「人工知能が実装される時代には、恐らく知識の学習は、学校ではやっていないのではないか。『知識学習は家でやっておいてください』ということになっていると思う。しかも、学校が朝から午後3時ぐらいまでやっているのかどうかも、分からない」
こう話すのは、大規模オンライン講座「受験サプリ」や「学習サプリ」を手がけるリクルートマーケティングパートナーズ社長の山口文洋氏だ。
山口氏は「今後15~30年先を見た場合、家でコンピューター(人工知能)に向かって、その人が身に付けてほしい知識をその人のペースに合わせて身に付けさせてくれるようになる。もし学校があるとしたら、知恵をみんなで生み出す訓練の場になっているのではないか。仕事はみんなで知恵を出し合うこと。だから答えのない中、自分で考えて自分で判断することが必要になってくる。そして多くの人を巻き込んでコミュニケートし、何かを動かしていく。こうしたクセを、学校で身に付けさせるようになるのではないか。人間と人工知能との正しい関係性を作る場も必要になってくるので、学校がその役割を担っていく」と、人工知能社会における教育について展望する。
「人工知能社会では知識の学習から知恵の学習に移行する」と見るリクルートマーケティングパートナーズの山口文洋社長
知識の教育から知恵の教育へ
2021年度に東京大学合格を目指す人工知能プロジェクト「東ロボくん」のリーダー、国立情報学研究所教授の新井紀子氏は、「人工知能社会で求められるのは、自分の知恵を使ったり、人工知能を使いこなしたりして問題を解決できる人材だ。学校は、問題解決できる人材を育成する組織になっていく。そうしないと、人工知能と差異化できなくなる」と明確に言っている(関連記事「人工知能の受験偏差値は?」)。
人工知能ができることは人工知能に任せる。人間は人工知能ができない「状況の判断」や「筋道理解」で力を発揮すればいい。だから、こうしたことが得意な人材を育成することがより重要になるわけだ。すなわち、学校が知識を教育する場から知恵を教育する場へ大きく変わっていく。
今の教育は知識偏重と言える。学校にいる時間も、放課後の塾や家にいる時間も、やることは知識の習得だけ。山口氏は「今後5年かけて学校での知識習得時間を減らし、知恵を養う時間を増やしたい」と言う。
そのためには、学校以外の場でいかに効率的に知識を習得するかが重要になってくる。そこでリクルートマーケティングパートナーズでは、大規模オンライン講座で取得しているビッグデータを活用し、学習の最適化に取り組んでいる。思考力や判断力、表現力を1人ひとりの理解度に合わせて学ぶアダプティブラーニングを導入していくうえで、まずは学習体系の最適化を進めている。
具体的には、今の学問体系の壁を取っ払おうとしている。英語、国語、社会、数学、物理、化学などの教科は、バラバラに独立して教えているが、実はそれぞれの科目は関連している。まずは「英語・国語・社会」と「数学・物理・化学」というそれぞれのグループで体系化を図り、最終的に全科目を関連させていく計画だ。
続いて学習理解における人工知能の活用を進める。例えば、学習に行き詰まっている生徒に、どこに戻って学習し直したほうがいいのか、レコメンドするサービスを受験サプリに実装する(図1)。
図1 生徒に最適なラーニングパスを提供する
次に学習経験、つまり学習者の学習パターンから未来を予測したり、効率的な学習時間を提案したりする。通学時間や家にいる時間にどんな科目を勉強したらいいのか、学習したほうがいい問題を提案できるようにする(図2)。例えば、1人ひとりに「Aさんは学校に行く前の時間を有効活用して、社会の暗記授業の動画を見てみよう」とか、「Bさんは休日の午前中に数学の確認テストを集中的に行って、自分自身の状態を把握しよう」といった提案を行う。
図2 生徒の学習サイクルを解析し、最適な学習時間・学習体験を提供する
最終的には、評価指標の体系を最適化する「学習能力アセスメント」にアプローチする。すなわち、問題の難易度を変えながら学習者の理解度を向上させて、最終的に合格点を取れるようにするのだ。全国一律、点数一律の現行テストから、教科や分類別に評価するテストに移行。さらには個々人に合わせたテストに切り替えて、最終的にその問題を自動生成するテストを実施する。
今後は、学校以外の場でその人に必要な知識を効率良く習得させる仕組みの導入が進む。学校では知識の学習に使う時間を徐々に減らしていずれゼロにし、思考力や判断力、表現力を養うアダプティブラーニングに力を入れるようになる。
これまで、人工知能社会における教育がどう変わっていくのか、求められる人材に焦点を当てて見てきた。では、仕事そのものはどうなっていくのか、人間の仕事は人工知能に置き換わっていくのだろうか。
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