ってくるわけですが、これはどうしてですか?

佐々木 とにかく新しいビジネスモデル、新しいコンテンツの作り方と新しいマネタイズの方法を探さなければいけないと考えていました。これからのメディアは半分ネット企業なので、自社にテクノロジーがない伝統企業はどこかで行き詰まるだろうと考えていたんです。そこで社長の梅田(優祐氏)と目指すところが一致したのが大きかったですね。

加藤 なるほど。

佐々木 コンテンツ側にITを持ってくるよりも、ITがあるところにコンテンツのカルチャーを持ち込む方が時間がかからないと思ったんです。古い出版社などのコンテンツ企業にITのカルチャーを持ち込むのって本当に難しいじゃないですか。

加藤 それはやっぱり、難しいですよね。

佐々木 テクノロジーのあるところに、ゼロからコンテンツのカルチャーを植え込んだ方が早いと思ったんです。

加藤 あくまでもコンテンツをビジネスの上で成り立つ仕組みを作るのに、現在の会社の方がいいと思ったということですね。

佐々木 伝統メディアも今後適応していくと思いますが、いままさに変革期なので、適応を待っている間に自分が年を取ってしまったら一生後悔すると思っていました。

プラットフォーム、ソーシャル、パブリッシャーを持つメディア

加藤 そもそもNewsPicksは、さまざまなサイトのニュースをピッカーと呼ばれる識者の方が、その名のとおり、ピックアップしてコメントするというサービスでしたよね。オリジナルの記事は、現在どれぐらいつくっているんですか?

佐々木 一日に10から15本くらいですね。先週は多くて、一日に20本くらい。普通は15本ぐらいなんで、週に80本ぐらいが平均ですね。

加藤 今は編集は何人ぐらいでやっているんですか?

佐々木 デザイナーやインターンなど全部合わせると、編集系で20名弱です。デザイナーが4名、校正も3名ぐらいいるので、純粋な編集者は10名もいないですね。デザイナーは図版を作ったり、あとサイト自体のUX(ユーザーエクスペリエンス)をデザインしています。あと、ビジネス側のテクノロジーのエンジニアが15人ぐらい、広告営業や広告制作が5人ぐらい。NewsPicksとしては合計50名くらいですね。

加藤 編集だけで10名もいるなんてすごいですね。

佐々木 いや、まだ少ないと思ってます。手が回らない状況ですよ(笑)。

加藤 佐々木さんがNewsPicksでやっていることを簡単に教えていただけますか?

佐々木 私がやっていることは、コンテンツをつくることです。そこにつきますね。NewsPicksには三つのアイデンティティがあります。一つ目はプラットフォーム。これはニアリーイコール、キュレーションですね。ここはSmartNewsとかGunosyなどと同じです。(ホワイトボードのそばに立って)書きましょうか。

加藤 ぜひお願いします。


プラットフォーム(≒キュレーション)、ソーシャル(インフルエンサー)、メディア(コンテンツ)

佐々木 二番目がソーシャル。インフルエンサーをはじめ、いろいろな人たちがコメントできます。この機能はNewsPicksが始まったときからありました。ここだけでもけっこうイノベーティブですが、この二つだけではどこかで行き詰まる。
 そこで、三番目としてオリジナルコンテンツことが必要になってくる。つまりメディア、パブリッシャーとしての部分です。ここを立ち上げるのが私の役目ですね。

加藤 うん、うん。

佐々木 プラットフォーム、ソーシャル、パブリッシャー。今、この三つの機能を持っているメディアは世界広しと言えども、ほとんどありません。KADOKAWA DWANGOのニコニコ動画はこの三つを持っていると思います。ハフィントン・ポストも近いですね。世界でこれをやっているのは、ニコニコとハフィントンと我々だけだと思っています。プラットフォームとパブリッシャーを合わせた「プラティシャー」という言葉がアメリカで少し流行っていましたが、日本では流行らなかったんですよね。

加藤 あまり語呂がよくないですよね(笑)。

佐々木 でも、プラティシャーこそ勝利の秘訣なんです。私は東洋経済のときから言っていて、梅田も同じことを思っていたんです。だから一緒にやろうということになったんです。


次回へつづく

構成:大山くまお

佐々木紀彦(ささき・のりひこ)

1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社に入社し記者として活躍。2007年9月より2年間休職し、スタンフォード大学大学院で修士号(国際政治経済専攻)を取得する。帰国後は『週刊東洋経済』編集部で「非ネイティブの英語術」などのヒット企画を担当した後、2012年に『東洋経済オンライン』編集長に就任。最高で月間5500万PVを叩き出す人気メディアに育て上げる。著書『5年後、メディアは稼げるか?』(東洋経済新報社)も話題に。2014年7月、ユーザベースに電撃移籍し、『NewsPicks』編集長に就任。

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インターネットによって、さまざまな業態が変化する2015年のいま。メディアの形とビジネスの仕組みは、どのように変わるのか。cakesの3周年企画として、未来のメディアビジネスの形をつくろうとしているみなさんにお話を伺いました。シリーズ...もっと読む

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コメント

apollocky 2年前の記事だけど。 約1年前 replyretweetfavorite

leeyongsoo 哲学のある企業と哲学のない企業 #fav https://t.co/XC4HZKOtLB 2年弱前 replyretweetfavorite

ForzaYuto プラットフォーム、ソーシャル、パブリッシャー。 2年以上前 replyretweetfavorite

abekeisuke1976 “「テクノロジーがない伝統企業は、行き詰まるだろうと考えていた」​ 2年以上前 replyretweetfavorite