第1回】音楽産業は崩壊するか

CD誕生から30年たった2012年。14年ぶりにCD販売額は前年を上回りそうだが、同時に後年振り返れば「CD終焉の年」として記憶されているかもしれない。

 音楽産業とラジオ局は、かつて蜜月の関係にあった。ラジオ番組から生まれたヒット曲は数知れず。レコード会社はラジオ局の広告枠を買い、その見返りに新曲を紹介してもらう。日頃から、レコード会社のベテラン社員は、ラジオ局に入り浸っていた。

 それも今や、昔の話。この数年でリストラによりレコード会社の正社員は減った。代わりに契約社員が訪ねてくるようになったという。「レコード会社の社員は、番組の内容を知り尽くしていたから、あうんの呼吸で進められた。それが、契約社員は早くて3カ月で交代してしまう。どこのレコード会社も似たような状況だ」。

 それもそのはずだろう。1998年におよそ6000億円だった日本のCD市場は、今日では3分の1近くにまで縮小し、世界の音楽市場も12年間で4割も減った。世界の5大レコード会社は三つへと集約され、米国の音楽家の3割が失業の憂き目に遭っている。

 日本でピークだった98年には、100万枚以上売れたシングルCDが20タイトルもあったが、その後激減(表参照)。にもかかわらず、中堅も合わせれば、名の知れたレコード会社は10近くもある。

 限られたパイを多くの会社で奪うゆがみはどこかに必ず生まれる。むろん、レコード会社自身も人員削減などを続けているが、市場縮小のしわ寄せは、制作現場を直撃している。制作のコストや期間は圧縮され、大手録音スタジオが次々に閉鎖に追い込まれた。

 それはそのまま、次の作品の音質の低下という形で表れるから、再び、CD販売の不振につながる。この負のスパイラルに、「もうやってられない」と、インターネットなどで音楽家をやめる宣言をするアーティストも登場し始めた。

 ほんの数年前まで業界全体が、CD市場の縮小を、ネットによる音楽配信がカバーするはずという淡い期待を抱いていた。

 大手レコード会社が株主となり立ち上げた会社レコチョクが運営する「着うた」は、「日本企業によるプラットホーム」という、他のコンテンツ産業には類を見ない成功例になりかけた。携帯電話で音楽を購入できる利便性が支持され、携帯電話向け配信市場は一時、約800億円にまで膨れたのだ。

 ところが、「着うた」が対応していた従来型の携帯電話、いわゆる「ガラケー」は急速に「スマートフォン」と呼ばれる高機能端末に取って代わられた。そのため、急減の憂き目に遭っている。

 2012年は、そんな惨状に一筋の光明が見えるかに思えた。14年ぶりにCD販売枚数が前年比でプラスを記録するというのだ。しかし、背景を知れば安穏としてはいられない。

 現在、CD販売の上位に位置するアイドルのファンは、CDに付属する握手会などのイベントのチケットを手に入れるために、1人で数十枚もCDを購入する。これが売り上げ枚数のかさ上げにつながっている。

 加えて、12年は桑田佳祐や山下達郎、松任谷由実などのベテラン勢のアルバムの発売が偶然重なったが、そうした大物アーティストのアルバムは「13年は玉切れ(発売予定がない)」(大手レコード会社首脳)というのが業界の一致した見方。長期低落は免れない。

既得権にこだわった
大手レコード会社

 はたして、この惨状を生んだ犯人は誰なのか。

 スマートフォンの普及や、レコード会社の利益が少ないAppleの音楽配信iTunes、無料動画配信のYouTubeなど、原因を外部に求める声がある。特に違法ダウンロードは、業界関係者からはA級戦犯扱いされている。

 さらに、「200円ちょっとでCDからパソコンにコピーができるのだから、違法ダウンロードよりたちが悪い」とレンタルCD業者を敵視する声も業界では大きい。

 むろん、これらすべてが複合的に影響しているのだろう。しかし、最大の戦犯はレコード会社自身といえる。既存の権益、収益構造を守ろうとするあまり、リスナーの利便性を奪ってきたからだ。

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