「ママ友の世界はね、女子高みたいなの」
今をときめく女性誌『VERY』の看板モデル、クリスウェブ 佳子はため息をもらした。
大学卒業後はバイヤー、プレスとしてファッション業界で活躍、25歳の時にイギリス人の超イケダン(イケてるダンナ)と結婚。2人の娘を出産して家庭に入った。けれど、その美貌と才覚を世が放っておくはずもなく。バイリンガルを活かして翻訳や音楽ライターの仕事をしているうちに、編集部にスカウトされて読者モデルに——。
美人でオシャレなだけじゃない。連載コラムで、社会情勢や政治を子育てとからめて語れる文才は、読者の憧れの的。誌面では、『クリスウェブ佳子のお尻生活』という特集で、美しいお尻のヌードを披露したり、つい最近は“主婦の日常の悩み”をテーマに、ミスチルの櫻井和寿さんと堂々と対談もしたりしていた。私よりも年下なのにずっと大人に感じる。
でも、ママ友の話となると話は別だ。
「子供のためを思って、ランチ会に出席したり、グループLINEにも入ってはいるけれど……。互いにけん制し合ったり、ありきたりな自慢話を聞くのは面倒よね。
うまく振る舞っているつもりでも、FaceBookで『イイね!』を押してくれないって遠まわしに文句言われちゃう(笑)」
やれやれ、ホント女子高生みたい。みんな人の目線を気にしすぎ! 私は、息苦しかったセーラー服の感触を思い出していた。
……クリスウェブ 佳子さん、妄想話に勝手にお名前出してごめんなさい! さっきのセリフももちろん妄想です。 VERYを飽くるほど眺めているうちにどんどん好きになって、いつのまにか脳内の妄想親友になっていました。実際に、佳子さんがママ友づき合いに悩んでいるかはわからないけれど、この息苦しさはわかってくれると思う。
だって、雑誌『VERY』は、ママ友づき合いの悩みにあふれている。ママ同士のつき合いは、子を持った女性にとって、学校、会社、に続く、第三の社会なのだから。
家庭という“基盤”のない女は、脆く、意地悪で、醜い?
1990年代、自立したキャリア女性が称賛を浴び始めた頃、仕事をしていない主婦たちが執拗に非難される専業主婦論争が巻き起こっていた。(1998年『ふざけるな 専業主婦』石原里紗著 など)
その最中、1995年に創刊した『VERY』は、“公園デビュー”“シロガネーゼ”などの流行語を生み出して、専業主婦は価値ある存在であることを宣言。妻や母の座を手に入れた女の強者だからこそ、ますます輝いて、女の幸せを謳歌しようというライフスタイルを提案してきた。
『VERY』本誌自体のキャッチコピーは、「基盤のある女は、強く、優しく、美しい」である。企画内容やそこに登場するモデルやスタッフは全員、子供がいる。名前の後に自分の年齢ではなく(3歳の女の子ママ)などというクレジットがついていることからも、“基盤”の意味は明らかだ。家庭、つまり夫と子供のことである。
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